天刃星シリウス
こちらも本編番外編むつらぼしの話を持ってきましたが、それだけでは味気ないのでレスバクソ弱厨ニな妖精足しときました。
死の大地にあるアイシスの居城から少し離れた場所には、死王配下たちが鍛錬などを行う場があった。空間拡張と空間隔離の魔法を複合した広く頑丈な空間に、アイシスの旦那である世界の特異点宮間快人……の部下を自称する神の助力もあって、死王配下たちが全力で暴れても問題ない場所となっている。
現在そこには対峙するふたつの存在と、それを少し離れた場所でみる小さな存在がいた。
「いくっすよ! 秘技十二刀流……えっと、技名思いつかねぇっす! 十二連斬!」
十本の尻尾と両手、合計で十二本という剣を持ったウルペクラが跳躍して器用に剣を振るって十二の魔力斬撃を飛ばす。
技名は適当でもそこは魔界でもトップクラスの強者といっていい公爵級高位魔族……ひとつひとつの斬撃は、巨大な山すら両断するほどの威力がある。
そんな十二の斬撃に対して、対峙していたシリウスは腰の六本の剣の内一本を抜いて構え、剣を数度振るうと……十二の斬撃は全て簡単に打ち払われた。
「……う~ん、駄目っすね。思い付きでやってみたっすけど、十二本ある意味ねぇっす」
「六刀流の私が言うのもなんだが、多ければいいというわけでもないからな。ウルペクラの実力が高いから無理矢理形にはなっているが、同格相手では使い物にはならないだろう」
ウルペクラにとって十二刀流は単なる思いつきであり、実戦で使うことを想定したようなものではない。単に思いついて、たまたま修練所にシリウスが居たので付き合ってもらって試しただけだ。
そんな会話をするふたりに、少し離れた場所から近付いてきたのは全身黒づくめの妖精……ムジカである。
「……確かに効率だけを追い求めるなら違うかもしれないが、俺は好きだぜ十二刀流」
「おっ、ムジカ的には高評価っすか?」
「シャドーだ……ああ、十二という数字がいいな。知っているか? 異世界には、星を示す十二星座、年を示す十二支、それに神話の十二神なんてのもあるらしい。そう、どれも十二だ……偶然か、はたまた因果か……或いは十二という数字そのものに力が宿っている……そうは思わないか?」
「別に思わねぇっす」
「……」
「……あ、いや、やっぱ思うっす。異世界に所縁のある数字ってロマン感じるっすよね! だから、泣きそうな顔しないで欲しいっす」
同意を求めるムジカをアッサリと切って捨てたウルペクラだったが、切れ味が鋭すぎたのかムジカがいまにも泣きそうな顔になったため、慌てた様子で前言を撤回した。
「まぁ、何刀流であれ強い者は、数など関係なく強い者だ……あの剣士のようにな」
「ああ例の超越飛翔蛇流を使うという剣士か……なかなかいい名前の剣技だ。俺の魂の片割れが、理とは鎖だと語っていた。さすが黒き疾風……真理を突いている。蛇が空を飛べないというのも、常識という名の一種の鎖といえる。飛翔する蛇とは、常識を打ち破り高みに昇ることを示しているのだろうさ」
「……ウィンドスネークとか空飛ぶ蛇も居ると思うんすけど?」
「……」
証明から正論をぶち込まれたムジカは、なんとも言えない恨めしそうな表情でウルペクラを見るが、上手い返しを思いつかなかったのかワザとらしく懐から懐中時計を取り出す。
「……おっと、悪いな。若い狐にロマンのなんたるかを教授したかったところだが、あいにくと時間は有限だ。約束があるのでこれで失礼する……遅れると拡声魔法使って大音量で名前を呼び始めるからな」
「ああ、リゲルと約束してるんすね。はいはい、それじゃまた~」
軽く手を振りながら去っていくムジカを見送りつつ、ウルペクラはシリウスに声をかける。
「アタシたちも城に戻りますかね?」
「そうだな、私も今日の鍛錬は終わったからな……」
元々ウルペクラが来た時点で鍛錬は終わっていて、シリウスは思い付きの十二刀流に付き合っていただけなので、ふたり一緒に居城へと戻っていった。
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城に戻ってきて、ふたり並んで廊下を歩いているが、どこか上機嫌に見えるシリウスに対して、ウルペクラはうんざりした表情を浮かべていた。
問題はつい先ほど話題に上がった超越飛翔蛇流の剣士であり、その剣士に並々ならぬ思い入れがあるシリウスは移動の傍らその剣士について熱く語っていた。
「……というわけで、私は決意したのだ。腕を磨き、再びあの剣士に戦いを挑んでみせると!」
「もうその話は、本当に呆れるぐらいに聞いたっすよ。けど、不思議っすよね。そんな凄い実力の剣士なのに、噂の欠片も見つからないって……」
「やはりアイシス様が予想されたように、別の世界で腕を磨いているのかもしれないな」
「……それか、もしかしたらもっと根本的な部分を勘違いしているとかっすかね?」
シリウスがかつて破れた剣士を目標に腕を磨いているという話は、死王配下の誰もが知っている。というか、しょっちゅうその話をしているので、耳にタコができるなどというレベルではないほど聞き飽きていた。
ウルペクラもまた始まったかと言いたげな呆れた表情を浮かべていたが、あまりにも見つからないその謎の剣士に対して、なにか見落としがあるのではないかと口にした。
ちなみに、シリウスの語るなぞの剣士に関しては、死王配下の面々はシリウスの言葉を信じているので、謎の剣士が実在するという前提で考えている。もちろんウルペクラも同様である。
「その剣士の手がかりっていうのは、シリウスと同じ虫人型で、超越飛翔蛇流って剣術を使うんすよね?」
「ああ、その通りだ」
「う~ん……見た目に関しては、虫人型は特徴的なので見間違えるとも思えないっすね。じゃあ、流派を聞き間違えているって可能性はないっすか?」
「ふむ、なるほど、面白い着眼点だ……だが、イントネーションが多少違ったところで意味のある言葉になるだろうか?」
ウルペクラの言ったことを面白いと称しつつも、シリウスは疑問を投げかける。
「そうっすね……超越飛翔蛇流……ちょうえつひしょうじゃりゅう……ちょうぜつひしょうじゃりゅう……『超絶美少女流』とか、どうっすか?」
「ははは、それはまた面白いな。しかし、剣術の流派に、流石にそんな『馬鹿まるだしの名前』を付けたりはしないだろう」
「まぁ、そうっすよね。響き的にはいいか――へ?」
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居城の廊下にポツンと立つウルペクラの元に、六連星のひとり極北星ポラリスが通りかかり、なんとも言えない表情を浮かべて首を傾げる。
「……やあ、ウルペクラ。我らが愛すべき居城に、どういった理由で『壁から生えた下半身』などという、趣味の悪いオブジェクトが追加されたのかな?」
「突如飛来した猫の着ぐるみが、私でもギリ視認できるかどうかの早さで鉄山靠決めて、ポーズして去っていったらこうなったっす」
「……シリウスは、幻王様になにか粗相を?」
「い、いや、それが分からないんすよ。別に、普通に話してただけなんすけど……」
ウルペクラは戸惑いつつ、先ほどシリウスと交わしていた会話をポラリスに伝える。
「……で、アタシがそれって超絶美少女流とかじゃないっすか~って言って、シリウスがそれを笑い飛ばしたら、シリウス自身が吹っ飛んだっす」
「ふむ、確かによく分からないね。しかし、超絶美少女流とはなんともへ……」
なにかを言いかけたポラリスだったが、直後に停止して少しの間虚空を見つめたあと、やや青ざめた表情で口を開く。
「いや、大変すばらしいネーミングだと思う。響きがいいね、輝いているようにすら感じるよ」
「……どんな『未来』を見たんすか?」
「……壁にもうひとつ趣味の悪いオブジェクトが追加される未来、かな……」
ポラリスには限定的な未来予知があり、条件はあるが己の行動の末の結果を先読みすることができる。その予知能力が見せたのは、シリウスと同じように壁に突き刺さる己の姿だった。
「……てことは、超絶美少女流ってのを馬鹿にするのがNG……いや、というか、超絶美少女の方っすかね? アリス様って、よくご自身を超絶美少女って言ってるっすし」
「ああ、そうかもしれないね。超絶美少女という単語を馬鹿にされたように感じて、シリウスが制裁を受けたと考えればしっくりくるよ」
「そうっすね。まぁ、それじゃ、シリウス引っこ抜くことにするっすよ」
とりあえずは納得したふたりは、壁に刺さっていたシリウスを引っこ抜く。そしてその最中に、ウルペクラはふとなにかを思い付いたように、近くにいるポラリスにも聞こえないほど小さな声呟いた。
「……実はシリウスの探してる剣士がアリス様だったり? いや、でも、そうだとしたら、虫人型魔族の剣士に変身して、シリウスの前に現れる理由がないっすね。じゃ、違うっすか……」
発想などに関しても天才的なウルペクラは、時折直感的に正解を叩き出すことがある……しかし、さすがのウルペクラも、幻王であるアリスが……大昔にたまたま傑作の剣が作れて、着ぐるみ着た上で、カッコつけて遊んでたところに偶然シリウスが現れてノリで一騎打ちをしたなどとまでは、考えが及ばず……謎は謎のままであった。
~ちょっとキャラ紹介~
【シリウス】
虫人型の公爵級高位魔族。魔界随一の剣士とも呼ばれる剣の達人。
かつて己を打ち破った謎の剣士をいまも追い求めているが、いまだに噂の欠片すら聞いたことはないが、己の話を信じてくれるアイシスや他の死王配下のおかげで焦りはなく、腕を磨きながらいつか再戦を夢見ている。
なお、該当の剣士が使っていた剣は、現在快人のマジックボックスに放り込まれているため、アリスは「いくつかの世界を渡って修行する中で快人に出会って忠誠を誓い、快人に剣を託して別世界に修行に行った」とかそういう設定にしようと画策しているし、後に実行して快人にピコハン(神製)で殴られる。




