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むつら☆ぼし  作者: 灯台


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番外編・雌雄を決める時



 友好都市ヒカリにある異世界風の定食屋水蓮の店内では、人型となりカウンター席に座っているカオスメサイアと店主である香織が話をしていた。


「休息日だというのに我とカイザーの事情に付き合わせる形になって申し訳ない」

「気にしないでください。今日は特に予定もなかったですし……それにしても、たくさん釣れたんですね」

「ああ、よい釣り場だったようで、なかなかの釣果だった。マスターに献上する分は省いてあるので、我とカイザーの分を除いたエレガントフィッシュは、今回の件の手間賃として受け取って欲しい」

「ありがとうございます。エレガントフィッシュは、人界には生息していない魚なので取り扱う機会があんまりなかったですけど、これだけあればいろいろ試作できそうで嬉しいです」


 元々は快人が連れてきた縁によって知り合った間柄ではあり、香織としては巨大ロボットが魚釣って定食屋に来ているという事実にまず突っ込みたい気持ちでいっぱいではあったが……彼女も歴戦の戦士……もとい、これまで快人によってもたらされる数々の胃痛案件を潜り抜けてきた胃痛戦士であり、妙な事態にもある程度慣れがあった。


 この手の事態……快人がもたらす胃痛に関しては、下手にアレコレ考えてもドツボにハマるだけであり、いっそ諦めの感情で受け流す方が精神にも胃にも優しいと数多の経験から学んでいる。

 なのでいまはとりあえず、料理対決に協力する代わりに珍しい魚が貰えたと、その事実だけを受け止めることにした。


「喜んでもらえたのなら幸いだ。寄生虫などは除去してあるので、そのまま生で食することも可能だ。我とカイザーの分に関しては西京焼きにしてもらって、それ以外に関しては香織の好きにしてくれていい」

「はい。エレガントフィッシュは淡白で上品な味わいが特徴なので、天ぷらとかにしても美味しいですね」

「ほぅ、天ぷらか……たしかに、魚の味が強くないほうが適しているか、すぐにそういった発想が出る辺りさすがはプロの料理人……む?」

「うん? どうしました?」


 話の途中でカオスメサイアが、なにかに気付いたような表情で入口の方を振り向き、理由が分からなかった香織は首をかしげる。


「位相フィールド? カイザーめ、本来の姿のままでここに来るつもりか?」

「え? えっと……」

「ああ、香織に分かりやすいように説明すると、いまこの周囲に位相フィールド……空間隔離結界の様なものが展開された。これは、一時的に位相をズラした空間を作り出すことにより周辺の被害を抑える技術でカイザーが展開したもので間違いないのだが……それをワザワザ展開してくるということは、普通のままでは周辺に被害が出る可能性がある状態でここに来るということ……おそらく本来の全長で来るぞ」

「えぇぇぇ……ちょっ、え? エヴォルカイザーさんとカオスメサイアさんって……本来は百メートルを超えるような巨大ロボットですよね? その状態で、ここにくる?」

「……次元跳躍の前兆を感じる。どういうつもりなのか……香織、店の外に出てみよう」

「あ、はい」


 カオスメサイアに促されて店の外に出ると、そこは位相フィールド……位相のズレた特殊な空間であるため、店の前の通りには人影は見当たらない。

 そして直後に空中に円形のゲートが現れ、そこから白銀のボディの巨大ロボットが……自身の数倍はあろうかという超巨大魚を担いで現れた。


「………………はい?」


 唖然とする香織の前に、ズシンと重量感のある音と共にエヴォルカイザーが着地すると、その直後にカオスメサイアが口を開いた。


「なっ、貴様……なんだその魚は!?」

『うん? ああ、これは、ギガントタイタンフィッシュという魚で、今回の勝負のために調達してきた塩焼きに適した魚だ!』

「……小さな島を食べたって逸話のある魚だ……」


 どこか誇らしげに語るエヴォルカイザーの言葉を聞き、香織は頬を引きつらせてなんとも言えない表情であまりにも巨大な魚を見上げていた。

 この状況にどう収集を付ければいいのか、なんで保護者ともいえる快人がこの場に居ないのか、どうして快人関連の事態はいつも胃を痛くするのか、そんな様々な思いが浮かぶ中……怒声が響いた。


「馬鹿か貴様は! なんでそんなサイズの魚を持ってきた!!」

『今回は香織殿に世話になるからな。その例として、私とカオスの勝負に使わなかった部分は香織殿に差し上げようと考え、どうせならある程度の量があったほうが店で使ったりもできるだろうと思って持ってきたわけだ!』

「この大馬鹿者が! 自分の体躯で考えるな! 香織は人間だぞ、その十分の一でも巨大すぎるわ!」

「……おかしいな? 話聞いた限りだと、どっちかって言うとカオスメサイアさんの方は悪のロボット的な存在だったと思ったけど……ビックリするぐらいに真っ当な意見だよ。でも、うん……まともな思考の方が居てくれてよかった……本当に、よかった」


 己が言いたかったことを代わりに言ってくれているカオスメサイアを見て、心の底から感謝しつつも……事前情報では、破滅の混沌と聞いていたカオスメサイアのあまりの常識人っぷりに、若干の戸惑いもあった。

 そしてカオスメサイアに指摘されたエヴォルカイザーは、自分が担いでいるギガントタイタンフィッシュと香織を交互に数度見る。


『……あっ』

「やはりそうか! その状態の体躯で多めの量と考えて、ソレを持ってきただろう!」

『……まさしくその通りだ。完全に香織殿とのサイズ差を失念していた。ど、どうするべきだろうか?』

「……はぁ……そのまま持っていろ。いけ、ディザスタービット」


 どうやらエヴォルカイザーも悪気があったりしたわけではなく、本来の自身のサイズで考えた上で、香織が店などで使えるような量をとギガントタイタンフィッシュを取ってきた様子だった。

 カオスメサイアは呆れたようなため息を吐いたあとで、ディザスタービットを巨大魚に向けて飛ばす。するとビットからレーザーが放たれ、魚の身を一部……全体から見ると百分の一程度の量を切り出して、カオスメサイアの前に戻ってくる。


「とりあえずは、これだけあれば十分だろう。マスターへの献上はこの五分の一ほどの量でいい、残りは……ベルゼ辺りにやるといいだろう」

『分かった。手間をかけて、すまない』


 カオスメサイアの言葉に素直に頷いた後、エヴォルカイザーは巨大魚を別の空間にしまってから姿を人型に変える。

 どこか騎士を思わせる純白の礼服風の服を着て、煌めく金色の長髪をポニーテールの形にした高身長の女性の姿に変わると、エヴォルカイザーは香織に謝罪する。


「すまない、香織殿。私の非常識で、驚かせてしまって」

「ああいえ、エヴォルカイザーさんのお気持ちは嬉しかったです。でも、カオスメサイアさんの言う通り多すぎるので、この切り出した身の残りだけ、ありがたくいただきますね」

「ああ、カオス、助力に感謝する」

「……既に過ぎたこと、これ以上の感謝も謝罪も不要、今回の件は次回への教訓とすればいい。それより、さっさと位相フィールドを解除しろ、改めて雌雄を決する時だ」

「いいだろう。フォローには感謝しているが、だからと言って勝ちを譲る気は無い……シンプルな塩焼きこそ思考であると理解させてやろう。この戦いに勝つのは、私と香織殿だ」

「抜かせ、その幻想を我と香織の西京焼きが打ち砕いてくれる」


 気を取り直した様子で睨み合った後で、店の中に入っていくエヴォルカイザーとカオスメサイアを見て、香織はポツリと呟いた。


「……気のせいかな? いまどっちも、サラッと私が自分側の味方だって体で話してなかったかな? 私の意見が勝敗を決めることになるとか、そんなことにならないよね……ね?」


 己に言い聞かせるように告げた後で、香織はフッと微笑みを浮かべ……快人に「いますぐ助けに来て!」とハミングバードを送った。



~ちょっと解説~

【カイザーとカオス】

どちらも割とマトモな常識人的思考ではあるのだが、エヴォルカイザーの方は少々抜けているところがあり、決して本人に悪気があるわけではないのだが、今回の様なちょっと間抜けな失敗をすることがある。

対してカオスメサイアは、破滅の混沌と呼ばれていたり、人型がゴスロリ幼女だったり、ポジション的に悪のロボットだったりという要素の割に、極めて常識的な思考かつ物腰穏やかである。

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― 新着の感想 ―
アホの子騎士と常識人ゴスロリ幼女って笑
どっちも人型は女性なんですね
おかしいなぁ・・・読み始めた時に気づかなかったのもあれだけど、最初に店に来ていたのは「正義」側だと思ってた。 そしたら「非常識」な登場をした「正義のロボット」がいることに気づいて爆笑になった。抜けてる…
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