混沌との遭遇
死の大地にあるアイシスの居城、その廊下でウルペクラが一枚のメモを手に持ち考えるような表情を浮かべていた。
すると、そこにたまたま通りがかったアルシャが首をかしげながら声をかける。
「ウル先輩、なにしてるにゃ?」
「ああ、アルシャっすか……丁度いいところに来たっすね」
「にゃ?」
「ちょっと買い物に行こうと思うんすけど、付き合って欲しいんすよ」
「買い物にゃ? 別に構わないにゃ……でも、なんで私なのかにゃ?」
買い物に付き合って欲しいというウルペクラに、問題ないと答えつつもなぜ自分に声がかかったのか不思議そうに首をかしげる。
大量に買い込むのであればアルフェラ辺りを連れて行ったほうがいいだろうし、丁度いいところという言い回しも気になった。
「いやまぁ、誰でもよかったっすし、どうせ暇っすよね? あと、アルシャなら雑にこき使えるって意味でも、気楽っす」
「……ク、クソ狐にゃぁ……後輩に対する優しさってものを感じないにゃ!?」
「だって、アルシャっすし」
「酷いにゃ!? ……まぁ、事実として予定は無いので付き合うけどにゃ……」
アルシャは雑な扱いに抗議しつつも、それはそれとして実際に予定などは無く……言ってしまえば割と暇だったので、買い物に付き合うということ自体には異論はなかった。
そんなアルシャの反応を見て楽しそうに笑った後で、ウルペクラはキョロキョロと周囲を見た後で、小声でアルシャに話しかける。
「……まぁ、悪いようにはしないっすよ。ここだけの話っすけど、この買い物には凄いご褒美が付いてくるっす」
「す、凄いご褒美にゃ? ご、ごくっ……どのぐらい凄いにゃ?」
「うっかり他の死王配下に聞かれたら不味いぐらいには……っすね」
「そ、そんなに凄いにゃ……な、なら、いっぱい頑張るにゃ」
アルシャは凄いご褒美という言葉に明らかに目の色を変えた。なにせ元々暇だったので、アルシャ側にデメリットは無い。買い物に付き合うだけで、凄いご褒美を手に出来るならむしろメリットだらけと言える。
強いて懸念点をあげるとすれば、それを言ってる奴が絶妙に信用ならないというか……騙してこき使ってくるような胡散臭さのあるウルペクラだということだろう。
しかし、アルシャの思考は基本的に単純であり、過去に何度も騙されたことは既に忘却の彼方……いまは既にどんな凄いご褒美なのかとワクワクした表情を浮かべていた。
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転移魔法でふたりが移動してきたのは、魔界の中央大森林の近くにあるやや大きめの街であり、あまり大きな特徴のある有名な場所というわけではなかった。
「じゃ、手分けして買うっす。アルシャは、こっちのメモに書いたやつを買ってきてほしいっす。お金はこれで足りると思うっす。おつりが出たら、返さなくていいっすよ」
「了解にゃ……なんか、贈呈品っぽいものが多いにゃ……ラッピングの指定もあるにゃ」
「ラッピングの色は間違えないように注意して欲しいっす」
「分かったにゃ。じゃ、買い終わったらハミングバードで連絡するにゃ」
ウルペクラから渡されたメモを手に持ち、ふたてに分かれて必要なものを買いに行く。買う品の数はそれほど多くなく、大した時間がかからずに購入が終わり、街の中央にある広場で合流して買ってきた品を確認する。
「……問題ないっすね。ラッピングの色も全部合ってるっす」
「これで終わりにゃ? 随分アッサリだったにゃ」
「量自体は少な目っすから……む?」
「ウル先輩? どうかしたかにゃ?」
会話の途中でウルペクラがなにやら怪訝そうな表情で視線を動かし、それを見たアルシャが首をかしげる。
「……なんすか、この異様な気配は……」
「気配? 魔力探知には変な反応は引っかかってないにゃ……」
「ええ、魔力じゃないっす。けど、異質な気配というか……う~ん、ちょっと見に行ってみるっすかね」
「私にはその気配が分からにゃいから、ウル先輩に任せるにゃ」
アルシャにはまったく感じ取れなかったが、ウルペクラは妙な気配を感じているようで、その気配の正体を確かめるためにふたりで移動する。
場所は街から少し離れた場所にある大きめの川のほとりであり、爵位級のふたりであればすぐに辿り着くことができた。
そこに居たのは、確かに異質の存在だった。
暗い紫のウェーブがかった長髪、血のように赤黒く鋭い目、黒いゴシックロリータ風の服を着た小柄な少女であり、なにより特徴的だったのはその少女の周囲に水晶のような紫の爪が付いた漆黒の手甲のようなものがいくつも浮遊しており、少女自体も空中に腰かけるように浮遊していた。
「……な、なんにゃ……魔力は全然感じないにゃ、でも、滅茶苦茶強そうな気配がするにゃ……」
「……」
魔力はまるで感じないが異様な存在感のある少女であり、ウルペクラの言った通り異質ともいえる気配にアルシャが思わず息を飲む。
すると少女は静かにふたりに視線を向け、まず最初にウルペクラの方を向いて淡々とした口調で告げた。
「……推定能力値480兆。大したものだ。この世界の住人としてはかなりの上澄みと見える」
そう呟いたあとで、今度はアルシャの方に赤い目を向ける。
「……こちらは推定能力値5憶。発展途上の中堅といったところか」
「な、なにか分からないけど、ウル先輩との大きな差を感じるにゃ……」
「アタシとアルシャの能力差を考えると、結構適確な数値だと思うっす。それを一目で……」
一目でウルペクラとアルシャの能力を数値で表現した少女に、ウルペクラが警戒を強める中……少女はさらに言葉を続ける。
「……カイザーから受け取ったデータと照合。死王配下幹部、ウルペクラ……死王配下、アルシャ……マスターと知人と判定」
そこまで呟いたあとで、空中に座っていた少女は立ち上がり、ふたりに向けて軽く顎を引くように頭を下げる。
「失礼した。この世界に来てまだ浅い故、すぐにマスターの知人と判断できなかった。無知を許されよ……我は、混沌機カオスメサイア。マスター……宮間快人様に仕える自立型起動兵器だ。この場合は、なんと言うのだったか……ああ、そうか、こうだな……初めまして、今後ともどうかよろしく」
~ちょっと解説~
【カオスメサイア(人型)】
超常のロボットであるため、体はかなり自由に変化させられるので、違和感の無いように人型になっている姿。常に体の周囲に七基のディザスタービットと呼ばれるサブユニットを浮遊させている。
まだトリニィアに来て浅いため、快人の知り合いで顔を合わせたことがある相手は少ない。ただし、エヴォルカイザーからデータは貰っているので、照会することで、エヴォルカイザーが会ったことがある相手であれば情報を持っている。
ちなみに彼女が語った推定能力値は、魔力や身体能力や思考能力などをスキャンして導き出した総合的な能力値である。




