混沌トーキング
カオスメサイアから概ねの事情を聴いたウルペクラとアルシャだったが、そのタイミングでカオスメサイアがふとなにかを思いついたような表情を浮かべた。
「……そうだ、せっかくこうして知り合ったのだ。時間に猶予があるのであれば、貴公らも釣りをしていかないか? 道具は我が用意しよう」
「うにゃ? ……ウル先輩?」
「ああ、買い出しの品を使うのは夕方っすから時間の余裕は全然あるっすよ。せっかくのお誘いっすし、お言葉に甘えるっす」
偶然とはいえこうして知り合ったのだから、親睦を深める意味合いでも一緒に釣りをしないかと提案してくるカオスメサイアに対して、アルシャはウルペクラに確認を行った。
元々アルシャはウルペクラの頼みで一緒に買い物に来ていたので、時間の猶予に関しては分からないという理由からだったが、ウルペクラが時間には余裕があるからと了承したことでアルシャも頷いた。
「では、決まりだな……行け、ディザスタービット」
満足そうに頷いたあとで、カオスメサイアは近くにあった木に向けて周囲に浮遊している手甲のようなユニット……ディザスタービットに指示を出す。
全部で七基あるビットは、勢いよく木に殺到して解体……ほどなくして、そこには立派な釣り竿が三本並んでいた。
「端材や木屑は物質変換で釣り糸や釣り針に変えよう……さぁ、この釣り竿を使うといい」
「ありがとうっす」
「ありがとうにゃ」
カオスメサイアから竿を受け取り、そのまま少し間隔は空けつつも三人並んで釣りをする流れとなった。
「……これ、餌はなに付ければいいにゃ?」
「エレガントフィッシュは別名貴族魚と呼ばれる魚っす。光沢のある餌にしか食い付かねぇって特性があるっす。手っ取り早いのは、魔力で餌を作ることっすけど……」
「そんな器用なことできないにゃ……」
「ふっ……じゃあ、アルシャの餌はアタシが作ってあげるっすよ」
「は、は、鼻で笑ったにゃぁぁぁ!? く、クソ狐ぇ、馬鹿にしやがってぇ……あっ、でも、餌はありがとうにゃ」
釣り針の先に魔力で光沢ある餌を作り出すというのは、魔力の物質変換の応用で可能ではあるが、そもそも魔力の物質変換自体がかなり高度な魔法であり、光沢など細かな調整を加えた上で、餌として小さな形で物質化するのは爵位級クラスであってもかなり難しい。
少なくともアルシャにはできないため、ウルペクラが代わりに……煽るような笑みを混ぜつつ餌を作ってくれて、それを使って釣りをすることとなった。
カオスメサイアの方は自分で餌を作り出しており問題なさそうだったので、ウルペクラは糸を垂らしながらカオスメサイアに話しかける。
「カオスメサイアさんは別世界から来たんすよね? どうっすか、こっちの世界には慣れたっすか?」
「ふむ、例えばよく聞く文化の違い云々に戸惑うことは無かったな。我はどちらかと言うと数多の文明を滅ぼしてきた側の存在故、馴染んでいた文化というものが存在しない。そういう意味合いであれば、この世界で目にするものの多くが新鮮ではあるが、馴染みにくいということは無いな」
「なんかサラッととんでもねぇこと言ってるにゃ……」
もちろんカオスメサイアが居た世界とトリニィアでは文明や常識なども違うため、普通であればそういった文化の違いなどに戸惑うのが必然ではある。
だが、そもそもカオスメサイアは破滅の混沌として星を次々に滅ぼしながら移動していた存在であるため、根本的に馴染んだ文化が存在しない。
「まぁ、つまるところはベルゼみたいな来歴ってことっすね」
「ああ、ベルゼ先輩も確かに別の世界でいっぱいやんちゃしてたって聞くにゃ」
「ふむ……ベルゼと言うと、マスターの配下と死王配下を兼任しているベルゼ・カルネで間違いは無いか? 我の印象としては、よく食べる少女ぐらいの認識だったのだが、似た来歴ということは彼女も星を滅ぼしたりしたというわけか?」
ベルゼはいまも快人の家とアイシスの居城を行き来しつつ生活しているため、この世界に来て日が浅いカオスメサイアも面識があり話したこともある。
とはいえ、しっかりと話したことは無かったので、ベルゼの細かい来歴などはまだ聞いていない状態だった。
「なんか、五つの銀河を食べ尽したとか、そう言ってたっすね」
「……我よりよっぽど破滅的なことしているのだが……」
カオスメサイアは確かに破滅の混沌として恐れられており、高度な文明を持つ星を数えきれないほど滅ぼしてきた。しかし、銀河に換算すると……まぁ、全て合わせても銀河ふたつ分ぐらいであり、五つの銀河を食い尽くしたというベルゼの方が規模が上のように感じられて、なんとも言えない表情を浮かべていた。
もっとも、エヴォルカイザーを作成できたように、技術や文明などはカオスメサイアが居た世界の方が遥かに進んでいたため、一概にどちらが凄いとは断定しにくい部分もある。
「銀河で思い出したが、この世界に宇宙が無いというのには驚かされた。文化の違いで戸惑いを覚えたのは、それが一番かもしれんな」
「えっと、宇宙ってなんだったかにゃ……異世界で、星がいっぱいあるところだったかにゃ?」
「そのような認識で問題ない。世界を構成するシステムの差であり、大きな問題ではないのだが、我としては活動の中心だった部分であるため、無いと若干の戸惑いはあるという程度だ」
トリニィアは世界の構造が違うため宇宙は存在しない。星空などはあくまで世界のシステムとして、夜の空に存在しているだけで宇宙空間と言ったものは存在しないため、空に向かってどれだけ飛んでも宇宙に辿り着くことは無い。
そういった部分は明確に世界の違いを感じられる部分だと告げるカオスメサイアに、アルシャは納得した様子で頷くと……そのタイミングで隣のウルペクラが魚を釣り上げて、いつの間にか用意していたバケツの中に入れているのが見えた。
「にゃ!? ウル先輩、もう釣ったのにゃ?」
「いや、四匹目っすけど? ここは魚の警戒心が少ないのか、釣りやすいっすね」
「うにゃ!? よ、四匹目……か、カオスメサイアさんはどうにゃ?」
「我はまだ二匹だな。ウルペクラは釣りの技量が高いようで見ていて参考になるな」
「にゃにゃ!?」
既に四匹の魚を釣っているウルペクラと、それには及ばないながらも二匹の魚を釣っているカオスメサイアに対して……アルシャはいまだに釣果ゼロである。浮きがピクリとも動かない……なんだこれ、時間でも止まってるのか? と、アルシャが首をかしげると……ウルペクラがフッと鼻で笑う。
「ふっ……まぁ、焦らなくてもそのうち釣れるっすよ」
「ま、また、また鼻で笑ったにゃぁぁぁ!? わ、私が釣り下手だとでも言いたいのかにゃ!?」
「いや、そんなことは言わねぇっすよ。特に予想を超えることも無く、だいたい想像した通りの実力って感じっす……まっ、アルシャならそんなもんじゃねぇっすか?」
「く、クソ狐ぇぇぇ……」
もちろんこんな状況でウルペクラが煽らない筈もなく、アルシャが一匹目を釣り上げるまで散々煽り倒していた。
~ちょっと解説~
【その頃のエヴォルカイザー】
エインガナ「……ええ、構いません。彼の関係者であるならば、拒否することもありません。ギガントタイタンフィッシュの狩猟を認めましょう。個体数は多くないので、問題が無ければ一匹にしていただきたいところです」
エヴォルカイザー「承知した。体長400メートルということだから、十分に足りるだろう。半分は香織殿にお土産として差し上げることにしよう」
……魔界の海に生息するクジラの十倍ぐらいのサイズの魚を狩猟していた。




