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むつら☆ぼし  作者: 灯台


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スイーツフェスへ



 死の大地にある訓練用の空間隔離結界の中、六椀の剣鬼の異名を持つシリウスが六本の腕で剣を振るう。ただでさえ公爵級であり、魔界でも屈指の剣士と言っていいシリウスは凄まじいほどの剣の腕前を持つ。

 さらに巨大な剣を六椀それぞれに持ったとしても、軽々と震えるほどの力もあり、神速で放たれる斬撃はそれこそ伯爵級以下のレベルなど、知覚もできぬうちに粉微塵に切り裂かれるほどだ。


 しかし、現在シリウスと対峙しているのもまた世界でも屈指の実力者……空間隔離結界を歪めるほどの威力と光すら遥か置き去りにする速度で振るわれる斬撃に対し、時には突き出された剣先を足場に跳躍したりと、舞い踊るように回避しているのは、同じ公爵級高位魔族であるウルペクラだった。


「やっぱり、シリウスの剣速はとんでもないっすね。ひやひやするっすよ」

「全て回避しておいてよく言う……しかし、やはり感応魔法を使うお前を捉えるには、反応し切れぬほどの速度が必要か……」

「さすがにそこまでガチでやると、この空間隔離結界が持たないっす。やるなら特別な結界作ってからっすね」


 しばらくシリウスが剣を振るいウルペクラが回避するというのを続けた後、一度手を止めて感想を言い合う。今回ふたりが鍛錬に利用している空間隔離結界は、アイシスの居城の周囲にいくつか用意されている永続型のものであり、手軽ではあるが強度はやや低い。

 もちろんそれでも並みの伯爵級下位レベルぐらいが全力で戦ってもビクともしないのだが、さすがに公爵級であるふたりが全力で戦うにはもっと強力な結界を用意する必要があるが……そのレベルの結界は準備も大変なので、いまはある程度抑えた状態での鍛錬だ。


「休憩した後またやるっすか?」

「ああいや、今日はこれで終わりにするつもりだ。行きたいところがあってな……これなんだが、よければウルペクラも一緒に行かないか?」

「うん? おぉ、人界で開催されるスイーツフェスっすか、いいっすね」


 シリウスが取り出したのは人界で行われるスイーツフェスのチラシであり、やや高めの入場料を支払えば会場内のスイーツは食べ放題というイベントだった。


「シリウスは甘いもの好きっすよね」

「というよりは、私も含めた虫人型魔族は、多くが辛味や苦味を鋭敏に感じてしまって苦手としているからな。必然的に甘いものを好むようになるという感じだ」

「まぁ、そういう種族的な味覚の違いってのはよくあるっすよね」


 シリウス個人がというよりは、虫人型魔族の大半が甘いものを好むので、スイーツフェスなどはかなり興味を引かれるイベントと言ってよかった。

 ウルペクラとシリウスは結界内を軽く片付け、魔法で汗などを綺麗にしてから外出の準備をするため一度居城に戻る。

 並んで廊下を歩きつつ、チラシを眺めていたウルペクラは首をかしげながら口を開く。


「……う~ん、この会場の街、アタシは行ったことない場所っすね。世界座標知らねぇっす」

「私もだ。まぁ、さすがにチラシに世界座標は乗ってないからな。地図で場所を調べれば、世界座標も分かるだろう」


 過去に行ったことのない場所であっても、世界座標さえ分かれば彼女たちクラスなら転移魔法で移動できる。ただし、世界座標を用いた転移はかなりの高等魔法なので、一般人向けのチラシに会場の世界座標が記されている筈もなく、まずは地図などで世界座標を調べなければならない。

 もちろん最寄りの転移ゲートなどは記されているので、それを参考にすればそれほど時間はかからない。


「それより手っ取り早い方法があるっすよ」

「うん?」


 なにかを思いついたように告げたウルペクラは、近くの柱の影の部分を軽くノックして呟く。


「ヘイタクシー」


 ウルペクラがそう声をかけると、空中に黒い線が走り、そこからアルフェラがヒョコッと上半身を出して首をかしげる。


「……いま、ボクを呼んだの? というか、ヘイタクシーってなに?」

「アタシも詳しくは知らねぇっすけど、異世界で移動手段を呼ぶときには、ヘイタクシーって言うらしいっすよ。タクシーってのが乗り物らしいっす。アカネさんとかの話だと、昔はシータクとかって呼ばれてて、ザギンデシースーとかギロッポンデグーフーとかって呪文を唱えると、目的地に運んでくれるらしいっす」

「へ~異世界には魔法が無いって聞くけど、タクシーってので移動するんだね。クルマってやつとは違うの?」

「えっと、確かアリス様に聞いた話だと、基本は同じらしいっすけど、タクシーはこっちで言う転移屋。対価を払って運んでもらう感じで、個人が所有する転移魔法具みたいにクルマを持ってるパターンもあるらしいっす。あと他にも寄合馬車に近いデンシャとか、飛竜便に近いヒコーキってのもあるらしいっす」

「ふ~ん、やっぱり世界が違うと文化もかなり違うんだね~」


 ウルペクラの説明に感心したように頷いたアルフェラだったが、そこでふと思い出したような表情で口を開く。


「ああ、それでどうしたの? ボクに何か用?」

「シリウスと一緒にスイーツフェスに行こうって話してたんすけど、アタシもシリウスも行ったことない場所っすから、アルフェラに送ってもらおうかと……というか、アルフェラも一緒に行かねぇっすか?」

「へぇ~楽しそうだね。うん、行く行く」


 アルフェラは転移魔法の達人であり、同時に影に関した非常に強力な能力を持つ。極端な話、彼女は影さえあるのなら、どことでも空間を繋ぐことができる。

 世界座標を知らなくても、大まかな位置さえ分かってればその辺りの影を探知して空間を繋ぐのも容易だ。


「じゃ、決まりっすね」

「アルフェラが転送してくれるなら安心だな」

「うんうん、でも楽しみだね~。いろんなスイーツが食べられそうだし」

「そうだね。だけど、この手の店舗などが競い合うタイプのフェスだと、どうしても人気店の品に需要が集中する。そうなると、ある程度回り方とかも考えておかないと、目当てのスイーツが食べられないって事態にもなりかねないから、そこは注意してね」

「「「……うん?」」」


 三人でスイーツフェスに行こうとしたタイミングで、ウルペクラでもシリウスでもアルフェラでもない声が聞こえてきて、三人が振り向くと……そこにはキメ顔のベルゼが居た。


「……いや、アタシたちはスイーツフェスを楽しみに行くんすよ。会場を地獄絵図に変えに行くわけじゃねぇんすよ。食べ放題系のイベントにベルゼ連れて行くとか、ほぼテロじゃないっすか……」

「やだやだやだ! 私も行く! そんな美味しそうなイベントに置いてけぼりなんて絶対やだ! ちゃんと加減して食べるからさ!」

「……本当に加減して食うんすよ? 皿とかテーブルとかも食べちゃ駄目っすからね。やらかしたら、カイト様に言ってガチ目に叱ってもらうっすからね」

「任せて! 美味しいものが好きな私が、他の人が美味しいものを食べる機会を奪うような真似をするはずがないよ!!」


 唐突に表れた暴食の化身に、ウルペクラが明らかに微妙そうな顔というか……「本当に食べ物の話すると湧いて出て来るなコイツ」と呆れつつ、こうなってしまっては仕方ないと諦めたような表情を浮かべて苦笑していた。



~ちょっと解説~

【今回のあらすじ】

脳筋「スイーツフェスに行かないか?」

狐「いいっすね! ついでに足代わりに大根も連れて行くっす!」

大根「ぶん殴るぞテメェ……それはともかく、スイーツフェスは楽しみだね」

暴食「……やはりスイーツフェスか、いつ出発する? 私も同行しよう」

狐「……呼んでな院」


【各キャラ】

ウルペクラ……甘いものは普通に好き、食べる量はごく普通。ゆっくり食べて楽しむタイプ。

シリウス……大の甘党、体格のわりに少量で満足するため食べ放題にはあまり向かない。

アルフェラ……甘いものは好き、食べる量に拘りは無く、いろいろな種類を食べたりするビュッフェ形式が好き。

ベルゼ・カルネ……食べ放題の殺戮者。

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― 新着の感想 ―
殺戮者って笑
「ベルゼ」+「食べ放題」=「混ぜるなキケン」
アルフェラ忘れてたけど足大根で思い出せた
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