むしゃむしゃしたくてやった。今はもぐもぐしている
スイーツフェスの会場にいくつも設置されたテーブル席、そこに座っているのはシリウス、ウルペクラ、アルフェラの三人だった。
シリウスは手元のドリンクを口に運び、目を輝かせる。
「これはっ、素晴らしいな。今日口に運んだものの中で一番だ」
「アタシとしては、ちょっと喉に引っかかる感じがイマイチだったっすけど、シリウスの好みには合ってるんすかね?」
「ハチミツっぽいよね。甘くてドロッとしてて、ハチミツというか飲む水飴というか、そんな感じのスイーツだね。虫人型魔族はやっぱ、ハチミツとかを好むのかな?」
スイーツフェスで出されていたドリンク風のスイーツは、シリウスの好みにピッタリハマったらしく絶賛しており、逆にイマイチ好みでは無かった様子のウルペクラと、どちらとも言えない感じのアルフェラが言葉を返す。
「虫人型といっても、好みは様々だからな。甘いものを好む者が多いが、中には辛い物が好きな者もいる。甘いものにしても、ケーキのようなスイーツが好きな者もいれば、調理していない砂糖をそのまま食するのが好みという者もいる。あくまで、私の好みに一致しているというだけだ」
「なるほどね。虫人型魔族も結構種類が多いしね……そういえば、それはそれとして、いよいよ始まっちゃうね」
「もう、アタシは半分諦めたっす。なるようになれって感じっすね」
そんな風に話しながら三人が視線を向けた先には、大きな特設ステージが用意されており周囲には人だかりができてかなり賑わっている様子だった。
そしてほどなくして、時間が来たのか拡声魔法具による声が聞こえてきた。
『さぁ、時間となりました! 午前に行われた二メートル以下級の大食い選手権は、皆さん楽しんでいただけたでしょうか? いよいよ、午後の部……いえ、このフェス最大のイベントと言っても過言ではない戦いが始まります。このスイーツフェスにおける身長の入場制限は五メートル以下……つまり、これから始まるイベントにはこの会場選りすぐりの猛者が集結するわけです! というわけで、大食い選手権、五メートル以下部門を開催します!!』
そう、いよいよ始まるのはスイーツフェスでの大食い選手権である。この選手権は午前と午後の二部に分けて開催され、午前は全長二メートル以下の者だけが参加できるやや制限された選手権で、午後は五メートル以下……スイーツフェスに入場できている者なら全員参加資格がある大食い選手権となっており、どちらかと言えば午後の方がメインと言えた。
『午前に引き続き、実況は私が、解説も引き続き料理評論家として名高いチェザーレ先生です。いや~いよいよ五メートル以下級の大勝負ですね!』
『ああ、体躯が全てとは言わないが、やはり大型の選手による競い合いは見ごたえがある。私も楽しみだよ』
『それではさっそく、選手入場とまいりましょう! 今回は、飛び入りを含めて五名の選手が勝者の座をかけて競い合います!』
実況を務める女性が拡声魔法具で元気よく宣言すると、順々に選手たちが入場してきた。
『さっそくきました! 前年度の覇者、オーク族の英雄! 圧倒的な体躯と食欲で全てを蹂躙する大食の権化!四メートル五十七センチ! ブルータル選手です!!』
『……流石の貫禄というべきだろう。縦にも横にも巨大で、見るからに大食いという外見。立ち振る舞いも堂々としていて、貫禄を感じる。二連覇に向けて気合十分と言ったところか……』
『確かに、素晴らしい気迫を感じます。さて、続いて入場してきたのは一転して細長い体の持ち主! ナーガ族からの刺客! 序盤と終盤二段構えのスパートが持ち味の強豪選手! 四メートル二十センチ! ナロナージャ選手です!!』
『細身と侮るなかれ、かなりの強豪……ナーガ族は消化吸収速度に優れた一族だ。制限時間がある大会で完全に生かしきるのは難しいだろうが、序盤に食べたものが終盤には消化されており、後半での追い込みが凄まじい選手だ』
巨大なオークに細長く高身長なナーガは、それぞれ大食い界隈では名の知れた存在であり、会場のボルテージも上昇していく。
『続いてきました! ペース配分に優れた大食いと言えば彼女を置いて他には居ないでしょう! ミノタウロス族の筋肉質な外見からは想像もできないほどの策略家! 四メートル三十二センチ! ヘンリエッタ選手です!!』
『彼女の持ち味は、なんといっても開始から終了まで常に一定のペースで食べ続ける安定感だろう。派手さこそないが実に堅実で、他者に乱されない冷静さもあって己の実力を完璧に発揮することに長けている素晴らしい選手だ』
『そして四人目は、今大会が初参加ではありますが、その体躯は参加者の中で最大! 制限限界ギリギリの大迫力! トロル族の新鋭! 五メートルジャスト! ウーラー選手です!!』
『初参加ということもあって実力は未知数だが、五メートル以下制限における限界の体躯は圧巻の一言だ。どのような食べっぷりを見せてくれるのか、楽しみだ』
四人目までの選手が登場し、会場の盛り上がりも最高潮に達しようとしていたのだが、最後の五人目の登場でそれが変わった。
『最後の入場は、飛び入り参加……え? これ、午前の部と間違えてない? あ、合ってる? ……コホン、失礼しました! 最後の入場は、死の大地からの電撃参戦! 実力も含めすべてが未知数! 一メートル三十四センチ! ベルゼ・カルネ選手です!!』
「……え? 小さ……」
「二メートル以下級と間違えてるんじゃ……」
「他の選手との身長差が凄すぎる」
登場したベルゼを見て明らかに会場内がザワつく。それもそうだろう、ここまでの四人の選手は全員四メートル越えの体躯なのに対して、ベルゼは半分以下であり、どう見ても勝負になるようには思えなかった……そう、見た目だけは……。
だが、そんな中で解説席に座っていた料理評論家のチェザーレは、驚愕したような表情で呟く。
『……ベルゼ・カルネ……だと……』
『おや? 先生、あの選手をご存じなのですか?』
『……噂程度なら耳にしたことがある。複数の食べ放題の店に《ただし、ベルゼ・カルネを除く》という一文を追加させ、《食べ放題の抹殺者》《食糧庫の殲滅者》《在庫に終焉をもたらすもの》《あーお客様! 困ります! 食器は食べ放題の対象ではございません!》など数々の異名を持つ存在だ』
『最後のは異名ではない気が……と、ともかく、ダークホースになりえる存在ということですね!』
『ああ、食べ放題の店などは、このフェスと同等かそれ以上に変換魔法の類には対策をしている。となると変換魔法を用いなくとも相当の大食いなのだろう。体躯から考えるとナロナージャ選手のような、消化吸収が異様に早いといった感じの特殊な体質を持っているのかもしれない』
ベルゼは世間的な知名度はそこまでではあるが、料理業界においては知ってる人は知っている程度には知名度がある。
主に彼女が一度訪れた食べ放題の店には、翌日に条件欄に『ベルゼ・カルネは除く』と書き足されている。食べ放題店に関しては一度行けばほぼ確実に出禁を喰らっていて、料理評論家であるチェザーレはそれを耳にしたことがあった。
なお、何店舗か被害にあった後は、彼女が食べ放題の店に行くときには快人が付いていくようになったので被害が抑えられており、あまり噂が大きく広がることは無かった。
故にその凄まじさが広まり切っていない。つまり……そう、これから訪れるのは……約束された勝利と……蹂躙である。
~ちょっと解説~
【新たなネームドたち】
特に今後再登場の予定もなく、仮に再登場するならもう一度自己紹介からやらせるので、覚えておく必要は無し。
【ただし、ベルゼ・カルネは除く】
ベルゼが訪れた食べ放題店が翌日に書き足す悲痛な叫び。
「当店は大型のお客様にもご満足いただけますが、ベルゼ・カルネは無理なので勘弁してください」




