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むつら☆ぼし  作者: 灯台


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感動的だな、だが暴食だ



 スイーツフェスに出店側として参加している店舗や個人は、共にフェスを盛り上げる協力者でもあり、販売数を競い合うライバルでもある。

 定額での食べ放題という形式のイベントであるため、売上を競うわけではないが各店ごとに食べられた個数がカウントされ、最後に順位発表があるため名声を求める競い合いも発生する。

 そして競い合い……戦いがあるということは、そこに様々な思惑やドラマが生まれるのも必然ではあった。


「……そ、そんな……どうして……」


 店舗の上に表示されたスイーツが食べられた個数、隣の店舗との差を見て絶望したような表情を浮かべて呟く女性の姿があった。

 まだフェスが始まって数時間ではあるが、既に隣の店には大きく個数で差を付けられてしまっている。


「……結果は見えたわね」

「……お姉ちゃん」


 そんな彼女に隣の店舗の主である女性……彼女の姉が声をかけてくる。そうふたりは姉妹であり、今回のフェスにおいて互いの想いを掲げて競い合うライバル同士でもあった。

 姉妹はかつて菓子職人ではあったのだが、妹の方は一度厳しい現実に心が折れ菓子職人としての道を諦め、菓子作りとは別の仕事に就いて生活していた。


 姉の方は菓子職人として成功をおさめ、それなりに有名な菓子職人となっていた……そう、確かに成功はしたがそれなりというレベルであり、姉の方もまた厳しい現実という壁を感じ足掻いていた。

 そして数年ぶりに再会した時、優しかった姉はただひたすらに菓子作りの技術と店の名声だけを求める存在に成り果ててしまっていた。


 技術と名声だけを求めるようになり、客の事すらまともに見なくなってしまっていた姉の目を覚まさせるため、妹は再び菓子職人となり錆び付いていた腕を磨き直して、今回のフェスで姉に勝負を挑んだ。


「確かに、貴女のアイディアは面白かった。食材の組み合わせにもセンスを感じた……けど、決定的に技術が足りてないのよ」

「っ……」


 しかし、数年のブランクは完全には埋まらず。菓子職人としての姉との技量の差は明確に数字として表れてしまっていた。

 フェスが終わった訳ではない。しかし、開催してここまでの数時間での差を考慮すれば、この先妹が逆転する未来は見えない。


 悔やむように目に涙を浮かべてうつむく妹に対し……姉はフッと小さく笑みを溢した。


「……でも、貴女の勝ちよ」

「え?」

「確かに拙い。クリームの舌触りも、カットの技術も……でも、貴女のスイーツを食べて大切なものを思い出した。昔、一緒にケーキを作ったことがあったわね。お母さんに教わりながらふたりで一生懸命……いま思えば酷い出来のケーキだった。でも、本当に美味しくて、なにより楽しかった」

「……うん」

「自分の店をもって、トップクラスの菓子職人たちとの差に悩んで、技術と名声ばかり追い求めて……いつの間にか、菓子作りが好きだって気持ちを忘れてしまっていた。それを、貴女のスイーツが思い出させてくれた……拙くとも心に響く、そんな味だったわ」

「お姉ちゃんっ……」


 優し気に微笑む姉の表情は憑き物が落ちたかのように晴れやかであり、妹は感極まった様な表情で姉に抱き着く。それを優しく受け止め、軽く妹の頭を撫でながら姉は苦笑を浮かべる。


「……ただし、貴女の腕が未熟だってのは変わらないわ。菓子職人としてもう一度やっていくなら、一から技術を教え直してあげるから、覚悟しておきなさい」

「……うんっ……うん!」

「まったく、泣き虫なところも相変わらずね」


 わだかまりは解け、ふたりの間には優く温かな空気が流れ、確かな姉妹の絆が感じ取れた。


 そんな光景を、離れた場所にあるテーブルに座り、爵位級高位魔族としての優れた聴覚でやりとりを聞いていたシリウスが、ドリンクを飲みながら呟く。


「……一件落着という感じか、たまたま聞いただけだから事情は想像する程度だが、勝負には負けつつも妹が姉の心を動かすことに成功した形か」

「感動的だよね。ボクもふたりの絆が感じられるいい話だと思うよ……その後ろで、単騎で戦局覆してる奴が居なければ……」

「どうも、あまり人気が無いスイーツならたくさん食べてもOKって判断したみたいっすね」


 シリウスの言葉にアルフェラとウルペクラもなんとも言えない表情で呟く。そう、彼女たちが離れた場所の姉妹のやり取りを偶然にも聞いていた理由は、三人が動向を気にかけている存在……ベルゼがそこにいるからであり、いまも妹の店の前に並んだスイーツを次々に口に放り込んでおり、妹の店の上にある個数カウントが凄まじい勢いで増加していた。


「あっ、あのふたりも気付いた……唖然としてる」

「それはそうだろう。技術で勝る姉が妹を大きく離していたにもかかわらず、ちょっと目を離した間にその差を逆転させる勢いでスイーツを食べるやつが現れたら、あのような顔にもなる」

「気まずい空気になってるっすけど……どうするんすかね?」


 物凄い勢いでスイーツを食べるベルゼを見て、姉妹はポカンとした表情を浮かべた後で我に返り、何度か困惑したような表情で顔を見合わせた後、姉の店のスイーツを持ってベルゼに近付く。


「……あの、こっちも食べませんか?」

「お、お姉ちゃんのスイーツは美味しいですよ!」

「え? そっちは人気っぽかったから、あんまりたくさん食べると迷惑かなって……いいの?」

「ええ、まだまだ作りますので!」


 このままではベルゼの影響によって、いい話でまとまりかけていたのに妹側が逆転してしまう形になりそうで、姉はもとより妹も慌てた様子でベルゼに姉の店のスイーツを勧めていた。

 妹のスイーツの味が後々評価されて逆転というならともかく、単騎の化け物ひとりの影響で覆るとなんとも言えない気持ちになるので、致し方ない形である。


「ん~こっちも美味しい!」


 許可を得たことで姉の店のスイーツもまったく衰えぬ勢いで食べ始め、それを見ていた姉妹は心底驚いたような表情で呟く。


「……凄い人も居るんだね、お姉ちゃん」

「反応がないってことは、物質変換魔法を使ってるわけでもない……あんな小さな体のどこにあれだけの量が……」

「で、でも、やっぱりお姉ちゃんのスイーツは凄いよ。私も食べたけど、最高の味だった!」

「ありがとう……でも、私自身としてはなにか足りてないような……もっと美味しくできた筈なのにって気持ちもあるのよ。なにが理由かは分からないけどね」


 気を取り直すようにわだかまりが解けた姉のスイーツを称賛する妹。それを聞いて苦笑しつつも、どこか自分の作ったスイーツに足りないものを感じているという姉。

 そんなふたりのやり取りに、ベルゼが食べていた手を止めて振り返る。


「……ああ、次は天空ぶどうを加えるといいよ」

「……え?」

「爽やかさをテーマにして綺麗に纏まってるし、技術も高い。けど、爽やかな味わいイコール柑橘系って固定観念に囚われちゃってるね。天空ぶどうを二~三粒加えるとグッと味が引き締まるよ。いまのも十分美味しいけどね!」

「……あっ、すみません。そこ、もうちょっと詳しく……」


 ニコニコと満面の笑みでアドバイスをするベルゼの言葉を聞いて、姉はメモ帳を取り出してベルゼに詳しい話を聞き始めた。

 ともかく食べるという印象が強いベルゼだが、料理の腕は超一流であり改善点などは的確にアドバイスできる。途中で加わった妹にも改善点を提示しつつ、発想力やセンスに優れる妹と技術と応用力に優れる姉……ふたりで組めば相性は抜群だという形でアドバイスをしていた。


 その光景を離れた場所で眺めつつ、アルフェラはウルペクラに尋ねた。


「そういえば、大食い選手権の話は大丈夫だった?」

「いちおう運営には伝えたんすけど……イマイチ半信半疑というか『大量に用意してあるので大丈夫ですよ』って感じだったっす。いや、分かるんすよ。変換魔法無しでも大量に食べる存在とは認識してくれたんでしょうけど、想定の範疇内の大量って感じに楽観視してる気がするっす」

「まぁ、そこは致し方ないだろう。その気になればこのフェスのスイーツを根こそぎ喰らい尽すこともできると言われても、簡単には信じられぬだろうからな」


 既にベルゼは大食い選手権へのエントリーは済ませているが、大食い選手権の開催は二時間ほど先であり、現状は普通にスイーツフェスを楽しんでいる形だった。

 毎年開催しているということで、運営も変換魔法抜きでも大食いという存在は何度も見てきたのだろう。ウルペクラがもたらした忠告も、どこか常識の範疇で考えている節があった。


 まぁ、参加するのが別世界から来た特殊な生物で、口の中はほぼ無限に近い異空間になっているなどと説明しても頭がおかしいと思われるだけなので、ウルペクラもある程度は伏せてとにかく大量に食べる者であると説明していたので、仕方がない部分もある。


「……いざという時、カイト様に来てもらえるように一報入れとくっすかね」

「必要になったら、ボクが迎えに行ってくるよ」


 なんだかんだでベルゼは善良なので、無茶苦茶な暴走をすることは無いと思うのだが……念のために対ベルゼ用の最終兵器である快人に連絡が付くように手を回しておいた。



~ちょっと解説~

【対ベルゼ用最終兵器】

言わずと知れた世界の特異点こと快人であり、とりあえずベルゼ対策としては快人を連れてくれば安心である。

というのも、ベルゼはとにかく快人が大好きなので、快人が居ると食べることより快人と話したり一緒に居ることを優先するため、特に注意とかしなくても食べるペースが圧倒的なほどに落ちる。

なにも食べないというわけではなく、普通に雑談しながら食事するような一般的な量になるし、快人が料理を食べさせてくれたりしたらそれだけでデレデレになって一時的に食事を止めたりするので、本当に居るだけでベルゼが暴食する可能性が激減する。


あと単純に忠犬張りに快人の言うことは聞くので、なにかやらかしても止めるのが簡単というのもある。


【菓子職人姉妹】

ベルゼにいろいろアドバイスを貰った結果、ふたりでコンビを組んで菓子職人として躍進していくことになる。アイディアとセンスに優れる妹と技術に優れる姉のコンビは相性抜群であり、後にいくつかの賞も受賞することになる。


アドバイスをくれたベルゼには感謝しており、フェスの後も長い付き合いになるのだが、後にふたりの店に関しては「ベルゼ・カルネは事前予約せずに来訪しないこと」「来訪する場合は自分で食材を持ってくる事」「調理器具は食べないこと」というルールが出来たとか……。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です!タイトルからもしかしてと思っていたらベルゼさんが食べ続けてる様子がw しかも理由が人気が少ない所からというまさかの内容に作る側も驚くだろうな 影響の関係ない方がまさか現れるとは思わな…
人気ないから食べたって聞かされたらショックだろうな笑
またタイトルから笑かしてくるなぁ・・・思ってたら最初はすごく良い話だった。 姉妹愛再びって感じで、今後の2人の成長を楽しみになるようないい話。 ・・・ベルゼちゃんがそれを微妙な空気に変えちゃったけど…
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