↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
むつら☆ぼし  作者: 灯台


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/100

閑話・旅の薬師



 イルネス様との出会いを経て、私は医者か薬師になろうと考えた。その時点ではどちらというのは決めておらず、己の出が届かないほどに多くの人を救いたいと願うならそのどちらかの職が適していると思ったからだ。

 どちらの知識も必要ではあるため、医者としての勉強も薬師としての勉強も行った。

最終的に薬師を選んだのは、そちらの方に適性が強かったから……というよりは、私の持つ魔眼の適性がそちらに向いていたからだった。


 その性質に気付いたのは六王や爵位級という制度が広まり、悪名高かった魔族たちが幻王様によって始末され、魔界に秩序が生まれた後だった。

それまでからは考えられないほど平和になり、いい意味で日々に余裕ができたことで勉強や鍛錬に力を入れることができた。

 イルネス様への憧れもあった。いずれ材料などを自分で調達する時に備えるという理由もあった。なにをするにせよある程度の力は必要だろうと鍛錬もしっかり行った。


 幸いと言うべきか私には才能があった様でメキメキと力を付けることができたのだが、その過程でただの隔世遺伝の一種だと思っていた右目が魔眼であることに気が付いた。

 この魔眼を、私は『抽出の魔眼』と呼んでいる。対象の物体から特定の成分のみを抜き出すことができる魔眼であり、生物には使用できないが薬作りには非常に役立つ魔眼だった。

 もっとも、この魔眼に鑑定の様な機能は無いので、私が対象の物質を構成している成分を知らなければ抽出できないため使用にはしっかりとした知識が必要ではあったが、ものによってはいくつかの工程を省くことができるので非常に有用と言えため、これも一種の才能と考えて薬師となることを決めた。


 私が生まれ育った街を出て、魔界を旅するようになったのは救済者としてのイルネス様の噂がすっかり聞こえてこなくなってからだ。あの強いイルネス様に限って万が一があったとは考えにくく、噂が聞こえてこなくなったのは単純にイルネス様が救う必要がある相手が減ったからだろう。

 少し寂しさは感じたが、イルネス様が救済者としてあちこちで人を救う必要のないほどに魔界は平和になったのだと思えば、むしろそれはいいことのように感じられた。


 各地に足を運んで様々な病気や薬を見て学び、時には辺境や未開の地に素材を集めに足を運んだりと、薬師として慌ただしくも充実した日々を過ごしていると、ある時に偶然イルネス様と再会することができた。

 イルネス様は薬師となった私の選択を尊重してくれつつ、改めて「私を目標にしてはいけない」と忠告をしてくれた。


 イルネス様がそういった理由は理解できる。私は己を救ってくれたイルネス様に憧れている……だが、私の夢はイルネス様の背を追った先には無い。

 極端な言い方をしてしまえば、イルネス様は割り切っているとでもいうべきだろうか? 手の届く範囲に救える相手が居て、己に救う力があるなら救う。

だが、手の届かないところまで無理に手を伸ばすつもりもなく……あくまで個人で救える範囲を救うというある意味で己ひとりで完結しているのだと思う。


 それは決して悪いことではなく、心から素晴らしいと思う。己の手の届く範囲の相手を救う、口にするのは簡単でもそれを実行し、実際に多くの人を救っているのは心から尊敬できるし憧れる。

 だが、私は……自分で手の届かない相手も救いたい。だからこそ、私は憧れのイルネス様とは別の道を歩かなければならない。

 私の夢は個の力を突き詰めた先には無い……だからこそ、この時のイルネス様の言葉はしっかりと己の心に刻んだ。


 そんな話をして、イルネス様と分かれた。歩く道は違うが、それでもまたこうして巡り合える日は来るだろうと、その時を楽しみにしながら……ま、まぁ、次に再会した時に、メイドになって人界の屋敷に務めていたのは……正直びっくりしたが……なんだか、以前より生き生きとしているように見えたので、いい道を歩いているのだろうと、そう感じた。



****



 転機というのは誰しも幾度か訪れるものだ。私が幼少の頃イルネス様と巡り合って薬師を目指したように、その後の日々においても己を生き方を大きく変えるかもしれない選択肢が目の前に現れる機会はあった。

 例えば、アレは……トレントの種族病である斑点病の治療薬を開発したときのことだった。


 トレント族にはある特定の年齢帯において、体に黒い斑点が現れ酷く衰弱するという種族病があった。命にかかわるものではないのだが、数年かけて自然治癒する以外に治療方法が無く、その間ずっと倦怠感を感じ続けるというような病気だった。

 これは、トレントが成長期に陥る一種の成長痛の様なもので、避けられないものであり治療することは不可能と長年されてきたのだが……とある岩石の体を持つ種族のために薬を作った際に、斑点病を治療できるかもしれない薬を思いついたので、実際に試させてもらえないかと森林都市ユグフレシスを訪れた。


 その頃には私も魔界でそれなりに名の知れた薬師となっており、ユグフレシスを治める界王リリウッド様は、快く私の協力してくれ、おかげで無事に斑点病の治療薬は完成し、一般の薬師でも制作手順を正しく行えば問題なく製薬できることも確認した。

 それを持って私の目的は達したので、あとは論文を書いて薬学会に発表して、再び旅に戻ろうと思っていたのだが……その際にリリウッド様から誘いを受けた。


『貴女は本当に素晴らしい薬師ですし、目指す夢も心から称賛できるものだと感じています。貴女さえよければ、ウチの陣営に加わりませんか? いまよりもいろいろと融通が利くようになると思いますし、私も微力ながら貴女の夢に力添えをします』

「……とてもありがたいお話ですし、それだけ評価していただいたのは嬉しく思います。ですが、申し訳ありません。いまはどこかに所属する気は無いので、せっかくのお誘いですがお断りさせていただきます」

『そうですか、残念ですが無理強いはできませんね。また、なにか私に協力ができることがあれば、気軽に訪ねてきてください。その時は、力になることを約束します』

「ありがとうございます」


 リリウッド様は非常に好感の持てる優しい御方だったし、界王配下の方々にも薬作りの際にいろいろ協力してもらった。結果としてかなり仲良くなれた相手もいるし、リリウッド様の勧誘は惹かれる部分が無いと言えば嘘になる。


 だが、なぜだろうか? 言語化するのは難しいのだが、心の奥が魂が……「ここは違う」とそう言っているような気がして、ありがたい話ではあったが断らせてもらった。

 どこかの陣営に所属すること自体を避けているというわけではない。私の夢を考えれば協力してくれる人は多い方がいいとも思うのだが……心になにか引っかかるものがあって、どこかの陣営に属したり、どこかの街に店を構えたりということはせずに旅の薬師を続けていた。


 結果として、この時の選択は間違いではなかった。この時の誘いからおよそ三千年ほど後ではあったが……私は魔界の極北の地で、帰るべき場所と……心から仕えたいと願う王に巡り合ったのだから……。



~ちょっと解説~

【ルーシーへの勧誘】

魔界屈指の薬師として有名であり、性格も非常に善良であるため、割とあちこちの陣営から勧誘を受けており、界王陣営以外でも、医学面で交流があったフィーアから冥王陣営に、旅の途中で知り合ったエインガナから竜王陣営に、物は試しということでアリスから幻王陣営にと……戦王陣営以外の陣営に、人界の三国とあちこちから勧誘を受けていたがすべて断っていた。

(戦王陣営にも仲の良い相手はいるのだが、ルーシーが戦いを好まない性格のためあえて勧誘していない)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
超絶美少女の陣営を断ったのは、まあ察する
更新お疲れ様です! ルーシーさんイルネスさんの言葉をしっかりと覚えて自分の道を見つけて歩む様子が良いな メイドの容姿はいきなりは驚くだろうなw 次も楽しみに待ってます!
戦王陣営で仲が良かったのは…イルネス繋がりでオズマかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。