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むつら☆ぼし  作者: 灯台


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閑話・憧れと進む道



 幼い頃の体験や決意が後の己の在り方を決定付けるというのは、よくあることだと言えるだろう。私にとっての転換期も幼少の頃にあり、それは憧れや目標という形で長い年月を生きたいまでも心に残り続けている。

 いまでこそ子爵級高位魔族という特別ないし天才と呼んでいいような立場になっているが、昔の私はなにも特別な要素などなく、後に魔界でも才能に恵まれた一握りが到達できる強者になると言っても、本人ですら信じなかっただろうさ。


 私が生まれた当時にはまだ六王や爵位級高位魔族という、現在の魔界では当たり前といえる要素は存在しなかった。当時の魔界は戦乱が非常に多く、連日のようにどこかしらで勢力同士の衝突が発生したような殺伐とした世界だった。

 私が生まれたのは主に弱い種族たちが身を護るために集まって共同生活を送る……多種多様な種族が集まり、交配を重ねながら共同生活を送って発展してきた小さめの街であり、私自身の種族は不明……というよりは、いろいろな血が混じり過ぎていてよく分からず、単純に混血と呼ばれていた分類だ。


 私の特徴ともいえる右目の魔眼も、後に魔眼と分かるまでは単に隔世遺伝かなにかで変わった色合いの目をしているだけと認識されていた程度の……なんというか平凡な生まれだった。

 私が生まれた街は当時の魔界としては珍しく比較的平和な町だった。いや、平和と言うと語弊があるかもしれない……拮抗した複数の戦力が睨み合う地点にあったため、いずれの戦力も迂闊に手を出せないという意味合いでいちおう平和ではあった。


 まぁ、理由はなんにせよ幼少期の私はそれなりに健やかに育つことができたと思う。


 転機となったのは両親が未知の病で死に、私も同じ病気を発症した事だった。いまはもう解明され、特定の組み合わせて八種以上の種族の血が混じっている場合に発症する混血特有の遺伝病の一種であり、適切な投薬で治療が可能だが、当時は年齢や性別も関係なく唐突に発症する未知で不治の病であった。

 幸い感染するような病気でないことは知られていたため、近所の人たちが世話をしてくれたが、日に日に状態は悪化し私自身も、己の命は長くないと悟っていた。


「……もう~大丈夫ですよぉ」


 だが、私の病は偶然街を訪れた旅の魔族によって簡単に治癒された。あの時に見た笑みを私は生涯忘れることは無いだろう。

 特徴的な笑い方ではあった……でも、私にとっては死の縁で見た慈愛の女神の微笑みそのものであり、心から安心できたから……。


 私を救ってくれたのは、イルネス様という方で噂程度なら聞いたことがあった。魔界のあちこちを旅して、苦しんでいる人や困っている人を救い、見返りを求めず去っていく救済者と呼ばれる存在。

 イルネス様は私が完全に回復するまで経過観察のために家に滞在してくれたので、それなりに話す機会はあった。


「そうですねぇ。特に~これといった理由はないですよぉ。強いて言うのであれば~そうするのが正しいと思うからでしょうかねぇ。高尚な思いや~立派な志があるわけではありませんよぉ。私のコレは~ただできるからやっているというだけのぉ、自己満足の一種ですぅ」


 なぜ魔界の各地を回り無償で人助けをしているのかという私の質問に、イルネス様は苦笑しながらそう答えてくれた。

 凄い人だと思った。心から立派で素晴らしい方だと……私もこんな風になりたいと、そんな憧れの気持ちも抱いた。


 だが、同時にひとつ心に引っかかることもあった――私の両親は、同じ病で死んだ。


 いや、別にそのことに関してイルネス様に対してなにか文句があるわけではない。もっと早く来てくれればなどと恥知らずな考えがあるわけでもなく、純粋な感謝と憧れの気持ちしかない。

 ただ、イルネス様の話を聞いてこう思った……いや、当たり前のことに気付いたと言っていいのかもしれない。そう……「こんなに凄い人でも、全てに手が届くわけではない」と……。


 イルネス様は凄い方だ。この街を出てからも私のような苦しむ人をたくさん救うのだろう。私も将来イルネス様のようになりたいし、成れたらきっと多くの人を救うことができるのだろう。

 だが、それはあくまで……私の手が届く範囲の話だ。小さいと言えるこの街ですら、私はすべての住人の顔を知っているわけではないし、誰がどんな風に苦しんでいるかが全て分かるわけでもない。


 全知全能の神でない以上当然と言えば当然ではあるのだが……世界という大きさに対して、私の手の届く範囲というのは、酷く狭く頼りないように感じた。


「ひとりでやる必要は~無いと思いますよぉ」

「……え?」

「確かに~ひとりが手の届く範囲というのは~狭いかもしれませんねぇ。ですが~ふたりならひとりよりも多くの範囲に手が届きますぅ。貴女がより多くの人を救いたいのであれば~同じ思いの仲間を集めるというのもぉ、有効ですよぉ」

「……仲間を……集める」


 イルネス様が語ったそのアドバイスは、至極真っ当なものであり、実際に有効な手段であると言えた。だがどこかピンと来ないというか、正しいと思いつつも心にしこりの様なモノを感じていた。

 そんなイマイチ釈然としていない様子の私を見て、イルネス様は優しく微笑みながら言葉を続けた。


「或いは~前提を変えてしまうかですねぇ」

「前提を? どういうことですか?」

「例えば~今回貴女がかかった病気がぁ、私にしか治せないものならば~救えるのは私の手が届く範囲だけですぅ。ですが~もし仮にぃ、飲むだけで簡単に治せる薬ができてぇ、それが近場の薬屋で簡単に帰るようなものになればぁ……おそらく~その病気で死ぬ人はぁ、ほとんどいなくなりますよぉ。もちろん~簡単ではありんせんがぁ」

「……」

「私に憧れるのは構いませんがぁ、私と同じようになろうとしてはいけませんよぉ。結果として同じようになるならともかく~最初から目指していては視野を狭めるだけですぅ。きっと私には私の~貴女には貴女の~歩むべき道というものがぁ、あるのではないでしょうかぁ? 先程の私の言葉を聞いて~なにか心に引っかかりを感じたのならぁ、それは~大事にすべきだと思いますぅ」

「……はい」


 この時のやり取りもまた私は生涯忘れることは無いだろう。この時のイルネス様との会話が、私の将来を決定した。

 きっと私は欲張りなのだろう。イルネス様に憧れる気持ちに間違いは無いが、それ以上に……イルネス様のやり方よりもっとたくさんの人を救える道を目指したい。山ほどの人を救いたいという、そんな思いが……私の心に火を灯した。



~ちょっと解説~

【混血魔族】

争いが盛んだった過去の魔界において、生きるために弱い種族が複数集まってコミュニティを形成するというのも珍しくなく、種族同士が手を取り合う手段として手っ取く種族間の婚姻などが盛んにおこなわれていた。結果として様々な血が混ざりあうことになった。

ハーフやクォーター程度では表現しきれないほど多くの血が混じった魔族を種族として混血として呼んでいた。


現在は魔界にも秩序が生まれ、友好条約などの影響もあり混血は単純に別種族同士の子供、ハーフやクォーターを指す言葉となった。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です!連続で読みました! ルナさんの娘であるナタリアさんによる修行的なものでメイドの会話さえ気にしなければ微笑ましいものだけどメイドの話で消えてしまうw 修行方法も含めツッコミどころ満載…
空っぽのこころだが、自分が正しいと思った事をやり、正しい助言を与える。 偽善者とは違うイルネスさんはまさしく救済者と言って良い。
イルネスさん聖人すぎやしませんか?そしてよく幻王陣営にくわわったな。まあスカウトされれば余程のことがない限り断らないとは思うが、どちらかというと幻王のヒキという意味で真面な人を当たられたなぁと。
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