狐とサソリ
予算を組んでほしいと告げたウルペクラと一緒に、シャウラは城内の小会議室にやって来た。そして、背負っていた巨大なリュックを消すと……リュックに丸めて収納することで隠していたサソリに似た巨大な尾が現れる。
「いつも思うんすけど、それ窮屈じゃないっすか?」
「いや~慣れてるので、そうでもありやせんよ。あっしは清く正しい商人ですが、どうにもこの尻尾は威圧感がありやすからねぇ。交渉で怖がらせちまうなんてのは、あっしの性に合わねぇってもんなんで、隠してるんですよ……いや、悪人相手は別に脅したりもしやすがね。まぁ、シリウスさんの腕みたいに不要な時は消しとくのが手っ取り早いんですが、どうも尻尾消すとイマイチバランスというか、おさまりが悪いと言いやすか……重心の違和感が凄いので、困ったもんでさ」
「なるほどっす」
シャウラの尾は長さで言えば本人の身長の三倍以上であり、太さもかなりのものなので……正直尻尾以外の部分より、尻尾の方が遥かに重い。
なので尻尾を消すと体の後ろにあった重さが消えるので、前に倒れそうになるというか、とにかく違和感が凄いので消さずにリュックに収納する形にしている。
「それで、ウルペクラさん。予算を組んでほしいってことでありやすが、ご用向きは?」
「そろそろ六王祭の準備期間に入るっすよね?」
「ええ、ですがもう六王祭用の予算は組み終わってありやすよ?」
「いや、六王祭自体の予算じゃなくて、そこでアイシス様の傍に控える人員を決める……いつものやつの予算っす」
六王祭は魔界で最も規模の大きい祭りであり、六王が協力して開催される大規模な祭りである。もちろん死王であるアイシスも主催のひとりであり、死王陣営も出し物や出店などといった形で参加する予定である。
ただ規模が大きい祭りの準備は時間をかけて行うものであり、毎年開催されている六王祭に関する準備はとうの昔に始まっており、予算なども組み終わっている。
ただ、今回ウルペクラが依頼してきたのはそれではなく、以前に彼女がゴルフ大会を主催したように、六王祭の最中アイシスの傍に控える要員を決める戦いの予算だった。
「ああ、はいはい。いつもの競い合いでありやすね。今回は、誰が主導するんで? 少なくともあっしではないですよね?」
「今回はアルシャっすね」
「アルシャさん! 彼女は確か、主導するのは初めてでありやしたね。なるほど、それでウルペクラさんがサポートをしているって感じですか!」
「そんなところっす。まだなにするか迷ってるみたいっす。なので、先に予算決めてその範囲内でって感じに、ある程度絞らせた方が考えやすくなると思って、今回予算交渉に来たわけっすね」
死王配下の誰しもが希望する行事ごとでのアイシスの傍仕え……補佐役を決める勝負は、誰が主導するかはローテーションである。
前回はウルペクラが主導となりゴルフ大会にて決めたのと同じように、今回はアルシャが企画するということになっている。
そして当然ではあるが、四十八人が競い合うような勝負を行うにはそれなりにお金もかかるので、シャウラに予算を組んでもらう必要がある。
そこで、どれだけシャウラから予算をもぎ取れるかによって、凝ったものや大がかりな勝負が行えるかどうかが決まるので、その交渉も主催の腕の見せどころではある。
だが、アルシャは今回主催となるのが初めてであり、企画や準備の方にいっぱいいっぱいで、予算関係までアレコレやる余裕は無いだろうと、ウルペクラが手助けをしていた。
「というわけで、予算を組んでほしいっす。前にアタシがやった時と同じぐらいでいいっすよ」
「いやいやいや、前回のウルペクラさんの主催したやつは、ウルペクラさんがあっしをあの手この手でやり込めて、通常の三倍ぐらいの予算をぶん盗っていったやつじゃねぇですかい!? 閉鎖空間にゴルフコース、全員分のクラブにボールにルールブック、さらには五位まで豪華商品なんて付けちまって……どれだけかかったと思ってるんでありやすか……駄目ですよ。あんな規模の予算は絶対に組みませんぜ」
ウルペクラが希望したのは前回に自身が行ったゴルフ大会と同規模の予算だが、シャウラは即座にそれを拒否した。
ウルペクラには前回の交渉でいいようにやられてしまったが、今回ばかりはそうはいかないと、財布のひもをギュッと固く締めて力強い目でウルペクラを睨む。
そんなシャウラに対して、ウルペクラはニヤリと笑みを浮かべて座っていた席から立ちあがり、シャウラが座っている席に近付く。
すると、ウルペクラがなにをしようとしているのか察したのか、シャウラが嫌そうな表情で大きな尻尾を横に伸ばすと、ウルペクラはその尻尾に腰かけシャウラの肩に手を回した。
「……まぁまぁ、アタシとシャウラの仲じゃないっすか~」
「悪い顔してるでありやす。あっしから大切なお金を巻き上げる性悪狐のツラでありやす。ウルペクラさんの猫なで声、あっしの嫌いな声でありやす」
どこか楽しげな笑みを浮かべるウルペクラを見て、シャウラはなんとも言えない複雑な表情を浮かべた。シャウラは死王配下の中ではそれなりに古参であり、ウルペクラとの付き合いも長い。
そのため、性悪狐と称されるウルペクラに幾度となく口先八丁でいいようにやられている。困ったことに騙し合いというか、話術ではウルペクラの方が上であるため、抵抗も空しくいつもやられてしまっている現状である。
……まぁ、それ以外にも単純に仲がいいというのもある。ウルペクラが肩を組んでこようとしているのを察して、椅子代わりに己の尻尾を提供したりするのを自然とやっているあたり、仲が良くじゃれ合いの一種と言えばその通りかもしれない。
「まぁ、話だけでも聞いてほしいっす。損はさせないっすから」
「損はさせない? つまり得をすると……うぅ、商人はその言葉に弱いでありやす」
悪戯っぽく笑うウルペクラの顔を真横で見つつ、シャウラは……今回も大きな予算を出さされることを悟り、若干諦めの混じった様な表情を浮かべていた。
~ちょっと解説~
【ウルペクラとシャウラ】
付き合いも長く、結構仲良しである。よくウルペクラにいいように言いくるめられて予算を多く出すことになっているが、なんだかんだでシャウラにも得があるようにしてくるので、「しょうがないなぁ」とか考えている。
ふたりで組んで悪だくみをしていると、胡散臭さと性悪さがケミストリーして、大変に厄介。




