百選の果実
続けてウルペクラとクレアとベラがやってきたのは、魔界南部の標高が高い山だった。魔物も多く一般人から見れば危険地帯と言える山だが、爵位級高位魔族の三人にはまったく問題無い。
「次はなんですか?」
「次は百選の果実っすね」
「百選の果実!? また、滅茶苦茶面倒なやつ……」
百選の果実は、標高の高い山に生える木の果実ではあるのだが、採取の方法が非常に特殊だった。この果実は四枚一組の外殻が何重にも重なっている果実であり、四枚の外殻を正しい順番で開いて、次の四枚の外殻も正しい順序で開きという手順を何度も繰り返してようやく果実を採取できる。
四枚の外殻を開く順番は個体によって違い、さらに無理矢理開いたり、全ての外殻を開く前に木から切り離すと果実が著しく劣化するため、木に生っている状態で外殻を開いていかなければならない。
なお開く順番を間違うと全ての外殻が閉じるので、初めからやり直しとなってしまう。幾度も選択を迫られることから百選の果実と呼ばれている品だ。
まぁ、それでも採取するのに時間がかかるだけで、失敗して閉じても順序は変わらないため根気強く何度も再挑戦すれば最終的には開くことができるという意味では、面倒ではあるが特定の技術が無いと採取できないというわけではない。
「そりゃ、簡単に手に入る素材なら店で買えばいいわけっすし、一般どころか高度な専門店でもなかなか取り扱いの無い素材を集めに来てるわけっすから、当然面倒な素材が多いっすよ」
「植物系の素材が多いですよね。ラサルさん、今回はなに作るんでしょうね~」
「百選の果実か……厄介な相手だけど、いいよ。相手になってやるさ百選の果実採取の達人と呼ばれた……クレアがね!」
「私に押し付けようとしてる!? そんな呼び名で呼ばれた過去が一切無いわけですが!?」
ワイワイと騒がしくしつつも三人はそれぞれ別の木の前に移動して百選の果実の採取を始める。四択、三択、二択を経て再び四択に戻るという作業であり、もちろん当てずっぽうではそう簡単に突破することはできない。
ただ、正しい手順を見分ける方法は存在し、外殻の色合いの濃い順に剥がせばいい……と専門家は語るのだが、一般人が見ても濃淡の差など分からないレベルの微弱な違いである。
「んあぁぁぁ! また閉じた!! インチキです、インチキ!!」
「なにをインチキするんだか、クレアが苦戦している間に賢い私は既に四段目に突入……あっ、閉じ――インチキ果実が!!」
例によって百選の果実の採取に苦戦しており、クレアとベラはやや興奮気味に果実に文句を言って視線を動かした。
動かした視線の先では、ウルペクラが全ての外殻を開いた百選の果実を採取しており、ふたりと違って順調な様子がうかがえた。
「……ウルちゃん、もう採取したんですね」
「いや、これ四つ目っす」
「四つ目!? 私たちがヒィヒィ言ってる間に、もう四つ!? インチキだ、絶対インチキしてる!」
そもそもの話、ウルペクラはラサルから渡されたリストを見て「ひとりでも今日中に六~七割は集められる」と判断しており、実際にラサルも面倒な素材が多いがウルペクラなら問題ないと判断して頼んでいる。
そのため、ウルペクラが順調に採取できているのは、ある意味では必然と言える。クレアとベラからすれば、差を見せつけられているようなものだが……。
「百選の果実は、外角の濃淡で順番を見極められるんすよ?」
「知ってるけど、見ても分かんないもん! 同じにしか見えないよ……」
「……ふたりって、精霊っすよね?」
「あぁぁぁ!? コイツら、精霊の癖に植物の事全然分かってねぇなみたいな顔してます! 私はクレオメの精霊! 百選の果実は専門外だよ!!」
確かにクレアとベラは花の精霊であり、自然に近い存在ではある……だが、だからと言って百選の果実の濃淡が見分けられるとか、そういうことは一切ない。
専門家でもなければ分からないので、専門ではないのだから分からなくても当然である無い胸を張るクレアを横目に見つつ、ベラが感心したような表情を浮かべて呟く。
「でも、ウルちゃんは流石凄いね。植物学者とかでも見分けられるのはほんの一握りって言われてる百選の果実の濃淡を見分けられるなんて……」
「いや、私は感応魔法で手順探ってるので見分けてねぇっすよ」
「「インチキしてるじゃん!?」」
クレアとベラ、ふたりの気持ちと声が綺麗にハモった。まさか、まさかのインチキ……感応魔法によって百選の果実と感応することで、正解の手順を探っていたという。
「いや、別にインチキとかではないっすよ。競ってるわけじゃねぇんすから……探れる手段があるならそれを使えばいいだけっす。ふたりもインチキとか考えずに、工夫して手順を探ってもいいんすよ?」
「「……」」
「……あぁ、特にそういう手段は持ってない感じっすか……じゃあ、分からなければお願いしますって聞いてくれれば、その時の正解を教えてあげますよ」
「ば、馬鹿にしやがってぇ……ウルちゃん! お願いします! この三択どれが正解かな?」
「こっちもお願いします! この二択は、正解どっち?」
なお、特にクレアとベラにプライドなどというものは無い。ウルペクラの方が圧倒的に器用で多彩だと分かっているし、楽できる要素があるなら躊躇なく使うのがふたりである。
さっそくウルペクラにお願いして手順を教えてもらいつつ、果実を採取し……終わった後で「楽勝だったな」みたいなドヤ顔を披露して、ウルペクラに叩かれていた。
~ちょっと解説~
【漫才コンビの得意なこと】
クレアは防御寄りでどっしり構える者が多い精霊族としては結構珍しいスピードタイプのカウンター型であり、素早く身軽な動きを得意としている。あと実は意外と賢く知識も豊富、言動が馬鹿っぽいだけである。裁縫も得意であり、パーティなんかの飾りつけの際にはウルペクラにこき使われている。
ベラの方は正統派の精霊という感じで、どっしり定点で構えて鉄壁の防御で戦うタイプ。食べるのも得意だが、料理も結構得意でたまにイリスにこき使われてたりする。




