今のは暴食ではない……おやつタイムだ
参加者五人の前にそれぞれシュークリームが盛られた大皿が置かれる。ひとつひとつのシュークリームも巨大であり、大食い選手権らしい迫力があった。
『さぁ、準備が整いました! 見てわかるように、今回のシュークリームは午前の部で出されたものとはサイズが違います。なんとそのサイズは一般的なシュークリームのおよそ三倍! それが、それぞれの大皿に十個ずつ乗っております。つまり、それだけで普通のシュークリーム三十個に匹敵するわけですね!』
『確かに凄いサイズだが、選手のサイズも大きいため分かりにくい……かと思ったのだが、今回はベルゼ選手が居るおかげで巨大なサイズ感が伝わってくるな』
『ええ、圧倒的なサイズにクリームもたっぷり詰まっています! 私であれば三つか四つでギブアップですが、もちろんここに集まった猛者たち……その猛者が十個も食べれないとは我々運営は想定しておりません! もちろん競い合うのは、この大皿を何皿積み上げたかです! 圧倒的な大食いというのを、私たちと観客に見せつけてください! それでは、制限時間は三十分! 大食い選手権午後の部……スタートです!!』
実況の宣言と共に選手たちは一斉に大皿に向かう。ひとつが通常のシュークリームの三倍……重量にしておよそ三百グラム前後カロリーは優に五百キロカロリーを越える。それが一皿につき十個ともなれば、一皿の総量は三キロ、カロリーは五千キロカロリーである。
とはいえ、五メートル以下級の選手たちは大食漢であり、かなりの速度で一皿を食べ終えるだろう。
だが、かなりの速度程度で太刀打ちできる相手ではないのだ。暴食の化身は……。
「んぁっ……」
開始と共にベルゼが口を開けると、頬が裂けるように口が大きく広がり、そのままベルゼは皿を傾けて己の口の中にシュークリームを雪崩れ込ませる。
『勢いよくスタート――は?』
総量三キロのシュークリームを、文字通りの一口で食べたベルゼは幸せそうな笑みを浮かべる。
「ん~美味しい! おかわり!」
『お、おぉっと!? ベルゼ選手一口です! 十個の巨大シュークリームを、一口で食べてしまいました。コレには他の選手も思わず手を止めて唖然とした表情! これは、開始からいきなりスパートをかけてきたか!!』
実況としてのプライドか、すぐに気を取り直して盛り上げるように実況を行うが……運ばれてきたおかわりもベルゼは一口の元に平らげて、大皿を積み重ねていく。
「おかわり! ん~シュー生地に運ぶ直前にクリームを入れてるのかな? 生地がサクサクで美味しい!」
次々と運ばれてくるシュークリームを平らげながら、まったく苦しそうな様子もなく、むしろ味を楽しんでいる様子のベルゼを見て、観客たちも思わず言葉を失う。
あまりにもスピードが圧倒的だった。追いすがろうと食べ進める他の選手を嘲笑うかのように、他の選手がひとつかふたつのシュークリームを口に入れる間に、ベルゼは一皿を平らげ、異様なほどの差が付き始めていた。
『あ、圧倒的! ベルゼ選手、圧倒的です! 貴様らがこれまで見てきた大食いなど、しょせんは児戯、真の大食いを見せてやろうと言わんばかりの凄まじいペース! ……おや? おっと、これは……ベルゼ選手の食べるスピードが想定外すぎて、おかわりの用意が追い付いていないようです』
『事前に焼き上げておいたシュー生地のサクサク感を維持するために直前にクリームを入れるようにしていたのが裏目に出たか……いや、しかし、このペースは想定外すぎるし仕方ないとも……うん?』
『おっと、ここでベルゼ選手、なにやらマジックボックスを取り出しました。いったいなにをするつもり――おぉっと!? 大きなホールケーキが出てきました! そしてそれを……食べたぁぁぁ!! 大食いのおかわりを待つ間に間食を始めました!! 余裕! あまりも余裕……二個目食べ始めたぁぁ!?』
ベルゼの食べるペースがあまりにも早すぎて、おかわりの用意が追い付いていない状態……ベルゼはおもむろにマジックボックスを取り出して、巨大なホールケーキを次々食べ始めた。
おかわりの大皿が運ばれて来たらそれを一口で平らげ、おかわりが来るまでの間は別のスイーツを食べるという状況。誰の目から見ても、あまりにも圧倒的な光景だった。
そしてそのペースは一向に衰えることなく、制限時間の半分が経過した。
『え~折り返しとなる十五分が経過しましたので、状況を確認いたしましょう。現在ブルータル選手は十二皿を食べ終えて十三皿目に、やや遅れてウーラー選手が十一皿目、ナロナージャ選手とヘンリエッタ選手が共に十皿目の終盤と言ったところです。いや、素晴らしいペースです。通常のシュークリームであれば全員三百以上の数を食べているわけですから、さすが選ばれし猛者たちと言ったところでしょう』
『あ、ああ、このペースなら全員十五皿を越えそうではある。越えそうではあるのだが……』
『……そして、首位を独走中のベルゼ選手ですが……現在シュークリーム九十三皿! ホールケーキ七十三個! バームクーヘン四十四本! カステラ二十八本! お前はいったいなにと戦ってるんだぁぁぁぁ!? もうとっくに諦めの表情を越えて、己がなんのために戦っているのか悲痛な表情を浮かべている他の参加者を尻目に、ひとりニコニコと美味しそうに食べ続けています! なお、何度も調査しましたが、変換魔法を含めた魔法の類は一切使用しておりません!』
そう、もはや勝負など成立していない。ただひとりニコニコと美味しそうに食べ続けるベルゼが完全なる独走状態であり、逆転は不可能というか……そもそも九十三皿食べることなど、想定されていない。
『……むしろ驚きなのは、よくシュークリームが尽きないな。事前に用意していたものはとっくに使い切っているだろう?』
『ああ、それが……途中から死王配下幹部であるウルペクラ様が材料持ち込みで調理に加わってくださいまして、時空間魔法などを用いて凄まじいスピードで作ってくださっています。運営を代表してお礼を申し上げます』
『ああ、それで途中からおかわりが遅れなくなったのか……だが恐ろしいのは、おかわりが遅れなくなって間食が減るかと思ったら、むしろさらに大量に食べ始めたことだろう……ホールケーキがまるでミニクッキーのように次々食べられていく様は、恐怖すら覚えた』
そう、ある意味予想された結果ではあったが、このままでは勝負云々以前にベルゼが他の選手が満腹になる前に、すべての食材を食い尽くしてしまうと判断したため、身内の不始末のフォローも兼ねてウルペクラが調理に参加していた。
材料はアルフェラが食糧庫に空間を繋いで、シリウスが運んできており、おかげで凄まじいペースでベルゼが食べているのにシュークリームが尽きるということは無かった。
「あっ、それで途中から急に凄く美味しくなったんだね! ありがと~ウルペクラ! とっても美味しいよ――ふぎゅっ!?」
『おぉっと、柱のようなサイズの飴の棒がベルゼ選手の顔面に叩き込まれました!! あ~しかし……食べてます。普通に食べてます……』
笑顔でお礼を口にしたベルゼに、ウルペクラが投擲した巨大な飴の柱が直撃するが、もちろんベルゼにとっては追加のおやつが来たようなものであり、バリバリと噛み砕きながら美味しそうに飴を平らげていた。
その後も当然ながらベルゼの食べるペースが落ちることも無く、最終的に二百皿以上を積み上げて圧倒的な差でベルゼが勝者となった。
『制限時間となりましたので、これにて大食い選手権を終了します! いやもう、結果は見えてるんですけどね!!』
『……恐ろしいものを見たな。まさか、大食いというジャンルで、ここまで悲惨な蹂躙劇が起ころうとは……開始数分で誰の目にも勝敗は明らかだったのに、最後まで頑張っていた他の選手に拍手を送りたい』
『というわけで、優勝は二百十七皿! 食べた巨大シュークリームの個数は二千百七十個! 圧倒的大差でベルゼ・カルネ選手の優勝です!! なお、余談ではありますがシュークリーム以外に……ホールケーキ百六十三個、バームクーヘン百五本、カステラ九十六本、巨大ドーナッツ六十三個、アイスクリーム推定数十キログラム、バケツサイズのプリン五十五杯、五メートル級飴の柱一本……なんで他の選手が大食いしてる中、個人スイーツフェス開催してるんだぁぁぁ!!』
優勝宣言と共にベルゼがバンザイをするように手を上げ、会場からは歓声と拍手が巻き起こる。
『……え~そして、今回のベルゼ選手の素晴らしい成績を讃え、運営はベルゼ選手を殿堂入りとし……来年以降の参加を禁じます! もう勘弁してください!!』
「あえっ!?」
こうして大食い選手権は当然の結果としてベルゼの圧勝で幕を閉じ……次回以降の大食い選手権においてベルゼは殿堂入り……出禁となった。
~ちょっと解説~
【無双したベルゼちゃん】
あとでウルペクラに言われて、食べた材料とかは補填した。なお、ベルゼと競い合った他の選手たちは、この大会以降「大食い? いや、私など小食の部類だよ」と、凄く謙虚になったとか……。
なお、ウルペクラとの約束通り口はひとつしか使ってないし、暴食の魔力も使用していないので、ベルゼにとって冗談抜きで『加減した食事』である。




