晶花星スピカ
死王配下幹部六連星のひとりにして、ブルークリスタルフラワーの精霊である晶花星スピカ……白を基調として、ところどころに青の差し色が入った上品で美しいドレスに身を包み、雪のような白い髪と青い目……キリッとした表情をしていると、どこぞの貴族か或いは女王かと容姿。
しかしてその容姿に、ふにゃという擬音が似合う緩い微笑みを携え、異世界で言う関西弁や京都弁が中途半端に混ざったような独特の喋り方をする。表現するならぽやぽやした感じの女性である。
スピカは魔界一番ののんびり屋ともいえる存在であり、それこそ景色を見たりしてのんびりし始めると、数時間はそのまま微動だにしないというのもしょっちゅうである。それどころか、アイシスの配下になる前にはそれこそ同じ場所で数年から数十年。場合によっては数百年以上も動くことが無く景色を眺めていたほどにはのんびり屋である。
現在は死王配下に加わり、行動する機会はかつてとは比べ物にならないほど多くなっているが、それでもやはりどこかのんびりした空気を纏った。見るからに優しくて緩い女性だった。
そんなスピカは現在居城から少し離れた死の大地の丘に来ており、散歩をするかのように歩いていた足を止めて視線を動かす。
一面に広がる雪景色と、少し離れた場所に見える居城、ところどころ岩山のコントラストがある死の大地の風景を見てホッと息を吐く。
「……ええ景色やなぁ。ちょお、見て行こうかな?」
「スピカ!」
「あれ~? どないしたんウル?」
「いやいや、アタシたちは新しい花畑の場所を考えに来たんすよ! なに、のんびり景色眺めるモードに入ろうとしてるんすか!?」
美しい景色に目を細めたスピカだったが、直後に鋭さを感じる声が聞こえて振り返ると、ウルペクラが呆れたような表情を浮かべていた。
「いや、ええ景色やし少しだけ見ようかな~って」
「スピカがそれやりだすと、数時間は経過してあっと言う間に日が暮れちゃうじゃないっすか……というか、それを防止するためにアタシが付いてきたんすよ」
「ん~そっか~残念やけど、確かに花畑の場所を考えんとなぁ」
元々仲が良く一緒に行動することが多いスピカとウルペクラだが、今回は遊びに来たりしたわけではなく、前々から考えてはいたブルークリスタルフラワーの花畑の追加に関しての下見に来ていた。
現在晶花宴で使われている花畑は、立地的に大人数を収容するのは難しく、参加者はある程度絞る必要があった。なので新しく会場として使える花畑を作ろうとしているのだが、スピカひとりに任せるとところどころでのんびりし始めてまったく話が進まないため、ウルペクラが一種のストッパーとしてどうこうしている形だった。
「アタシとしてはここがいいと思うんすよね。ほら、丘ですから見下ろす形で結構広い範囲が見えるっすから、あの辺りに花畑を作れば、数千人ぐらいは行けると思うんすよね。問題は、いま会場に使ってる花畑からは結構離れちゃうところっすね」
「せやなぁ。晶花宴中に行ったり来たりはできひん距離やね。こっちに作るとしたら、参加枠事態を分けるべきやろうね。でも、ウルの言う通りここはええなぁ。あの位置に花畑を作ったら、アイシス様の城も見えるし雰囲気もええな」
「位置関係的にもクリスタルシティと居城の間で、あっちの花畑に移動する組とまとめて連れてくることが出来るっすし、やっぱここが第一候補って感じっすかね」
「この辺りは~花畑を作っても問題ないんやろか?」
「基本的には、周囲の山に魔水晶や宝石類は無いので大丈夫だと思うっすけど、リゲル発見した時みたいに地下に変な遺跡がある可能性もあるので、決まったら一度調査してもらう必要があるっすね」
死王配下の一員である謎のゴーレムことリゲルは、死の大地の地下にいつから存在したか分からない遺跡に眠っており発見したのはたまたまといっていい。
たまたま地下世界が描かれた本を読んだアイシスが、普段あまり気にすることのない死の大地の地下に意識を向けた際に、ほんの微かに奇妙な気配を感じ取り、それを元に調査した結果地下数千メートルというかなり深い場所に謎の遺跡があり、その奥でリゲルと発見することとなった。
「それやったら、ここと第一候補として皆に調査してもらおうか……」
「そうっすね。変なもんが見つかったり、調査の過程で問題点が出てきたら別の場所を考えるっす」
「はいな~……それじゃ、候補地も見終わったし、花畑に水やりに行こうかな」
「アタシも付き合うっすよ」
「助かるわ~ありがとうなぁ」
候補地の下見はこれで終わり、スピカとウルペクラは恒例ともいえる花畑の水やりのために移動する。その最中でなにやら戦闘音が聞こえてきてふたりが視線を動かすと、少し離れた場所に結界が見え、ラサルとシリウスが戦っていた。
「……ま~たやってるっすよ、あの馬鹿ども」
「いつも通りの光景やね……うん? ウル、なにしてるん?」
いつも通り喧嘩をしている様子に呆れたような表情を浮かべたかと思うと、ウルペクラはしゃがんで雪玉を作り始めた。
首をかしげるスピカの前で綺麗な雪玉を完成させたウルペクラは、ラサルとシリウスが戦っている結界の方向に向かって雪玉を転がした。
「……なんなんアレ?」
「転がっていくうちにどんどん巨大になっていく術式を込めた雪玉っす。隠蔽魔法もしっかり施したので、綺麗にふたりとも飲み込んでくれたら最高っすね」
「……ウルも相変わらずやな~」
例によって速攻悪戯を仕掛けたウルペクラを見て、スピカは苦笑を浮かべた。
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花畑に到着して、さぁこれから水やりだというタイミングで、怒号と共に猛然と花畑に駆け込んできた者たちが居た。
「「クソ狐ぇぇぇ!!」」
そう、狙い通り雪玉に飲み込まれ全身雪まみれになったシリウスとラサルのふたりである。明らかな怒気を纏っているふたりにたいして、ウルペクラはニヤニヤと楽し気な表情である。
「いい感じに当たったみたいでよかったす! 似合ってるっすよ、雪かぶり姿」
「……ああ、本当に完璧な横やりだったな。私もラサルもヒートアップしていたタイミングで、完全にしてやられた」
「おかげデ、すっかり雪まみれというわけダ。素敵なコーディネートをしてくれた性悪狐にハ、キツイお仕置きという名のお礼が必要だナ」
「あはは、隙があるのが悪いんすよ。そんなの悪戯して……いた……あ、あぁ……あわわわ……」
「「うん?」」
これもまたいつも通りともいえるが、シリウスとラサルの言葉に嬉々として煽り返していたウルペクラだったが……なぜか途中でその言葉を止め、血の気が引くように顔が青ざめていった。
あまりにも珍しく、また予想外のウルペクラの反応にシリウスとラサルが首をかしげると、ウルペクラがガタガタと震えながら、シリウスの足元を指さす。
「シ、シリ、シリウス……あ、足……足元……」
「足元――はっ!?」
「シリウスの足――ば、馬鹿ナ!?」
ウルペクラが指さした先、シリウスの足元には……シリウスの足に踏み潰されている一輪のブルークリスタルフラワーがあり、それを見た瞬間シリウスとラサルも明らかに動揺して慌て始めた。
「あっ、ち、違うんだ! 決してそんなつもりは……す、すまない、スピカ! 心から謝罪する!」
「わ、私の方モ、不用心だっタ! もっと足元に注意すべきだっタ! は、反省していル、埋め合わせもちゃんト……」
「す、スピカ?」
「……」
三人とも明らかに動揺した様子でスピカの方を見る。スピカは魔界一ののんびり屋であり、いつもぽやぽや優しい女性である。彼女が怒る姿など想像もできないというぐらいに穏やかでのんびり屋な彼女ではあるが、たったひとつだけ逆鱗とも呼べる怒りのツボが存在する。
「…………とるんか?」
「「「え?」」」
「……三人とも……ウチに……喧嘩……売っとるんかぁ?」
「売ってなイ! 売ってなイ!」
「お、落ち着け、スピカ……す、すぐに花は元に戻す。だから、慈悲を……」
「さ、三人!? ア、アタシも入って無いっすか!? スピカ! アタシは違うっすよ! 確かに雪玉転がしたりしたっすけど、花にはなにも……」
それは、静かな微笑みだった。だが目は欠片も笑っておらず、空気を震わせるようなプレッシャーと共に、スピカの背後に巨大なブルークリスタルフラワーが現れる。
そう、基本的にほぼ怒ることのないスピカだが、目の前でブルークリスタルフラワーの花を傷つけるという行為は、唯一彼女の逆鱗に触れる行いであり、ガタガタと震える三人に対し普段からは想像もできないようなドスの効いた声で告げる。
「……ほだら……三人まとめて……死ねやぁ!!」
「「「ひっ……ぎゃあぁぁぁぁ!?」」」
普段怒ることが無い相手ほど怒らせると恐ろしいものであり、青ざめる三人に向かって巨大なブルークリスタルフラワーから閃光が放たれ、死の大地に三人の悲鳴が木霊した。
~ちょっとキャラ紹介~
【スピカ】
ブルークリスタルフラワーの精霊にして公爵級高位魔族。花の精霊としては最古の存在であり、魔界屈指ののんびり屋でもある。
いつも大体ぽやぽやのんびりしており「ちょっと一休み」とかすると、数時間は余裕で経過する。ウルペクラと仲が良く一緒に行動していることが多く、髪の色なども似ているため姉妹にも見える。
基本的に緩く温厚で、まず怒ることはないのだがブルークリスタルフラワーを傷つける行為が唯一の地雷。
古ければ古い程強い精霊の中で、最古の花の精霊であるため、精霊族としてもリリウッドに次いで強大な力を持っており、慈悲が消えると滅茶苦茶強い。




