番外編・国王への説教
アンリ、ナタリア、クリームヒルトの三人の中で、一番年上なのはクリームヒルトでありしっかりとしたその性格もあって三人の中ではお姉さんという立ち位置であった。
現在行っているようにアンリに説教をするというのも、過去にもたびたび行われてきた行為である。
「い、いやね。ほら、凄く優秀な子だし、孤児として生まれ育って血の繋がらない弟妹達のために、自分の手を汚してでも必死に守ろうとしててさ、その家族想いな所を悪い奴に利用されてた可哀そうな子だったわけだよ。小悪党にいいように利用されて終わりなんて、もったいないにもほどがあるわけだよ」
「勧誘という行為そのものを咎めているわけではありません。なにもかも事後報告することに対してお説教をしているのです。事前に私やナタに相談せず実行したのが問題なのですよ」
「うっ、い、いやぁ、ほら、勧誘したの夜だったし……寝込みをシンプルに強襲してきた時だったからさ……」
「……どんな風に暗殺を仕掛けてくるか興味があって、ワザと潜入を見逃したでしょう?」
「ぎくぅっ!?」
静かに告げるクリームヒルトの言葉に、アンリは明らかに気まずそうな様子で視線を逸らした。実際に彼女は暗殺者の潜入を分かった上で見逃していた。というよりむしろ「どんな風に仕掛けてくるのかな~」とワクワクしながら動きを待っていた。
もちろんそれは、どんな方法で来たとしても対応可能という万全な対策を用意した上でなので、クリームヒルトもそこに関してあまり強く叱る気は無い……もちろん事前に分かっていたら叱って止めたが……。
問題は暗殺者の潜入をとっくに把握している状態で、クリームヒルトやナタリアにすら言わずに、暗殺未遂が発生してから報告してきた事である。
「はぁ、根本的にあの程度のレベルで貴女を害することはできないというのは理解しています」
「……実際、アンリってどのぐらいならダメージ通るの?」
「ん~おばあちゃんもイレちゃんも過保護だからね。多重次元を纏めて消し飛ばせるぐらいなの攻撃なら、届くかもしれないって……」
アンリには強力な神の祝福があり、中でもとりわけ彼女を溺愛しているマキナとズッ友であるイレクトローネからは極めて強力な祝福……もとい防護を受けている。
あらゆる状態異常も精神干渉も効果はなく、最低でも全能級クラスの力が無ければ害することもできないというレベルにはアンリの守りは強固であり……そもそもの前提として、普通の暗殺者がどのような手段を使ったとしてもアンリを害するのは不可能である。
「……ですが、なら黙って好きにしていいという話ではありません」
「うぐっ……」
「いいですか、報告、連絡、相談……これが非常に重要なことであると言うのは、国王であるアンリも当然理解できるでしょう? ならば、貴女自身も率先してそれを実行するべきであり……」
ともかく頭がよすぎて二手も三手も先を読んで勝手に行動するアンリに釘を刺す意味でも、クリームヒルトはしっかりと報連相について説教を行っていく。
アンリも流石に側近であるふたりに相談しなかったのは悪かったと思っているのか、クリームヒルトの説教を大人しく聞く。
そのまましばらく説教を行った後で、クリームヒルトは軽く息を吐いて表情を崩した。
「……はぁ、あまり叱り過ぎてもいけませんし、実際に貴女が勧誘した相手が有能であるというのも間違いないです。くれぐれも今後はしっかり事前に相談するようにしてください」
「はい、気を付けます」
「本当に気を付けてくれればいいんですが……まぁ、私からはこのぐらいですが、ナタはなにかありますか?」
なんだかんだで結果的には上手く纏まったこともあり、クリームヒルトは説教を打ち切りつつ、ナタリアにもなにかアンリに言いたいことはあるかと尋ねた。
すると、ナタリアは少し考えるような表情を浮かべて首をかしげる。
「……そもそも、今回の件自体に割と疑問がある」
「うん? どういうことですか?」
「……暗殺未遂まで行ったのは、アンリが面白がったせい。でも、そもそも、潜入の段階まで行くことがおかしい。アンリがポンコツなのは恋愛関連だけ、それ以外は怪物って言っていい。私やヒルトが気付く程度のことにアンリが気付かないわけがない。だからそもそもの前提から疑っている」
「……ああ、なるほど。どこか引っかかるような違和感が残っていたのは、それでしたか……アンリ?」
「あ、え、えっと……あ~いや、凄い見事な手際だったよね! いや~気付けなかったなぁ。私もまだまだ未熟だって思いしったし、今後も精進していかなければいけないよね!! って、ことで話は終わり……駄目?」
ナタリアが口にしたのは暗殺未遂そのものではなく、暗殺未遂を発生させられる状態まで暗殺者が潜り込めた状況についての疑問だった。
暗殺未遂にまで発展したのは、アンリがどんな手で暗殺してくるのかを見たかったというのが理由だが、そもそもアンリは他国の諜報員すら容易に見抜くぐらいに抜け目がなく、千年以上国王を務めているラグナが「怪物」と称するぐらいには天才である。
故にそもそも子爵が裏で糸を引いた暗殺計画……アンリであれば、計画段階で情報を掴んで潰せていても不思議ではなかった。
慌てた様子で視線を泳がせるアンリに対して、口元に笑みを浮かべ目は全く笑っていないクリームヒルトが静かに問いかける。
「アンリ、いまの私とナタリアの共通の疑問について尋ねましょう。長いお説教を受けたくないのなら、正直に話すことをお勧めします。さて、質問です……貴女、最初からあの暗殺者が目当てで、己に暗殺を仕掛けてくるように裏から子爵を唆しましたね?」
「……あ、あはは……い、いや、そのね。悪い奴なんだよ! 裏で人身売買とか盗賊への援助とかもしててさ、早めに処分しちゃった方がいい相手でさ……あ、えっと……その……はい……ハイドラ王国の協力者使って、唆しました」
「ふふふ、なるほど……で、側近である我々に事前の相談は?」
笑顔である。笑顔ではあるのだが、凄まじい違和感があった。思い付きの行動により自分たちへの報連相が後回しになったのならまだ軽い説教で済ませたが、事前に全部分かった上で計画通りに動かしていたならもっとキツイ説教が必要であると、そんな意志が宿っていた。
「………………その、えっと……ごめんなさい」
「アンリ!!」
「うひぃっ!? だ、だって、言ったら絶対止めるじゃん。普通に検挙すればいいとかって、そうするとあの子を勧誘するのが難しくなるからさ……」
「……たぶん、それだと面白くないからそうしなかっただけ」
「ナタ!? 余計なこと言わないで! 違うよ、ヒルト……あ、あくまで、いろいろな方法を考えた上で最善を……」
「いいから姿勢を正してそこに座りなさい!」
「は、はひっ!?」
アンリは間違いなく天才であり、特に頭脳は飛び抜けて優秀と言っていいのだが……指導した相手の影響もあるのか、全部読み切った上でなら自分が一番楽しい手段を取ろうとするところがある。
結果として真面目なクリームヒルトを怒らせる形となり、厳しいお説教は休憩時間終了ギリギリまで続くこととなった。
~ちょっと解説~
【アンリの師匠】
超絶美少女ことアリスである。甘え上手のアンリと、頼られるとなんだかんだで助けてしまうアリスとの相性が抜群であり、小さい頃から「アレ教えて」「コレ教えて」と懐かれており、絆されてあれこれと指導した。
ウルペクラなども指導に加わっており、師匠と姉弟子の性質もしっかり受け継いでいるため、時々楽しさ優先で策略を組むことがある。
リリアには及ばないとはいえ、戦闘力自体も相当高く、普通に暗殺者が正面から襲い掛かってきても無傷で制圧できるぐらいには強い。
あと大変に人たらしなので、暗殺者に関してもしっかり口説き落としており、ナタリアやクリームヒルトが会った際にはもう「忠誠心MAX」みたいな状態になっていたらしい。




