おっと、もぐもぐタイムはそこまでだ
大食い選手権にて悲惨ともいえる圧勝劇が繰り広げられ、当然のように来年以降の参加禁止を言い渡されたベルゼは、なんとも言えない表情でスイーツを食べながら呟いた。
「……大食い大会で、たくさん食べて出禁になる……解せない」
「何事にも限度があるんすよ。むしろ、フェスの方は出禁にならなかったのが奇跡っすよ」
「まぁ、こちらはまだいちおう大きな被害は出していないからな」
苦笑しつつ告げるウルペクラに、シリウスも同意するように頷く。ベルゼはなんとも言えない表情を浮かべてはいたが、切り替えは早い方であり少しすると気を取り直すように口を開いた。
「まぁ、過ぎたことはいいかな。それより私、ちょっとやりたいことがあるんだけど……」
「……あ~なるほど、別にいいんじゃないっすかね。運営に話せばたぶんすぐに許可は出ると思うっすから、許可とってくるっすよ……アルフェラが」
「ボクぅ!? い、いや、別にいいけどね。影使って移動すればすぐだし……で、なんの許可を取るの?」
ベルゼがやりたいことがあると告げると、それを察したウルペクラが苦笑しつつ構わないと告げ、まだ分かっていない様子のアルフェラとシリウスに軽く説明をする。
その説明を聞いて、アルフェラとシリウスも問題ないと返答し、アルフェラは運営に許可を取るために影に潜って移動していき、ほどなくして戻ってきた。
「許可とれたよ~すぐに移動する?」
「うん、よろしく~」
「ほいほい、じゃあ、行こうか」
アルフェラがパチンと指を弾くと、アルフェラを含めた四人を影が飲み込んで会場内の別の場所に移動させた。辿り着いた場所は、中央からやや離れた場所でありそこには少し開けたスペースがあった。
「ここ使っていいって言ってたよ」
「ありがとう、アルフェラ。じゃ、さっそく……むんっ!」
アルフェラにお礼を言った後で、ベルゼがグッと両手に力を込めるとベルゼの体から黒いドロのようなものが溢れ出て、それがまるで粘土がひとりでに形作るように動き……少しすると、目の前に屋台が完成していた。
「よし、完成!」
「……ふ~ん……いつ屋台喰ったんすか?」
「第五物品庫に入れておいた屋台に似てるな」
「ぎくぅっ……い、いや……ちゃんと作り直しておいたから……」
ベルゼは一度食べたものを魔力によって作り出すことができる……逆に言えば食べたことが無いものは作りだせない。
ウルペクラやシリウスが見覚えのある屋台を作り出せるということは……どこかでその屋台を食べたということであり、ベルゼは冷や汗をかきながら目を逸らした。
「まぁ、それに関しては後で聞くとして……食糧庫はどこに繋ぐ?」
「二番でいいよ。特別な材料とかは使わないし、必要なのはえっと……」
アルフェラの質問にベルゼがいくつかの材料を指定し、それを取り出すとベルゼはさっそく調理に取り掛かった。そう、ベルゼのやりたいこととはスイーツフェスに出店側として参加することであり、先の大食い選手権で身内が原因の事態とはいえウルペクラが協力したこともあって、運営からは飛び入り参加の許可が出た。
……あるいは、ベルゼに好き勝手に会場内を食べ歩きされるより、出店をやってもらった方が安心という判断なのかもしれない。
「材料的にシュークリームっすか?」
「うん! さっきの大食い選手権で思いついたからね。パイ生地を使ったパイシューに、爽やかなヨーグルトクリームで作る食べやすいシュークリームにするよ。スイーツフェスでいろいろ既に食べてる人にも食べやすいようにね!」
「なるほど、じゃあ、アタシも調理を手伝うっすよ」
シュークリームを作るというベルゼの言葉に頷いたあとで、ウルペクラも調理を手伝い始める。
「ベルゼ~ボクたちはなにしよっか?」
「アルフェラは、呼び込みとか宣伝してもらえると助かるよ。シリウスは……調理以外の仕事を手伝って欲しいな」
「……なぜ、わざわざ調理以外と明言する」
「いや、私はシリウスの料理も独創的で好きだし美味しいと思うけど、一般人にとってはただの劇物だしね」
「劇物……」
遠回しどころかストレートに調理には関わるなと言われて渋い表情を浮かべるシリウスだったが、本人も料理が苦手という自覚はあるのか特に反論することは無く、材料を運んだり完成したシュークリームを並べたりといった手伝いをしていく。
少しするとアルフェラが呼び込みとかけてきたのか、大勢の客が出店へとやってきた。死王配下というネームバリューもそうだが、ベルゼ自身が少し前に行われた大食い選手権の優勝者であり、その衝撃も相まって話題性はあるため「大食い選手権で優勝したベルゼの店」と宣伝すれば、興味を引くには十分だった。
次々とやってきた客が美味しそうにシュークリームを食べるのを見て、ベルゼはニコニコと楽しそうな笑顔を浮かべ、それを見たウルペクラもフッと微笑む。
「……楽しそうっすね」
「うん。私は美味しいものを食べるのはもちろん好きだけど、美味しいものを食べてる人の顔を見るのも好きだからね~」
ベルゼは自身が食事をするのはもちろん好きだが、人と食事をするのも好きだし、美味しそうに食べる人の顔を見るのも好きであり、出店をやりたいと言い出したのもそれが原因だった。
大食い選手権の最中に後味がスッキリしたシュークリームのレシピを考え付き、それをスイーツフェスを楽しんでいる人たちにも食べてもらいたいと考えて、思い付きで出店をやることになった形だ。
そのままベルゼは楽しそうな笑顔を浮かべながら、シュークリーム作りを続けていった。
****
空が茜色に染まって夕方となり、フェスの終了時間も迫ってきたタイミングで客足も落ち着いたことで突発的な出店も終了となった。
役割を終えた出店を食べることで片付けたベルゼは、ウルペクラたちに笑顔でお礼を告げる。
「皆ありがと~おかげで楽しかったよ!」
「アタシたちもなんだかんだで楽しかったっすよ」
「うんうん。数時間程度だったけど、賑わってよかったよね」
「……さて、そろそろ終了が近いと言っていい時間だが……会場を出るか?」
ベルゼの言葉にウルペクラ、アルフェラ、シリウスが答える。スイーツフェスの終了時間まであと一時間を切っており、そろそろ帰ってもいい頃合いではある。
しかし、そんなシリウスの言葉に対して、ベルゼがキラリと目を輝かせる。
「……そうだよね。もうすぐ終わりだよね。ということはだよ……いま残ってるスイーツは、このままだと廃棄とかになっちゃってもったいないよね! そんなのは食材がかわいそうだよね! ということは、残ってるのは全部私が食べちゃってもいいってことだよね!!」
そう、それこそがベルゼの狙いだった。確かに出店をして美味しいものを食べる人たちの顔を見たいという気持ちもあったが、自然な形でフェス終了近くの時間まで居ることも目的のひとつだった。
加減して食べると約束した以上それはしっかり守る。しかし、しかしである……終了直前であれば、いっぱい食べても問題ないのでは? いやむしろ、いっぱい食べることで食材を救うという形に繋がるのでは? え? 後日皿数でランキングとかがでる? 関係ない……もぐもぐタイムだ!
とまぁ、そんな心持ちであり完全に捕食者の目になっているベルゼだが……ハッキリ言ってしまえば、ウルペクラたちにとってこれは予想できた展開だった。
大食い選手権参加は急だったので対応が後手に回ったが、終了直前に余りものを全部食べようとか言い出すのは読めていたので、こちらに関しては万全の対策を用意してあった。
「あっ、そうっすか、さっき連絡した時に誘っていただいて、アタシたちはこれからカイト様と一緒に夕食を食べに行く予定で、イリスにも今日のアタシたちの夕食は不要だって伝えておいたんすけど……ベルゼは、ここに残ってスイーツ食べるんすね?」
「私も行く!! カイト様と食事!? 絶対そっちが優先だよ! ほらっ、アルフェラ! 早く! カイト様を待たせちゃ駄目だよ!!」
そう、終了直前にたくさん食べたいとかワガママを言い始めるのは分かっていたので、途中で快人に連絡を取った際に可能であればその辺りの対策に協力して欲しいと頼んでおり、それなら一緒フェスに来ているメンバーを連れて一緒に食事に行こうかという話になっていた。
それはベルゼに対してはこれでもかというほど効果的であり、即座にスイーツフェスの余りものを食べることは諦めて快人との食事を優先することを宣言……こうして、スイーツフェスを食い尽くす暴食が顕現することは無く、無事にフェスは終了することになった。
~ちょっと解説~
【ベルゼちゃん】
食べることは大好き、美味しいものを食べるのも大好き、美味しいものを食べている人を見るのも大好き……こういうフェスとかは、自分だけじゃなくていろいろな人が美味しいものを食べる機会にありつくべきだという考えなので、本当にちゃんと加減していた。
ただし、終了間際なら……本気出してもいいよね? 食い尽くしちゃってもいいよね? というモードになりかけたが、予想済みだったため最も有効な対策を取られた。
食べることは大好き、でも快人の事はも~っと大好きなので、当然そっちを優先するためこれ以上ない程に有効である。




