見せてやろう。エリート暴食家の別格の出店捌きを
魔界のとある小さな街を小柄な少女が歩いていた。彼女はベルゼ・カルネ……異世界からやってきた存在であり、公爵級特殊生物と認定されている存在で、いちおうトリニィアにおいては魔族にあたる。
そんな彼女が街中を歩いている理由は、簡単に言えば備品の買い出しである。第一食糧庫に入れておいた巨大なハムが消失するという、非常に痛ましくも回避困難な事故が発生し、その発生要因……もといつまみ食い犯のベルゼは、罰として日用品の買い出しを命じられていた。
これは致し方ない。暴食の魔力が勝手にやってしまったこととはいえ、責任はベルゼにあるのだから罰は甘んじて受けなければならない……じゃないと、快人に連絡が行ってそっちに叱られる。
そんなわけでベルゼは真面目に日用品の買い出しを行い、あとは帰るだけとなったのだが……そこで肉の焼ける香りが漂ってきたとあっては、そちらに足を向けぬわけにはいかないだろう。
仕方がない。これは完全に必然、避けることのできない運命、お肉の匂いがしたら様子を見に行くというのは、誰しもの遺伝子に刻まれたカルマともいえる不可避の条件反射である。
そんな風に考えつつベルゼが匂いの元にやってくると、そこは大きめの広場であり……広場内にずらりと様々な出店が並んでいた。
一見するとまるで祭りの様な光景ではあるが、それなりに年季の入った出店が多く、昨日今日に用意されたという感じではないので……この公園自体が出店広場とでも呼べる場所なのだろうと推測できた。
……なるほど素晴らしい香りだ。串焼き、たこ焼き、焼きそば、焼きもろこし、イカ焼き、定番のものは一通り揃っているし、珍しい出店などもあった。
この匂い、雰囲気、洗練されている……綺麗に整った飲食店街よりもっと鋭角的な食欲に訴えてくる雰囲気。ココは食事をする場所であり、居並ぶ出店はプロフェッショナルであると、そんな誇りすら感じる空気だった。
なるほど、これだけの雰囲気を出されては……こちらも食べねば、無作法というものである。
ベルゼは静かに出店広場に足を踏み入れつつもしっかりと思考を巡らせる。彼女はかつてのような手当たり次第にすべてを喰らい尽すような暴食の化身ではない。快人と出会い、学び、死王配下としての日々も過ごし確かな経験と共に成長してきた存在である。
故にそう、加減して食べることも当然できる。仮にベルゼがその気になってもぐもぐタイムを開始すれば、この程度の広さと数など一分で完食可能だが、それをしてはいけない。
ベルゼは美味しいものが好きだ。美味しいものを食べるのが好きだ。だからこそ、他者が美味しいものを食べる機会を奪うことも可能な限りしない。
つまり、しっかりとセーブして食べる気であり……そんなベルゼはまず串焼きの出店の前にやってきた。串焼きはシンプルかつ定番の出店グルメであり、ここは肉串……漂ってくる焼けたお肉の香りはまさに暴力的であり、出店広場プチもぐもぐタイムのスタートとしてはこれ以上ない。
「いらっしゃい! お嬢ちゃん、ウチの串焼きは美味いよ。よければどうだい?」
頭にタオルを巻いた快活な雰囲気の女性店主が近付いてきたベルゼに声をかけてくる。それに対してにっこりと微笑みを浮かべたあとで、ベルゼは笑顔で注文をする。
「とりあえず……百本ください」
「はいよ! 百本……ひゃっぽ……百?」
あまり食べ過ぎずに控えめに、自画自賛にはなるがベルゼにとっては完璧に食欲をコントロールした、控えめ注文であった。
もちろん、告げられた店主の方は唖然とした表情を浮かべて、確認するように聞き返す。
「……お嬢ちゃん? いや、注文とあれば作るがね……うちの串焼きはほれ、一本でもかなりのボリュームだよ。百本なんて、大丈夫なのかい?」
この店の肉串は一本十Rと串焼きとしてはそこそこ高めだが、その分肉も分厚く巨大で、一本で普通の人なら十分お腹が満たされるであろう大型サイズだった。
「……やっぱり五百……い、いや、駄目だ。私は我慢できる子、控えめに食べれる子……百本で大丈夫」
「が、がまん? 控えめ? ……お嬢ちゃん、見かけによらずかなり食べるのかい?」
「大丈夫! ちゃんと他のお客さんのことも考えて、数は控えめで抑えるから! あ、これお代」
「……お、おぅ……銀貨一枚確かに……じゃ、とりあえず、いま焼けてる十五本を先に渡しとくよ。残りはいまから焼くからちょっと待ってくれ」
戸惑いつつもお金を受け取ったからには用意するのが店を構えるものの義務であり、女性店主は先に焼けている十五本をベルゼに渡してから新しい串を焼き始める。
「ん~美味しい! グランブルの肉かな? 歯応えのある赤身と濃い目のタレの相性が最高だね!」
「ははは、そうだろう! ウチの串焼きは一級ひ……あの、お嬢ちゃん? 串は食べ物じゃないんだが……」
「串もいい木を使ってて美味しい!」
「……そ、そうかい……ま、まぁ、お嬢ちゃんが大丈夫なら……」
視線を向けてみるとそこには美味しそうに串ごと串焼きを食べているベルゼの姿があり、店主は明らかに戸惑ったような表情を浮かべていたが、ベルゼは気にする様子もなく美味しそうに串焼きを食べている。
串焼きの串は、燃えにくい素材の木で作った一般的な串焼き用の串であり、回収して再利用するようなものではないので食べること自体は構わないのだが……なんとも言えない光景だった。
そして、あと……さっきまで手に持ってた残りの十四本の串はどこに消えた?
そんな未知の存在を見るような思いでベルゼを見ていた店主だが、直後に鋭い表情に変わって広場の入り口の方を見た。
「……チッ、また来やがったかあの連中」
「うん?」
「ああいや、くだらない嫌がらせをしてくるタマの小さいチンピラ共が来たってだけだよ。悪いけど、少し騒がしくなるかもしれないよ。だがまぁ、安心しな、この広場の連中は皆強いからね」
そういってニッと不敵な笑みを浮かべる店主をみて、ベルゼは静かに思考を巡らせる。ベルゼは賢い生き物であり、状況を察知することだって当然できる。
女性店主の発言やチンピラたちの様子から、この出店広場に店を構えている者たちとなんらかの理由で揉めている集団だということは推測できた。
騒がしくなるという言葉から、なんらかのアクションが起こる可能性もある……そうなれば、この広場に居る一般客たちはこの場を離れるだろうし、そうすれば出店の売り上げは減る。なるほど、だからこそくだらない嫌がらせというわけか……。
……客足が減る……それはつまり……もうちょっと食べてもいいのでは?
ベルゼの輝かしい頭脳と食欲は、そんな結論に辿り着こうとしていた。
~ちょっと解説~
【プチもぐもぐタイム】
ベルゼちゃんはちゃんと我慢のできる子であり、セーブして食べることもできる。とりあえず全出店で百個ずつという控え目な注文にどとめるつもりだが……最後の出来事で、もうちょっと行けるのでは? とそんなことも考えている。なお、現在保護者及びストッパー不在である。




