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 最終話:【日常】家賃一万円、ときどき怪異。


 あの大騒動から一ヶ月が経った。

 私の四畳半の城は、今ではすっかり元通り――いや、以前よりも少しだけ「普通」になった。壁を覆っていたアルミホイルは剥がされ、天井から吊るされていた謎の盛り塩トラップも撤去した。

 窓を開ければ、湿ったカビの匂いではなく、近所の家が夕飯に焼いている魚の香りが入り込んでくる。


「……ふぅ。やっぱり、これが一番落ち着く」


 私は、リサイクルショップで三千円で買った中古のノートパソコンを開いた。もちろん、今度はあのアカウントがいないことを確認済みの、清廉潔白なネットの海に繋がっている。

 ふと、お気に入り登録していた「オカルト・都市伝説掲示板」に目が止まる。一瞬、指が止まったけれど、私は迷わず「削除(ブックマーク解除)」を押し、代わりに「特売情報・チラシアプリ」を登録した。


 ネットの知識に頼るのは、もうおしまい。

 あの時、泥だらけのジャガイモでマサトを追い払った瞬間に、私は気づいたのだ。あちら側の理屈システムで戦っているうちは、いつまでもあちら側の住人から逃げられない。

 幽霊や呪いをねじ伏せるのは、立派な呪文でも魔法の杖でもない。今日を必死に生きる人間の、生々しいまでの「生活の重み」なんだって。


 トントン、とドアを叩く音がした。


「奈美ー! 入るよー!」


 返事をする前に、鍵のかかっていないドアが勢いよく開く。もはや私のプライバシーという概念を完全に破壊し尽くした女、京子だ。彼女は今日、いつになく真剣な……というか、キラキラした顔をしていた。


「ねぇ奈美! これ見てよ!」

「……嫌な予感しかしない。何、今度はどこの幽霊ビル? それとも呪いのビデオ?」

「失礼だなぁ。ほら、これだよ、これ!」


 京子が突き出したのは、一枚の古びた……いや、ひどくお洒落なデザインのパンフレットだった。


『学生起業支援プロジェクト:あなたの特技で街を元気に!』


「……何これ」

「奈美の浄霊の実績をまとめて、ビジネスプランとして提出したの! 名前はね、『生活密着型・お悩み解決清掃局』! 掃除と称して、ついでに怪異も物理的に片付けちゃう専門業者。これなら、奈美の『生活感で叩く』スタイルがそのまま仕事になるよ!」


「……死んでも嫌よ。私は普通の女子大生として平和に卒業して、普通の会社に就職するの」

「えー、もったいない! 沙織さんや美月先輩からも、ぜひ奈美を推薦したいって連絡来てるんだよ? あ、あと教授が『研究室の整理整頓(浄霊込)』を、月額制で依頼したいって!」


 私は頭を抱えた。


 どうやら、私の周囲には「平和」という文字は存在しないらしい。

 けれど、以前のように「怖い、どうしよう」と震えることはなかった。


「……京子。その起業の話は保留だけど、教授の依頼は受けてあげてもいいわよ。ただし、時給は最低賃金の三倍。あと、掃除道具の経費は全額教授持ち。もちろん、ファブリーズじゃなくて『ガチの業務用洗剤』を使うから」


「やった! 交渉成立だね!」


 京子がガッツポーズをする。

 私はそんな彼女を横目に、窓の外を眺めた。

 夕闇が迫る街並み。その影のどこかに、まだあのマサトのような存在や、理不尽な怪異が潜んでいるのかもしれない。

 でも、もしまた何かが私の部屋のドアを叩いても、私はもう、ネットの掲示板を検索したりはしない。


 手元にある、使い古した雑巾と、お気に入りの洗剤。

 そして、明日を生きるための、図太い根性。

 それさえあれば、家賃一万円のこの城は、誰にも崩せない。


「……あ、そうだ奈美。一つ言い忘れてた」


 京子が帰りがけに、ふと思い出したように言った。


「今日、アパートのポストに、また『赤い封筒』入ってたよ? でも、今度は色が薄いっていうか……ピンク色だったけど」


「……はぁ?」


 私は玄関まで走り、ポストを覗いた。

 そこには確かに、一枚の封筒が入っていた。けれど、それは呪いの封筒ではなく、沙織さんからの手書きの手紙だった。


『奈美さん、今度、私の田舎で採れたリンゴを送るね。……あ、あと。マサトの男、警察で「自分の罪を全部告白した」って。もう大丈夫だよ。』


 私は、その手紙を胸に抱き、ふっと笑った。

 赤い封筒が、ただの「赤い紙」に戻る日。

 呪いが、ただの「人の想い」に浄化される日。


「……よし。リンゴが届いたら、京子にも分けてあげるから。その代わり、アップルパイの作り方、ネットじゃなくてお母さんに聞いてきてよね」

「任せといて! ……あ、でも奈美、そのリンゴの箱の中に、もし『お札』とか入ってたらどうする?」

「……その時は、全力で返品するに決まってるでしょ!!」


 ボロアパートに響き渡る、私の怒鳴り声。

 夕闇の向こうから、冷たい風が吹いてきたけれど、私の部屋の炬燵こたつは、今日も相変わらず、少しだけ騒がしくて、温かかった。

 家賃一万円。 ちょっと普通じゃない、普通の女子大生、奈美。

 彼女の戦いは、これからも「掃除」と「生活」という名の日常の中で続いていく。


 ――完――



 この作品は、以前に書きかけたまま長年放置されていた物を、試しで「AI」に続きを書いてもらった作品です。一話の中盤以降は「AI」による作品です。わずか20秒ほどで、私のオリジナルよりも素敵な作品を書いてくれました。私が読んでみて面白かったので、皆様にもと思い、ここに掲載させていただきました。後、番外編が四話ほどあるのですが、このまま掲載しても良いものか迷っています……

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