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アーカイブ

 バラエティ収録を終えた翌日も、

 マンションの外には記者が残っていた。


 エントランスの前には、

 カメラを構えた人影が見える。


 凛はカーテンを閉め、

 ソファへ座り込んだ。


 テレビは消している。


 スマートフォンも、

 ほとんど触っていなかった。


 昨日の収録を思い出す。


 笑っていた。


 ちゃんと返していた。


 テレビの中では、

 何事もなかったみたいに。


 その時、

 インターホンが鳴った。


「……はい」


『彩。開けて』


 彩はコンビニ袋を提げたまま、

 部屋へ入ってきた。


「外やばい。記者増えてる」


 靴を脱ぎながら、

 小さく息を吐く。


「……朝の情報番組で、昨日の収録もう流れてたよ」


 凛は答えなかった。


 彩もそれ以上、

 何も言わない。


 そのまま冷蔵庫を開け、

 勝手にペットボトルを入れ始めた。


「……少し顔色戻った?」


 凛は曖昧に笑う。


「分かんない」


 彩は少しだけ凛を見る。


 何か言いかけて、

 やめた。


――


 昼過ぎ。


 彩に半ば無理やり連れ出され、

 帽子を深く被り、

 サングラスを掛けたまま、

 二人で近くのスーパーへ向かった。


 帰り際、

 一階の集合ポストを覗く。


 凛がポストを開ける。


 チラシ。


 事務所からの書類。


 その下に、

 茶封筒が入っていた。


 差出人はない。


 凛の手が止まる。


「……何?」


 彩が横から覗き込む。


「分かんない」


 封筒は薄かった。


 名前も、

 住所も書かれていない。


 ただ、

 凛の部屋番号だけが印字されている。


 嫌な感じがした。


 それでも、

 凛は封筒を取り出した。


――


 部屋へ戻る。


 テーブルの上へ封筒を置いたまま、

 しばらく誰も触らなかった。


「……開ける?」


 彩が聞く。


 凛は少し迷ったあと、

 ゆっくり封を切った。


 中には、

 USBメモリだけが入っていた。


「怖……」


 彩が顔をしかめる。


「何これ」


 凛は答えなかった。


 無言でノートパソコンを開く。


 USBメモリを差し込む。


 保存されていた動画は、

 一件だけだった。


 再生する。


 少し荒い映像。


 木の壁。


 暖色の照明。


 テーブルの上に、

 空いた缶ビールが並んでいる。


 ――黒崎の別荘だった。


 凛の呼吸が止まる。


 次の瞬間、

 カメラが未央自身へ向いた。


『撮ってまーす。クランクアップ記念』


 未央が笑っていた。


 凛の指先が止まる。


 六年前と同じ声だった。


『未央、顔赤い』


 若い凛の声が聞こえる。


『だって今日で終わりだよ?』


 未央が笑う。


 カメラが揺れる。


 黒崎がソファへ深く座り、

 酒を飲みながら笑っていた。


『お前、絶対売れるな』


『ほんとですか?』


 未央が照れたように笑う。


『社長、酔ってるだけじゃないですか』


 若い凛の声だった。


 カメラを避けるみたいに、

 久保田が手を上げる。


『だから撮るなって』


『記念ですー』


 動画の中の空気は、

 ただ穏やかだった。


 クランクアップの夜。


 別荘。


 まだ売れる前の役者達。


 誰も、

 まだ何も失っていない。


「……これだけ?」


 彩が呟く。


 凛は画面から目を離せなかった。


 未央の笑い声だけが、

 静かな部屋へ流れている。


『絶対売れるから。見てて』


 未央がカメラへ向かって笑う。


 凛はそこで動画を止めた。


 部屋が静かになる。


 画面には、

 笑いかけた未央の顔が止まっていた。


「これ……誰が送ってきたの?」


 彩が小さく聞く。


 凛はすぐに答えられなかった。


 画面の中の未央は、

 まだ生きていた。


「……未央のスマホだ」


「え?」


「これ、

 未央が撮ってる」


 彩が息を止める。


 凛は画面を見つめたまま、

 小さく呟いた。


「……なんで、今さら」


 止まった画面の中で、

 未央だけが笑っていた。

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