番外編・三国合同会談
神界、魔界、人界の三つから成る世界トリニィア……そのうちのひとつ人界には、シンフォニア王国、アルクレシア帝国、ハイドラ王国の三つの国が存在し、それぞれに特色を持ちつつも国家同士の仲もよく交流も盛んで互いに良い関係を築いていた。
そうした国家間の風通しを良くする意味合いも兼ねて、人界三国は毎年国の代表者……すなわち各国の王が集まって言葉を交わす合同会談の場を用意していた。
表向きとしては三国間の連携を強め、様々な議題を話し合う場……ではあるのだが、基本的に世界は平和であり、そもそも国家間での交流も普段から盛んなので、国王同士もプライベートなどで会う機会があるため、改めて集まっても話し合うことは少なく、雑談もそれなりに交える形になる。
言ってみれば、三国の関係が良好であると世間にアピールする意味合いも兼ねた会談といった形だ。
「いや~しかし、アンリ嬢もすっかり王としての風格が備わってきたのぅ。小さな頃から知っている身としては、時の流れを感じるのぅ……なんで、ワシはいまだに国王をやっておるんじゃか……」
明るい口調で話すのは、小柄な水色の髪で魚のヒレのような耳が特徴的なマーメイド族……かつて魔王を倒した英雄のひとりであり、辞めたい辞めたいと言いながらも千年以上ハイドラ王国の国王を務めているラグナ・ディア・ハイドラ……。
「ラグナ陛下のそのお言葉を聞くと、今年も三国会談が始まったのだと感じますね」
毎年三国会談の場で「いつまで自分が国王をしているのか」とラグナが語るのは恒例の流れであり、それに対して苦笑を浮かべるのはアルクレシア帝国の皇帝であるクリス・ディア・フォン・アルクレシア……アルクレシア帝国において賢帝と呼ばれる皇帝であり、国民人気と実績により歴代でも類を見ないほど長く皇位に就いており、いまとなってはラグナのように国家の象徴のようにもなり始めた存在である。
かつては鋭さと国家最優先の冷血さや硬さもあったのだが、現在は短めだった髪を肩口辺りまで伸ばし、柔らかな笑顔を浮かべる機会も増えて優し気な雰囲気も纏うように変化していた。その変化に対して、本人曰く「国と同じぐらい大切な相手ができたからでしょうね」と、そんな風に語っていた。
「そうですね。やはりラグナ陛下のその冗談が無いと、三国会談という気がしませんね」
そう言いながら微笑むのは、シンフォニア王国現国王アンリ・リア・シンフォニアであり、王としての年季も年齢も集まった中では一番若い存在ではあるが、雰囲気は非常に落ち着いており余裕すら感じられる。彼女もまた国家を背負って立つ王なのだと実感できるだけの風格は兼ね備えていた。
「しかし、私はまだまだラグナ陛下とクリス陛下と比較すると若輩者もいいところなので、ラグナ陛下に風格が備わってきたと言っていただけると、恐れ多くも光栄ですね」
「ははは、謙遜することは無い。アンリ嬢は国王として立派にやっておる。ワシの元にも評判はよく聞こえてくるからのぅ」
「ええ、アンリ陛下はシンフォニア王国史上最高の国王だと、私の耳にも届いています」
実際にラグナもクリスも、アンリが幼い頃から面識があり、彼女が国王を目指して勉強していた頃にはアレコレアドバイスなどもしたことがある。
故に成長して立派に国王を務めている姿を見ると、親戚の子が立派に成長したような感慨深さがあり、称賛に関しても本心ではある……本心ではあるが、国家を背負うものとしては少々別に思うところもあった。
(いや、本当に立派になりすぎじゃ……ライズ坊もアマリエ嬢も、どちらも立派な国王じゃった。ライズ坊は国王としての能力こそやや低めながら、それを自覚し利用する狡猾さがあって中々に厄介じゃった。アマリエ嬢は国王としての能力はライズ坊より高かったが……ワシ個人としては、ライズ坊の方が厄介じゃったな)
先代シンフォニア国王のアマリエと先々代国王のライズを比較すれば、能力はアマリエの方が上ではあった。しかし、千年以上国王を務め、歴代の皇帝や国王と幾度となく探り合いをしてきたラグナにしてみれば、優秀な国王というのは逆に読みやすいといえる。
対してライズは国王としての能力こそ平凡ではあったが、己の弱みを理解しており、そこに罠を張って待ち構えるような狡猾さがあった。
国を運営していく能力はアマリエの方が上、国王同士て対峙して探り合う外交ならライズの方が厄介というのが、ラグナの感想だった。
(……それが、なんで次代でこんな化け物が出てくるかのぅ。アンリ嬢に比べれば、ライズ坊もアマリエ嬢も本当に可愛いものじゃった。というか、相変わらず表情から思惑がまったく読めんな……穏やかな笑み、こちらの称賛を嬉しそうに受け取る素直さ……一見すると御しやすいようにも見えるが、それで気を緩めれば一気に食い千切ってくるからのぅ)
現国王のアンリの事は幼い頃から知っているし、単純な人物としての評価は高い。プライベートで話すのであれば非常に楽しいし、たまに鍛錬を見てやったりとラグナも個人的に可愛がってはいる。
だがこうして、会談の場で向かい合うと……言いようのない底知れなさがあった。
「おふたりにそこまで言われると、照れてしまいますね。噂話好きな外交官や、お喋りの多い文官に優秀さアピールをしておいたおかげですかね」
照れたように頬をかきながら告げるアンリの言葉を聞き、ラグナとクリスは一瞬表情を硬くした。
(……諜報も把握されとるか、となると掴んだいくつかの情報は偽物じゃな)
(探ってきましたか……気を引き締めなければ、丸呑みのされてしまいそうですね)
アンリが何気ない口調で告げた言葉で、腹の探り合いがスタートしたことを感じ取ったラグナとクリスは、楽しげに雑談をしつつも、それぞれ国王と皇帝としての思考に切り替えた。
~ちょっと解説~
【人界三王】
アンリ以外は、百年前から続投してラグナとクリスがそれぞれ国王と皇帝である。
ラグナは相変わらず国王を辞めたいと言っているが、例によって辞めれる気配もまったくなく、本人もある種諦めて持ちネタのように言っている形である。
クリスは百年前より雰囲気が穏やかになり、髪も伸ばしたことで女性らしさが増している。シンフォニア王国がそういう方向に舵を切っているように、アルクレシア帝国としても出来れば次の皇帝は世襲ではなく優れた能力の者に譲るという形にしたいと考えている。
そのため継承権で揉めないように現状はあえて作ってはいないのだが、いずれ後任を育てて皇位を譲ったなら子供を作るのもいいかもしれないと考えている。




