禁書のありか
他愛の無い雑談をしていた三人だが、ふとシャウラがなにかを思い出したような表情でウルペクラの方を向いて口を開く。
「……そういえば、ウルペクラさんもドクターに用事があったんじゃありやせんでしたっけ?」
「あ~アタシのは用事というか……ほら、ルーシーが前に探してるって言ってた禁薬について書かれた禁書があったじゃないっすか」
「ああ、アイシス様の大書庫にあるかと思って隅々まで探したが、残念ながら発見できなかった本だね。アイシス様が持ってないなら、他で見つかるとも考えにくいし、あの本はやはり失われてしまったのだろうね」
ウルペクラの言葉にルーシーは残念そうな表情を浮かべ、それを見たシャウラは少し不思議そうに首をかしげる。
「禁薬をなんにつかうんでありやすか? 目的が分かれば、代用品を探すことも可能かと思いやすぜ?」
「ああいや、禁薬自体は関係ないんだ。作ろうという気も無いしね……そうではなく、とある禁薬の作成方法の中に、とある素材の加工方法が含まれているんだよ。強い毒性を持つ素材に特殊な処理を施すことで、毒性を消すものなのだが、その技術があれば完成する薬があって探しているんだよ。いろいろ試してみたが、どうしても自力で加工すると僅かに毒性が残ってしまってね。おそらく四種以上の素材を組み合わせた結果による無毒化だと思うのだが分からなくてね。禁書を探していたんだよ」
「なるほど、禁薬そのものではなく、そこに書かれている失われた加工技術が知りたいわけでありやすね」
「ああ、残念ながらその技術を作り出した種族は既に滅んでいて、あちこちを探したのだが書物なども残っていなくて、唯一可能性があるのがその禁書というわけだったのさ……まぁ、禁書というのは大半が神族が禁忌と判断した書物だからね。アイシス様のように神族が手出しできないような大物が持っていない限りは、既に神族が動いて処分してしまっているだろう」
禁書に指定されている書物の多くは、世界の法則を管理する神族が禁ずるべきと判断した技術であり、世界に大きな影響を及ぼしたり神の領分に足を踏み込むような内容が書かれているものが多い。
例えば、世界の法則において死者は死後一ヶ月が経過すると魂が世界の輪廻の輪に還り、蘇生が不可能となるという法則がある。
これは生命の権能を持つ最高神ライフが定めたルールであり、これに反する蘇生術はトリニィアの輪廻転生のシステムに影響を及ぼすとして禁術に指定しており、それを掻い潜って試みようと思った者はライフが直々に処分に動くというものだ。
故にそういった禁忌の技術が記された書物……禁書は本来であれば世界から消えるはずなのだが、最高神であっても力尽くで対処するのが難しい、或いは敵対することが世界的に大きな問題となる相手が所有している場合は神族も手を出すことができない。
その最たる例がアイシスであり、彼女は数多の禁書を所有しているが魔界の頂点の一角たる彼女と神族が対立することは、世界的な問題になりかねないためアイシスが所有している限りは、それらの禁書に関しては神族は特に干渉してこない。
もちろんアイシスの手を離れれば、即座に処分に動くだろうが……。
「……いやそれが、分かったんすよ。その禁書がどこにあるか」
「なんだって!? いったいどこに……」
「いや、それがアイシス様に直接聞いたら分かったんすけど……元々はアイシス様が持ってたらしいっす」
「つまり、アイシス様から他者の手に渡ったというわけか……それでは、神族が処分に動いたのでは?」
探していた禁書の行方が分かったということに驚きつつも、ルーシーはなんとも言えない表情を浮かべた。その禁書がアイシスの手を離れたのであれば、神族が即座に処分に動くはずであり、そうなるとすでに禁書は失われてしまっているのではないかと考えたからだ。
しかし、そんなルーシーに対して、ウルペクラは苦笑を浮かべて口を開く。
「いや、無理っす……だって持ってるの……カイト様っすから」
「……ああ、そりゃ、無理でありやすね。神族が手を出せる御方じゃありやせん」
「なんでも、初めて六王祭が行われた時に記念品として、アイシス様がカイト様にプレゼントした本らしいっす」
「なるほど……まさかそんな場所にあったとは……第一回の六王祭開催時期は確か、筆頭であるイリスも配下には加わってなかった時期……つまり、行方を知っているのはアイシス様のみというわけか……よく書庫を利用しているラサルや読書好きの配下に聞いても情報が無かった理由が分かったよ」
そう、ルーシーが探していた禁書は、第一回六王祭の開催記念品としてアイシスから快人の手に渡っており、大書庫には存在しなかった。
ルーシーは、書庫のほぼすべての本を把握しているラサルに最初に尋ねて、自分でも探して見つからなかったために書庫には存在しないと思い込んで、アイシスに確認をしていなかったためいままで見つからなかったわけだ。
そして当然ながら、快人が所有しているということは神族が手出しを出来るはずもない。というか、快人の所有物には禁書など比較にならないほどに世界の法則に影響を与える品が多数あるため、禁書の一冊や二冊……むしろダース単位で所有していたとしても、さほど気にもされないだろう。
~ちょっと解説~
【特異点の所有物】
禁書なんて、まだトリニィアの法則の上に存在している品なので、あまりにも可愛いレベル。数多の世界の創造主たちからの贈り物という「世界の法則? なにそれおいしいの?」みたいな品も、それこそ快人本人が把握し切れてないほど大量にあるので、禁書の所有云々が問題になる筈もない。
神族「なに? 禁書の所有者はミヤマカイト? そうか……今日も世界は平和で異常なく、我々が動く必要もない、ヨシ!」




