漫才コンビとソフトクリーム
素材集めのスタートからそれなりに時間が経過し、各地を回っていたウルペクラとクレアとベラは、魔界の辺境にある小さな街にやってきていた。
「さっきの素材で収集系は終わりっす。あとは、店で売ってるものばっかりっすね。とはいっても、コレも数が多いっすし、あちこちの専門店に行ったりしないといけないから時間はかかるっすけどね」
「……はぁ……はぁ……手強かったね。本当にどれもこれも大変なものばっかりで、苦労しましたよ」
「というより、結局ウルちゃんがほとんど集めちゃって、私とクレアは全然役に立ててないような気も……」
魔界のあちこちで収集が難しい素材を集めて、それはもうクレアとベラは散々に苦戦をしたのだが、素材に関してはほぼウルペクラが集めてしまった。
比率で言えばウルペクラが九割、クレアとベラが合わせて一割がいいところであり、正直戦力になったとは言い難い状態である。
それを気にするように告げるベラに対して、ウルペクラはフッと優し気な微笑みを浮かべて口を開く。
「いや、元々はアタシひとりで集める予定だったわけっすからね。とはいえ、アタシの想定では今日中に六~七割ぐらい集められるかなぁって感じだったっす。でも、ふたりの協力で八割近くまでは行けそうっすから、なんだかんだ成果は出てるっすよ」
「そ、そうなんだ。それならよかった」
「ですね。ベラが言う通り私たち全然力になれてなくて、もうほとんど賑やかしで連れてこられたような状態だと思ってましたからね」
「……」
「おいおいおいおい、見ましたか、ベラさん! このお狐様ったら、いま気まずそうに視線を逸らしやがりましたよ!」
「見ましたとも! まるで、図星を突かれたような~反応じゃ~あ~りませんか!」
クレアの「賑やかしで連れてこられた」という発言に対して、ウルペクラが分かりやすく視線をスッとそらした。それを見逃すクレアとベラではなく、速攻で追及の構えに入る。
ウルペクラは視線を逸らしたままで少し沈黙し、軽く息を吐いてから告げる。
「……いやほら、黙々とひとりで素材集めるのも退屈っすからね」
「認めたぁ! 私たちを賑やかしで連れてきたって、認めましたよこの性悪狐!!」
「漫才コンビを漫才コンビとして使ってやろうという、禍々しい程の悪意を感じる。初めから、私とクレアの事は戦力として見てなかったのねっ!」
ノリのいいふたりがこの状況に乗らないはずがなく、それはもう大げさなリアクションでショックを受けたような表現を見せる。
「いやまぁ、確かに戦力としては見てなかったっすけど、さっき言ったようになんだかんだでふたりのおかげで時短できて効率が上がってる部分はあるっす。それに……」
そこで一旦言葉を区切り、ウルペクラはふたりの方を向いてどこか儚げに見える笑顔を浮かべた。
「……やっぱり、なんだかんだ付き合いが長いっすから。所属が違っても、クレアもベラもアタシにとって身内……家族みたいなもんすから、一緒に来てくれると楽しいなって思ったんすよ」
「はぅぁっ!?」
「ふぐぅっ!?」
一見すると邪気がまったく感じられない……だからこそ、内に邪気をたっぷり内包していそうなウルペクラの笑顔に、クレアとベラは胸を押さえてダメージを受けたような表情を浮かべる。
「……く、くそっ、罠だ。これは、私たちの機嫌を取るための罠だって、分かってるのにぃぃ」
「悔しいっ! でも、嬉しくなっちゃいます! 私もベラも、ウルちゃんの事は妹みたいに思ってますよ!」
「いや、身内は身内でもふたりのこと姉のようだと思ったことはねぇっすけど……」
「ご機嫌取りしてくれるなら、そこはもうちょっと気持ちよく持ち上げてくださいよ!?」
「頼りがい、頼りがいなのか? アルシャが私たちを先輩と呼んでくれない理由と同じで、頼りがいが足りてないのか……」
露骨に機嫌を取るような発言をしてきたウルペクラではあるが、言葉そのものは本心でもある。なんだかんだで長い付き合いであり、本人たちの言うような名誉死王配下かどうかはさておいて身内のように思っているのは間違いない。
ただ、枠として……姉という感じではない。
「う~ん……いや、トーレさんとかの例もあるっすし、頼りがいがイコール姉のっぽさとは言わないっすけど……」
「待って待って、私たちってあの面白れぇ女代表みたいなトーレさんと比較される感じなの?」
「……いや、カテゴライズの話なら、クレアとベラは完全にトーレさんと同じ枠っすよ。あと、ブロッサムとかさんも同じ枠っすかね」
「こ、この狐……絶妙に私もベラも文句を言いにくい名前を出してきましたよ」
「直属とかではないにせよ、ブロッサム様は上司みたいなものなので、あんま文句も言えない……」
冥王陣営に属する愉快で明るい性格のトーレを比較対象に出されてなんとも言えない表情を浮かべたクレアとベラだが、同じ界王陣営で幹部の七姫の一角であるブロッサムの名を出されると、そっちには文句を言いにくい。
「……そういえば、クレアとベラは、七姫だと誰の下に付いてる感じなんすか?」
「あ~いや、私たちは特にそういう感じではないですよ。界王配下全体で行う行事とかだと、リーリエ様とかロズミエル様のところに振り分けられるのが多いですけど……」
「界王配下は竜王配下とか幻王配下程に上下はカッチリしてないからね。戦王配下とかみたいに幹部もいるし、直属の部下とかも居るけど、そういう割り当ての無い配下も結構な数が居る感じだね」
六王配下の中で竜王配下と幻王配下は上下がキッチリしており、竜王配下は配下全体を四つの部隊に分け、幹部である四大魔竜がそれぞれの隊長を務め、その下に分隊長、小隊長といった形で役割が振り分けられている。
幻王配下も幹部の十魔にそれぞれ配下が振り分けられており、階級や役職もいくつも存在している。
対して戦王配下は、幹部である戦王五将も存在しているし部下を従えている者もいるが、その辺りは個々の裁量に一任されており、例えば幹部であるオズマは特に直属の部下等は持たず単独で行動しているなど、割と自由である。
界王配下もそれに近い形であり、七姫の部下として行動している配下も居れば、クレアとベラのように相性のいい者同士で組んで仕事などに当たっている者もいるという形である。
なお、残る冥王陣営と死王陣営は組織というよりは家族のようなものであり、あまり上下等を気にしておらず部下という括りはほぼ存在しない。
「なるほど……まぁ、直属の上司とかいたらあんな好き勝手してねぇっすよね」
「いやいや、ウルちゃん、私たち仕事はちゃんと真面目にやってるからね。私もクレアも大森林の環境維持をバッチリと……」
「おっ、ソフトクリーム売ってるっすね」
「……聞いてねぇよ、この狐」
自分たちは仕事もできる女なんですアピールをしようとしたベラだったが、それを聞く姿勢になると話が長くなりそうだと判断したウルペクラは華麗にスルーをして、ソフトクリームを販売している店の方を向く。
「ソフトクリームか~いいですね」
「頑張って働いた後なので、甘いものは欲しくなるよね」
クレアもベラも切り替えの早さは超一流であり、即座に意識を切り替えてソフトクリームに意識を向ける。そんなふたりにたいして、ウルペクラは財布を取り出しながら口を開く。
「ふたりは、何味にするっすか?」
「え? ウルちゃん、奢ってくれるの!?」
「まぁ、今回はアタシの都合で付き合わせてるようなもんすからね」
「や、優し……たまに優しい! 私、ストロベリーでお願いします!」
「飴と鞭を心得ていらっしゃる。私はバニラとチョコのハーフで!」
やはりなんだかんだで仲がいいのか、ワイワイと楽し気に話しながら三人でソフトクリームの店に向かって歩いて行った。
~ちょっと解説~
【漫才コンビのお仕事】
基本的に中央大森林の環境維持や調整などが主な仕事だが、同様の仕事をしている界王配下は多くあんまり仕事は多くない。というよりは、あまり時間がかかるような仕事は回されていない。
ふたりの能力不足というわけではなく、クレアとベラが死王配下と家族同然に仲良くしていることで、界王配下と死王配下の仲が非常によく、なんだかんだで上手い具合に両陣営の架け橋のようになっていい影響が出ていることが最大の要因。
王であるリリウッドもふたりが死王配下と仲良くしているのを非常に好印象に感じているし、ふたりが訪れることをアイシスがとても喜んでいるということもあり、あまり時間のかかる面倒な仕事はふたりには回さないようにしている。




