ストライクカード
廊下で話し続けるのも問題なので、別の部屋に移動して紅茶でも飲みながら話を続けることになった。というのも、予算の話は終わったのだがアルシャは初めての主催でいろいろ悩んでいるのは間違いないので、この機会にウルペクラやシャウラといった古参メンバーに相談に乗ってもらいたかった。
「まぁ、だいたい何に悩んでるかは分かるっすよ。一番最初のなにをやるかで躓いてるんすよね」
「大体皆最初に躓くのはそこでありやすね。その大枠さえ決まれば、あとは結構やれるもんでありやすが……」
ウルペクラもシャウラも古参であり、こういった相談に乗るのも初めての経験ではない。そのためアルシャがなんに悩んでいるのかはすぐに察することができた。
ともかく、勝負のテーマともいえる大枠をなににするかというのに悩んでいる状態である。
「その通りにゃ……私もアイシス様に同行したいにゃ。だから、勝負の内容はできれば有利になるのがいいにゃ……でも、先輩たちに話を聞くと、あんまり有利過ぎる場合は中止になるらしいにゃ」
「正しくは中止じゃなくて無効っすね。例えば、イリスが火力勝負だとかシリウスが剣術勝負だとか、自分が絶対に勝つ勝負を提案してきたら不公平っすからね。死王配下の過半数が不公平であると判断した場合は、同行者はくじ引きで決める形になるっすね」
「過去に無効は三回ほどありやしたかね? まぁ、いずれも企画自体は面白かったので、同行者決めだけくじ引きにして勝負はレクリエーションとしてやったでありやすけどね」
アイシスの同行者としての権利は死王配下ならだれもが欲しがるものであり、当然だがアルシャも己が同行者になりたいと考えている。
そして主催務める者には、ある程度自分が有利になる企画を行うのも許されている。ただし、度が過ぎれば無効となり、同行者はくじ引きで決める形になる。その辺りの調整が難しく悩んでいるアルシャに対して、シャウラが紅茶を飲みながらアドバイスをする。
「大事なのは公平感を与えられるかどうかという部分でありやすね。身体能力などの影響を強く受けるものは、公爵級の方々が有利過ぎるでありやすから、あまりそういったものに左右されない企画を考えるのがいいでありやすよ。まぁ、身体能力に制限を付けるのも手ではありやすが、その辺りの調整まで加わると複雑になりやすからね」
「なるほどにゃ……たしかに身体能力勝負じゃ、勝てる気がしない相手が多すぎるにゃ」
「直近に行われたウルペクラさん主催のは、参考にするのにいい例でありやすよ。ウルペクラさんも含めてほとんどが初めてかつ、身体能力が高ければ勝てるというわけではない競技、その上で高い器用さを持つウルペクラさんが有利という形で絶妙でありやした」
確かにシャウラに言われて考えてみれば、ウルペクラが行ったゴルフ大会は参考にするにはいい例だ。殆どが初めてという点で公平感があり、難しすぎるというわけでもないため少し触れればある程度はできるようになる者が多く、誰にでも勝つ可能性はあるという公平感はありつつも……極めて万能で器用なウルペクラが有利であるという、公平感を与えつつも自身に有利というアルシャが目指している条件を満たしていると言っていい。
「そしてもうひとつアドバイスをするなら、主催をする者が公平感と有利性を考えた後で必ず考える要項があるでありやす」
「必ず考える要項にゃ?」
「……この方の対策でありやす」
そう言ってシャウラはウルペクラを指差す。
「アルシャさんもご存じの通り、ウルペクラさんは苦手な分野が無い超万能型かつ異常なほどに器用でありやすから、この手の勝負には滅茶苦茶強いんですぜぇ。なので、どうやってウルペクラさんに勝たせないようにするかを考えるのも、主催の大事な役割でもありやす」
「……アタシだけ個別対策されるのは不公平じゃないっすか?」
「ウルペクラさんの過去の勝率がぶっちぎりで高いからでありやす。無策で挑むのは無謀すぎるでありやすね」
そう、稀代の天才かつ極めて器用なウルペクラは初見の競技などでもすぐにこなせてしまう上に、これと言って苦手な分野も存在しない超万能型だ。
故にこの手の勝負にはめっぽう強く、アイシスの同行者の権利を獲得する機会もかなり多い対策必須の存在である。
「まぁでも、今回に関してはそんなに深く考えなくても大丈夫っすよ。アルシャがアタシに勝てる可能性がある競技ってのが、そもそもアタシじゃ思い付かないっすし……どんな競技選んでも不公平にはならないっすから、安心っすよ」
「ク、クソ狐にゃぁ……で、でも、実際クソ狐でもウル先輩が強敵なのは間違いないにゃ。なにかウル先輩に勝てるもの……勝てるもの……にゃ! そうにゃ! ストライクカードの大会なんてどうにゃ?」
「ストライクカードっすか……」
いいことを思いついたと言わんばかりにアルシャが告げたのは、世界的に流行しているストライクカードといういわゆるトレーディングカードゲームだった。
ストライカーという空想上の生物が描かれたカードを使って、子供も遊べるシンプルなルールながら戦略性もあり、世界大会なども開かれるほどに人気のあるカードゲームである。
「ふふふ、実は私も結構集めてて、自信があるにゃ……これなら、ウル先輩にも勝てる可能性があるにゃ!」
「あ~えっと……アルシャさん、水を差すようで悪いでありやすが……あっしが思うに、それだとほぼ勝ち目がないと思いやす」
「え? な、なんでにゃ? ウル先輩、ストライクカードも強いにゃ?」
それなりに自信がある様子だったアルシャに対して、シャウラが気の毒そうな表情で告げて、アルシャは不思議そうに首をかしげる。
その様子を見てウルペクラは苦笑を浮かべつつ、シャウラの発言の理由を説明する。
「……ストライクカードは十五年ほど前にアタシが作ったカードゲームっす」
「うにゃぁ!?」
「まぁ、既に新カードの開発や販売とかはシャウラ通して商会に任せて、アタシは一部の権利を持ってるだけっすけどね」
「開発者だけあってウルペクラさんは滅茶苦茶強いでありやすからね。あっしも勝ったことは無いでありやすね。カイト様は普通に勝っていたでありやすが……というか、カイト様が初回の世界大会の王者でありやしたね」
「そもそも、カイト様と勝負が成立するためには『カイト様と対峙した状態で、思い通りのカードが引ける』って能力が最低条件っす。それでもカイト様が使うデッキ次第じゃ、自分のターンは回ってこねぇっす」
「……どんだけ強いにゃ、カイト様……」
開発者であるウルペクラの言葉に、アルシャはなんとも言えない表情で呟いた。
~ちょっと解説~
【ストライクカード】
十五年前にウルペクラが作り、世界的に大ヒットとなったカードゲーム。ストライカー、マジック、カウンターの三種類のカードを使って戦うシンプルながら奥が深いゲーム性で、熱狂的なファンも多く激レアカードなどは高額で取引されるほど人気。
世界大会も何度も行われており、初代優勝者は招待客として参加した快人であり、決勝戦で冥王クロムエイナと対峙するも圧倒的な引きの強さでワンターンキルを決めて優勝した。
別にウルペクラは開発者専用カードとかそういうものを持っているわけではないが、単純に開発者としてゲーム経験も多く、戦略なども深く理解しているため強い。
ただそれでも快人相手だと勝率は一割あるか無いかぐらいであり、快人が『手札に特定のカードを揃えることで特殊勝利するデッキ』を使った場合は十割負ける。




