蹂躙の予兆
賑わうスイーツフェスの会場にやってきたウルペクラたちは、入場券を購入してスイーツフェスに参加する。形式的には入場券がそれなりに高額な代わりに、会場内の店舗のスイーツは食べ放題という形になっている。
また、魔法具によるカウント表示があり、店舗ごとにどれだけの数のスイーツが食べられたかというのをカウントしており、最終的に順位が出るなどの競争要素も多少はあるようだった。
「お~結構な規模っすね。会場全体に施してあるのは、制限をかける結界っすかね?」
「そのようだな。この形式だと……ああ、なるほど。食べた品を体内で魔力に変換する術式を禁止及び、使用を試みた際には感知できるようにしてあるのか……」
「受付でも物質変換系の術式は禁止って言ってたね」
かなり広く店舗数も多い会場を見てウルペクラが感心した声を上げつつ、会場全体に施された結界に言及しシリウスとアルフェラもそれに反応する。
ベルゼはあちこちの店のスイーツに目を輝かせており、あまり聞いていないようだった。
「……ん~でも、あの術式ってかなり高度だよね? 使える人はそんなに多くさなそうだけど……」
「いや、効率度外視ならかなり簡単っすよ。アルフェラが思い浮かべているのは、アタシたちが使うみたいな食べたものを魔力変換して魔力を回復するような形っすよね。変換効率を考慮せずに、ただ食べたものを魔力に変えるだけなら、ある程度の技量で出来るっす。まぁ、その場合は魔力に変換するのに消費する魔力の方が、得られる魔力より遥かに大きくなるので、たくさん食べるって目的以外では使う意味ないっすけどね」
それなりに高度な術式ではあるが、食べたものを即座に魔力に変換するということ自体はでき、魔力が続く限り食べ続けることはできる。
ウルペクラたちのような爵位級レベルになれば、変換に消費する魔力より変換によって得られる魔力の方が大きくなるレベルに効率化し、食べることで魔力を回復し事実上無限に食べ続けるということも可能ではある。
ただしそれができるぐらいのレベルであれば、食事は嗜好であり必須ではないものが大半であり、よっぽど食べるという行為が好きでない限り大量に食べたりする意味もない。
実際ウルペクラたちも無限に食べ続けることはできるが、あくまでできるというだけで大抵の食事で食べる量は普通の者と大差ない。
魔力回復という点においても、わざわざ物質を魔力に変換するという肯定を挟んで回復するより、空気中の魔力を吸収して自分の魔力に変換するほうが遥かに楽で回復量も多いため、魔力回復目的で行うにしても微妙である。
「慈善事業というわけではないからな。その手の術式を対策するのは必然だろう」
「そうだね~制限と検知両方に対応した高度な結界だし、お金かけて専門家に依頼したんだろうね」
「制限の方は実力者なら無視出来るっすけど、検知の方は結界自体を壊したりしないといけないっすから、いい対策っすよね……ええ、一般的な連中に対しては……」
おそらく魔法にかなり詳しいものに依頼をして作ったであろう高度な結界魔法であり、使用制限のみでは転移阻害を転移魔法の達人なら無視できるのと同じように、無視して使用することができる者もいるが、結界内で術式を使って検知の方を誤魔化すのはかなり大変であり、対策としてはしっかり機能している。
まぁ、そもそも結界の制限を無視できるような……世間的にも名が知られているであろうクラスが、非難の的になるというリスクを犯してまでそんなことをする意味もない。
「……いや、本当に、いい対策だと思うんすよ……普通なら」
「うん。ボクもしっかり考えられてるって思うよ……常識の範疇内ならね」
「……問題は、それらの対策が我らが連れてきてしまった暴食の化け物には、まったく意味がないということだな」
なんとも言えない表情で呟く三人の視線の先では、さっそく入場口に一番近い店からとってきたのか、大量のスイーツをミニクッキーのようにポンポン食べているベルゼが居た。
そう、ベルゼの力は魔法ではなくただの生態である。表現するのなら、ベルゼの体内は一種の亜空間のようなものであり、事実上無限の胃袋を持っているに等しい状態である。
そしてこれは別に時空間魔法を使っていたり、変換魔法を使っていたりするわけでもなく、単に生まれ持ったベルゼの体質であり、結界魔法で制限も検知もできない。
つまり、このスイーツフェスに施された対策は、なにひとつベルゼに対しては制限となりえないのである。
「……ベルゼ、いいっすか。口を増やすのは禁止っす。ひとつの口で食べることと、自分で言った通りちゃんと加減するんすよ?」
「任せて! ほら、いまだって皿は食べずにちゃんと……あっ」
「うっかり齧ってるじゃねぇっすか……」
「だ、大丈夫。ちゃんと同じの作って返却しておくから……紙皿は別に食べてもいいよね?」
スイーツフェス内では、運営が用意したフェス用の小皿か店舗が用意した紙皿に乗ったスイーツが各店舗に用意されており、それを取る形になっている。食べ終えた後の小皿は会場の各地にある回収スペースに持っていって返却する形式となっている。
齧ってしまったのを同じ小皿を作り出しつつ、紙皿の方は普通に口に放り込むベルゼは楽しそうであり、実際に取ってきた量を考えると本人が宣言した通り自重はしている様子だったが、不安は消えない。
そんなやり取りをしていると、拡声魔法具による声が聞こえてくる。
『さぁ! 毎年恒例、シュークリーム大食い選手権! 当日の飛び入り参加の受付締め切りまであと三十分だ!』
それはスイーツフェス内でのイベントの告知であり、それだけならごく普通の出来事である……それを聞いて目を輝かせ始めた暴食の化け物さえいなければ……。
「……あっ、終わった。大食い大会が蹂躙に変わるよ」
「他の参加者全て対ベルゼ単独でも勝負にならんだろう。むしろ、シュークリームの数が持つのか心配だ」
「……アタシちょっと運営のとこ行って、このアホが食べた分は後で補填させるって説明してくるっす」
~ちょっと解説~
【ベルゼの知名度】
そもそもの問題として、快人がベルゼを連れて来てから三十年ほどしか経過しておらず、世間的な知名度は決して高くなくベルゼを知らないものも多い。知られていたら、会場に入った時点で運営が土下座して「勘弁してくれ」と泣き付いてくるレベルには食べる子。
無限の暴食も魔法を使ってたりするわけでもなく、本人の体質みたいなものなので、制限や検知で対策することができないため、食べ放題イベントを殺戮する悪魔。
ちゃんと自分で宣言した通り自重しているし、他人が美味しいものを食べる機会を奪うようなことは好まないので、実際はそうそうやらかすことも無いのだが……どうしても不安は残るし、大食い大会を開催するなんてもってのほかである。
なお、一番確実な対策は快人を一緒に連れて行くことである。




