突き刺さるアッパーカット
ベルゼが調理した桃のスイーツを皆で食べ、満足いくまで食べ終わった後はドリンクを飲みながら他愛のない雑談を行う。
元々仲の良い死王配下ということもあり、雑談もワイワイと楽しい雰囲気であった。話題は主に桃のスイーツについて、どれが美味しかったなどといった話題で盛り上がる。
「どれも実に素晴らしい味わいだった。正義ポイントプラス100……桃は正義だ」
「なるほど、桃は正義っすか……じゃあ、大根は?」
「ははは、それはアルフェラの足――はっ!?」
「……」
上機嫌で桃の美味しさに関して語っていたカノープスだったが、差し込まれるように告げられたウルペクラの質問に答えた後で「しまった」というような表情を浮かべた。
もちろん理由は、笑みが完全に凍り付いたアルフェラであり、カノープスは慌てた様子で弁明を行う。
「ま、待て! いまのは悪意ある誘導だ! 咄嗟にノッてしまっただけで……性悪狐に謀られたのだ!!」
間違ってはいない。言うならば元々のノリの良さが裏目に出た形というべきだろうか? まったりと話していたタイミングで不意に差し込まれた質問、生来のノリの良さも相まってついつい反射的にウルペクラが望んでいるであろう返答を行ってしまった。
ウルペクラに謀られたというのは間違いではないだろう。だがそもそも、アルフェラの足との比較に大根云々を持ち出してきたのはカノープスであり、原因を辿るのならある種の自業自得と言えるかもしれない。
そしてなにより……アルフェラにとっては、カノープスが謀られたかどうかなど、どうでもいい問題である。重要なのは、己が気にしている足に関して目の前の黄金骸骨が舐めたことを言ったという、その事実だけだ。
アルフェラはそのまま笑みを引っ込め、据わった目を浮かべた後で中身を飲み終えたコップを食べているベルゼの方を向いて叫んだ。
「……ベルゼぇぇ!!」
「んぁ?」
「ボクの秘蔵のプリンあげるから、アイツの極光防壁引っぺがして!!」
「おっけ~」
本来であれば相性最悪と言える極光防壁を纏うカノープスに対し、アルフェラがダメージを与えるのは難しい。だが、この場にはその前提条件を覆せる存在が居る。
ベルゼはなんでも食べる。それは食材や物体に限らずエネルギーや魔力も対象であり、当然ながら魔力防壁を食べて解除することも可能である。
そして暴食の魔力を持つベルゼにとって、魔力の届く範囲は全て口の中と言っていいようなもの……協力無比な魔力防壁であるカノープスの極光防壁も、彼女にとってはせんべいのようなものでしかない。
「なっ!? まずっ――」
バリボリと硬いものを食べるような音が聞こえたかと思うと、カノープスの纏っていた光が明確に弱まり極光防壁が解除された。
ただあくまでこれは防壁を食べて解除しただけであり、再び張り直せば問題ない。カノープスも極光防壁が解除されたことを認識した瞬間、再度防壁を張り直そうとしたが……極光防壁はかなり強力な魔力防壁であり、いかに伯爵級高位魔族のカノープスとはいえ、張り直しには多少の時間が必要だ。
もちろんそれは、コンマ数秒程度の隙ともいえないような短時間ではあるが……そのわずかな隙をアルフェラが逃すはずがない。
「死に晒せっ! クソ骸骨!!」
瞬間、握り拳の形となった影が足元から飛び出し、そのままアッパーカットの要領でカノープスを捉えて上空へと打ち上げた。
「ぐはぁっ!? 我、スケルトンだからすでに死んでるようなものだがぁぁぁ!?」
叫び声をあげながら吹き飛んだカノープスは、きりもみ回転しながら頭から落下して鈍い音を響かせた。
「……よし、悪は滅びた」
「……いや待て、それは聞き捨てならない。この光の騎士が悪だと?」
「早いよ復活……無駄にタフで腹立つ」
吹き飛ばされた頭から落下したカノープスだが、そもそも極光防壁が無くとも素で相当頑丈なので、悪呼ばわりされたことに異議を申し立てつつすぐに起き上がった。
アルフェラは不満そうな表情でカノープスを睨んだが、それでも一発殴ったことで溜飲は下がったのか、怒りは収まっている様子だった。
「まったく、いつまでも足が太いだのなんだのと、食後の穏やかな時間なんすから、もう少し落ち着いてほしいっすね」
「「誰のせいだと思ってんだ、クソ狐!! 待てこらぁぁぁ!!」」
その様子を見て嬉々として煽るやいなや、即座に逃走したウルペクラに対しアルフェラとカノープスは息ピッタリに叫んで追いかけて行った。
その様子をどこか呆れた様子で眺めていたアルシャが、ポツリと独り言のように呟く。
「……ウル先輩はいつも通りにゃ」
「ん。まぁ、ウルペクラらしいと言えば、ウルペクラらしい」
「確かにね……うん? なにこれ、写真?」
アルシャの呟きにコルネが苦笑しつつ同意し、ベルゼもどこか楽し気に苦笑を浮かべていたのだが……いつの間にかテーブルの上に一枚の写真が置かれているのに気付いてそれを手に取る。
その写真は晶花宴で撮影したものであり、楽し気なウルペクラが快人とアイシスと共に映っている写真に「最高のひと時だったっす。カイト様にも頭撫でて貰っちゃったっすよ」と書かれていた。
「クソ狐ぇぇぇぇ!! 私に、カイト様とのイチャイチャを自慢するとはいい度胸だ! その尻尾、喰ってやる!!」
明らかにベルゼを狙い撃ちにした煽りに、即着火したベルゼは全身に口を出現させると共に立ち上がって、ウルペクラたちが去っていった方向に猛然と駆け出していった。
~ちょっと解説~
【もちろん煽るクソ狐】
料理とかは一番初めに手伝いを言い出したりと協力するし、味とかも素直に称賛する。食後の雑談も楽しく行う……だが、それはそれとして隙あらば当然煽る。
~今日の黄金騎士~
「我の怒りが有頂天!」
※悪意ある誘導に引っかかった。ノッたのは自分自身だが、それはそれとしてクソ狐許すまじ。




