地縛星ラサル・マルフェク
今回は、本編の番外編に書いたラサルのエピソードをほぼそのまま持ってきましたが……それだけでは味気ないので、存在が喧しいゴーレム足しときました。
死王配下幹部六連星のひとり、地縛星ラサル・マルフェク。無限に死霊兵を生み出す研究を完成させ、名実ともに死霊術師としての頂点に君臨する存在である。
ラサルは死王配下として死の大地に関連する取引全般の取りまとめを行っているが、それとは別に死王配下たちから頼まれて日用品などを作成したりすることもある。
ラサル自身が研究や開発が趣味であり、市販されてないような品……あるいは市販品より効果を強めた品などを頼まれ、本人曰く暇つぶしの一環として作成しており、現在も頼まれて造り上げた完成品を依頼してきた相手に受け渡していた。
「……頼まれた通リ、磨き液に香りを付けたゾ。何種類か作っておいたガ、それ以外の香りが欲しいのであれバ、その都度言ってこイ」
『おぉ、さすがラサさんでありますね! こんなにも早く作り上げてくださって、小生感激です!』
「本当に香りを付けただけだからナ……まァ、金属の磨き液に香水のような香りを付けるのは初めてだったガ、大した手間ではなイ」
ラサルが渡した品を受け取ったのは三メートルほどの金属で出来たゴーレム……リゲルであり、頼まれた品は艶出しに使う磨き液に香りを付けて欲しいというものだった。
『いや~やはり小生も乙女として、身嗜みや匂いには気を使いたいところでありますからね!』
「……乙女カ……まァ、どう思おうと本人の自由だナ」
『なんか、暗に違うって言われてるような気がするであります。小生は美少女モードになれるロボなわけで、乙女でいいと思うであります!』
「まァ、お前がよく分からん存在なのはいまに始まった事じゃないカ。相変わらズ、なにを動力としテ、どうやって動いているのカ、まるで分からん奇妙な存在だナ」
リゲルは金属で出来たゴーレムのような存在なのだが、その動力は完全に謎だった。魔力でもなく、かといって他のエネルギーというわけでもない。なんなら動くためのエネルギーのようなものを生成している様子もないが、なぜかよく分からないが動いているという不思議なゴーレムだった。
「そもそも核すらないしナ」
『う~ん、その辺ですが小生本人にもよく分からないであります。小生的には、冥王様のところのツヴァイさんに近い感じかな~と思ってるんですが、それも違う感じで?』
「まるで違うナ。確かに魔導人形とゴーレムというのは似通っているガ、あちらは世界最高峰の技術を持つクロムエイナ様ガ、一から緻密に組み上ゲ、魔力核の素材そのものから不滅性と無限再生機構を持つ素材を作り上ゲ、細部にまで神がかり的な精度で作り上げテ、自我を持ち成長する魔導人形として完成させた存在ダ。技術的にも素材的にもとても真似はできんガ、あちらは理論を持って組み上げられた芸術と言える存在……対してお前は構造から動力まデ、なにもかも謎デ、そもそもなんで動いてるのかすら分からん意味不明なポンコツ……似ているようでまるで違ウ」
『……ボコボコであります。小生ボッコボコに貶されてるであります。小生はアレですよ、きっと愛や希望を動力として動く、ロマンの詰まったスーパーロボットなんでありますよ!』
「そうカ、よかったナ」
『オゥ……とてもクール。小ボケをスルーされると、とても辛いであります。小生泣きますよ? 癇癪起こした五歳児レベルの号泣を披露するでありますよ?』
ビシっとポーズをとりながら告げるリゲルに、ラサルは心底興味無さそうな表情を浮かべる。
「いいカ、大抵誰しも接する相手をいくつかの種類に分類するものダ」
『え? な、なんでありますか、突然?』
「そもそも心底嫌いだとカ、無関心だとかは除外するガ……例えバ、敬意を払って接すべき相手という分類。我々で言えバ、アイシス様などが該当するナ。或いは親しみを持って接する相手……」
『小生とムジさんみたいな関係でありますね!』
「……ムジカの方モ、そう思っているといいナ。可能性は薄いガ……」
『し、辛辣ぅ!?』
「そしテ、ある程度雑に接していい相手……これハ、気安さ故にというのも含まれるかラ、必ずしも悪い意味ではないナ」
『あ~なるほど、つまり小生はその枠に入っているというわけですね?』
ラサルの言葉を聞いて、リゲルは大袈裟に腕を組んでウンウンと頷くが、それに対してラサルは首を横に振る。
「いヤ、お前はさらに別の枠デ……『やかましい馬鹿』ダ」
『やかましい馬鹿!? 割り振られた枠そのものが、やかましい馬鹿!? ラサさんも含めて、皆さん小生への扱いが辛辣では!? 小生はもっと、優しさとか甘やかしで輝くタイプでありますよ!!』
「そうカ、用件が済んだなら出て行ケ」
『酷いっ!?』
ここはラサルが私的に使っている研究室であり、もうリゲルには依頼の品の受け渡しは終わったので、これ以上騒がれても邪魔なだけということで……ラサルはコミカルに騒いでいるリゲルを、さっさと部屋の外に放り出した。
そのまま次の研究に移ろうとして……ふと、思い出したように入り口の魔力鍵の設定を変更してから机に向かった。
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リゲルが去って数時間ほど経過し、ラサルは机で次の依頼の品を作成していた。すると不意に後方から声が聞こえてきた。
「……今度はなに作ってるんすか、ラサル?」
「どこから入ってきタ……」
「そりゃ入り口からっすよ。また入り口の術式のパターン変えたんすね。相変わらず用心深いというか、入ってくるアタシとしては面倒っすよ」
「……チッ、もう突破しやがったカ、相変わらず無駄に優秀で性質が悪イ」
ラサルはたしかに慎重で警戒心が強い性格もしているが、部屋の入り口に施された侵入防止の術式は、主にウルペクラへの対策である。
いたずら好きのウルペクラは、今回のように突然訪れては、邪魔をしたりラサルの作った品を勝手に持ち出したりするので、その対策である。
もっとも、世界のバグと呼ばれるレベルのセンスと才能、さらには器用さも併せ持つウルペクラは、何度術式を変えても短時間で突破してしまうので、ついさっき変えたばかりの魔力錠もあっと言う間に解除してしまっていた。
「それで、なに作ってるんすか?」
「イリスに頼まれテ、新しい洗剤をつくっていル。今回ハ、食器用だナ」
「へぇ~前に作った石鹸みたいに酷いことにならないっすか? 温泉が泡で埋まったんすよ?」
「アレは失敗作だからとしまっておいたのヲ、貴様が勝手に持ち出して浴室に置いたからだろうガ……」
「アレはアレで楽しかったっすけどねぇ~」
ラサルにとって研究は趣味であり、いろいろなジャンルに手を出している。最近では家庭用品なども作ることが多く、素晴らしい性能の品を作り出すことが多いので一部ではかなり有名だ。
なおラサル自身は研究自体が楽しいのであって、成果による名声などには興味がないので、完成した品は権利ごと知り合いであるゼクスなどに売っている。
「……おや? これはなんすか?」
「それハ、強力な漂白剤を作ろうとした際の試作品だガ、触るなヨ。実験用に効果を極限まで高めてあル。文字通りなんでも真っ白になるゾ」
「そんな極端なもの作ってどうするんすか?」
「あくまで実験用ダ。最大値と最小値の記録を取っテ、そこから調整を加えていくのが効率がいいというだけダ」
「……ふ~ん」
ラサルの言葉に頷いたあと、ウルペクラはニヤリと笑みを浮かべた。
「というカ、その辺のものにあまり触るナ、希少な材料などモ……うン?」
手元の調合をひと段落させて、ウルペクラに忠告しようと振り返ったラサルだったが……ウルペクラはいつの間にかいなくなっており、先ほどまでウルペクラが居たであろう棚の前には、木箱のようなものが置いてあった。
「……あの性悪狐メ、またなにか仕掛けたナ」
明らかに不自然な木箱は、ウルペクラが仕掛けてきたイタズラであると予想したラサルは立ち上がって注意深く木箱を観察する。
「……開けると発動するタイプの術式だガ、この程度であれば解除は容易……まァ、アイツがそんな単純な手を仕掛けるわけがないがナ」
ラサルはウルペクラの頭脳……悪知恵は認めている。そもそもウルペクラは日頃から、警戒心の強いラサルにイタズラを仕掛けて成功させていることからも、かなり狡猾で頭が切れる。
少なくとも箱を開けて罠が発動などという単純な仕掛けで終わっているわけがなかった。
「……やはリ、箱のトラップ解除をキーとして発動する術式ガ、上手く隠蔽されて仕込まれているナ。二段構えというわけカ、短時間でそこまで仕掛けたのは流石……と言いたいところだガ」
独り言を呟いたあと、ラサルは木箱ではなく木箱が置かれた棚の下……床に視線を向け、先ほど以上に真剣な表情を浮かべる。
「あるナ、そうだろうナ。ウルペクラなら私が罠を見破ることも想定した上デ、三段構え程度やってのけるだろうサ……まったク、呆れた周到さダ」
そう呟いたラサルは足元に仕掛けられていた本命と思われる複雑な術式を解除する。するとその直後、どこからともなく飛来した瓶が、被っていたフード……すなわちラサルの頭に当たって砕け、液体をまき散らした。
「……なるほド、やるじゃないカ……四段構えカ、しかも最後の罠ハ、箱の術式を排除せず足元の術式だけを解除した場合に発動ト……。しかモ、私が気付いて避けないようニ、丁寧に認識阻害までかけた瓶……中身ハ、ほほゥ、先ほど話題にした漂白剤の試作品カ……クハ、クカカカ」
顔を抑えラサルは楽し気に大笑いをする。そして、ひとしきり笑ったあと、壁に立てかけてあった巨大な棺桶を手に持ち部屋を飛び出した。
「クソ狐ぇぇぇぇぇぇェ!!」
そして、その日、アイシスの居城では、ウルペクラが『真っ白になったローブを着たラサル』に追い掛け回されるという光景があった。
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長時間の追いかけっこを終え、ラサルは疲れた表情で部屋に戻ってきて、漂白されたローブを脱いでゴミ箱に叩き込んだ。
ラサルが研究の際に着ているローブは、素材などの影響も考えて魔力で作ったものではなく、魔力を遮断する素材の特殊なローブだ。
「やれやレ……まァ、研究用のローブは古くなっていたシ、いい加減新調するつもりだったかラ、構わないカ……それにしてモ、あの性悪狐メ、無駄に能力が高いせいで追いかけるのも大変ダ」
ローブを捨てて疲れた様子で椅子に座ったラサルだったが、ふとなにかを思い出したように立ち上がって、棚に置かれた木箱に近づく。
「……そういえバ、この木箱は結局なんだったんダ? ただのフェイクカ?」
そう呟きながら箱の術式を解除して箱を開けると……中には『新品のローブ』が入っていた。
「……まったク、本当に性質の悪い奴ダ」
そう言って呆れたような……それでいてどこか優し気な表情で笑みを浮かべたあと、ラサルは真新しいローブの袖に腕を通した。
~ちょっとキャラ紹介~
【ラサル・マルフェク】
死王配下幹部にして、公爵級高位魔族。死王陣営の行う取引の最高責任者でもあり、なんだかんだで一番配下としてアレコレ仕事をしている気がする。
研究が趣味ではあるが、最大のテーマと言えるものは既に完成しており、研究する内容はなんでもいいため他の配下からの依頼でいろいろ日用品を作ったりしている。
なお、しょっちゅうウルペクラに悪戯を仕掛けられて追いかけまわしているが、なんだかんだで弟子とも妹ともいえるウルペクラを可愛がっている様子である。




