桃のスイーツパーティ
テラスに移動すると、ベルゼはさっそく桃の調理に取り掛かる。長いベルゼの髪がうねうねと動くと、その場に調理台が現れる。
続けてベルゼは熱湯と氷水を用意しつつ桃の状態を確認する。
「ベルゼ先輩、なんでお湯にゃ?」
「桃は軽く皮に切れ込みを入れて、熱湯に15秒ぐらい潜らせてから氷水に付けると皮が綺麗に剥けるんだよ。ただこのやり方は温度差によって皮を剥く方法だから、手軽に綺麗に剥けるけど生で食べる分には変色が速くなったりするから用途に合わせて使いたいね。だから、コンポートにする予定の桃だけこの方法で剥いてる」
「な、なるほどにゃ?」
アルシャに答えつつ、ベルゼは流れるような動きで桃の皮に切れ込みを入れて熱湯にくぐらせ、氷水に付けた後で桃の皮を剥ぎ……剥いだ皮を頭に出現させた口に放り込んで次の桃に取り掛かる。
複数の桃の皮を剥き終えた後は、それをカットしつつ種を取り除き……種を頭の口に放り込みつつ、水、白ワイン、砂糖を加えたシロップを沸騰させてカットした桃を入れていく。
「生で食べるなら先にカットしてから皮を剥く方法が簡単だね」
「ベルゼ、なんか手伝うっすか?」
「じゃあ、数が数だしどんどん調理していくから盛り付けてくれる?」
「はいはい、了解っすよ」
種を取り除いて種を食べ、皮を剥いて皮を食べ、カットした桃をウルペクラに渡して盛り付けてもらいつつ、平行してベルゼは別の調理も行っていく。
髪の毛の一部が泥のようになった後で手の形に変わり、手の数が増えたことで調理速度が上がる。
「タルトは、前に作ったタルト生地を使おうかな。カスタードクリームとスポンジを重ねて特製のヨーグルトクリーム、そして上にカットした桃をたっぷり乗せて……完成」
「……焼かないの?」
「フレッシュタルトだから、焼かなくて大丈夫。コルネ、これテーブルに持って行って」
「ん。分かった」
手際よく調理を進めつつ、平行して髪が変化した口で使い終わった熱湯を飲み干し、鍋を喰らい、氷水とボールも食べていく。
「ジェラートも作ろうかな。カットしてシロップに漬けて、アルフェラ、この桃時間加速させて」
「どのぐらい?」
「3時間」
「はいはい、了解~」
調理にかかる手間を時空間魔法で短縮しつつ、あっという間に複数の桃の調理を作ってしまう。
「ベルゼ先輩、私もなにか手伝えることはあるかにゃ?」
「調理の方は大丈夫だから、コルネと一緒に完成したのをテーブルに運んでくれるかな?」
「分かったにゃ」
手伝いを申し出てきたアルシャにも指示を出すベルゼを見て、現状手持ち無沙汰気味なカノープスもベルゼに尋ねる。
「ベルゼ、我は?」
「邪魔だから座ってて」
「我の扱い!? 確かに、料理は苦手だが……光の騎士として、なにもしないというのは」
「じゃあ、そこ立って……もうちょっと右……う~ん、この光の角度だと見た目に拘るならシロップを軽く塗ったほうが見え方が……」
「え? 我、照明? 照明として使われてる?」
カノープスを脇に立たせて、皿に盛りつけた際の見え方を調整しつつ、ベルゼは手際よく調理を進めてテーブルの上に大量の桃を使ったスイーツが並んだ。
そして最後に使用していた調理台を食べて、調理は完了という感じに軽く手を叩く。
「よし、できたよ! 桃尽くし」
「おぉ、凄いにゃ! アッと言う間だったにゃ」
テラスに用意されたテーブルの上には、所狭しと桃のスイーツが並んでいた。素材の味を生かした、食べやすくカットしただけの桃もあれば、桃のタルトにコンポート、ジェラードにゼリー、桃のケーキ、桃のドリンクなど文字通りの桃尽くしの料理が並んでおり、見た目にもかなり華やかだった。
「美味しそうだし、見た目もいいよね。ベルゼはやっぱり料理が美味いね」
「いやはや、さすがというべきか、我は本当にカットして食べるぐらいの発想しかなかったが、こんなにもいろんな種類の料理が作れるのだな」
椅子に座りながらアルフェラが感心したように呟き、カノープスもそれに同意する。元々ベルゼは料理も上手く研究にも余念がない。カノープスを証明代わりに立たせてチェックしていたように、見た目の華やかさなどにもしっかりと拘る。
「料理ってのは、味覚はもちろんだけど視覚でも楽しむべきなんだよ。美味しそうって感じられる見た目は大事だね。もちろん時として、一見すると美味しくなさそうだけど食べると……ってのも新鮮な驚きがあっていいと思うけど、それも含めて食を楽しむなら味覚だけじゃなく、五感全て、そして食べる場所や景色なんかのシチュエーションも大切にしたいよね」
「調理台喰いながら言ってなきゃ、いいセリフだったんすけどね……本当にベルゼを見てると、美食家と暴食は両立するんだって実感するっす」
どこか誇らしげに語りつつ、バキバキという捕食音と共に料理台を別の口で咀嚼して捕食しているベルゼに、ウルペクラがなんとも言えない表情で呟く。
「も、もう食べていいにゃ?」
「うん。皆も遠慮せずに、好きなものを好きなだけ食べてね。残ったのは全部私が食べるから」
そんなベルゼの言葉と共に、急遽開始された桃のスイーツパーティがスタートした。
「おっ、いい桃っすね。甘みもスッキリしてて食べやすいっす」
「ボクはコンポートから……おぉ、いいねぇ。白ワインの香りが鼻に抜けていくよ」
ウルペクラは最初にカットされただけの桃を食べて満足そうな笑みを浮かべ、アルフェラは桃のコンポートを美味しそうに食べる。
「凄いにゃ、ジェラートの舌触りが凄く滑らかにゃ……とても丁寧な仕事って感じにゃ」
「タルトも美味しい。フレッシュタルトの瑞々しさにヨーグルトクリームの爽やかさが凄く合ってる」
ジェラートを口に運んで幸せそうに猫耳を動かすアルシャに、タルトを食べて感嘆した表情を浮かべているコルネと、それぞれ特徴的ながら美味しいという感想は共通していた。
「このドリンクはとても爽やかだな。炭酸との相性も素晴らしい」
「そのドリンクは、ちょっとだけ加えた梅シロップが決め手だね。それが桃の美味しさを際立ててくれてるんだよ」
桃のドリンクを飲んで頷きながら感想を告げるカノープスに、ベルゼが余った桃を手の口で丸呑みにしながら軽く解説をする。
ベルゼの作った料理はどれも好評であり、皆ワイワイと楽しくスイーツを食べていく。
そしてその途中でふと、アルシャが首をかしげながら呟くように告げる。
「……けど、不思議にゃ。ベルゼ先輩はこんなに料理が上手で、知識とかも豊富なのににゃ……なんで晶花宴とかだと調理班じゃないのかにゃ?」
「それはね、アルシャ。複雑で難しい事情があって……」
「つまみ食いするからっすよ」
「………………イリスの料理が美味しすぎるのがいけないと思うんだ」
ベルゼが料理上手であるのは間違いない。しかし、一流の腕を持つ割には死王配下が多く参加する行事などで調理担当に振り分けられることは無い。
その理由はウルペクラが呆れた顔で語ったようにシンプルである。つまみ食いをするから……。
「アルシャもさっきの調理風景見てたっすよね? コイツ、調理中にもガンガン食うんすよ」
「ち、違うんだよ。あくまで私は食材への心からの感謝として、一片も食材を無駄にしないために使わない部分を食べて処理してるだけで……」
「調理器具も食うじゃねぇっすか……」
「……いやほら、鉄とかだってメタルリザートにとっては食材だから、つまるところは私にとっても食材だから……」
「……なんか、だいたい分かったにゃ」
ウルペクラの指摘に汗を流しながら明後日の方向を向くベルゼを見て、アルシャは先程の調理中も鍋などを使い終わるやいなや食べていたベルゼを思い出して、調理担当に割り振られない理由に納得していた。
~ちょっと解説~
【調理班に割り振られないベルゼ】
ベルゼは料理も上手く、華やかな盛り付けやシチュエーションなどに合わせた料理、食感や香りに拘ったものなども幅広く作れるし、その腕前はイリスも認めている。
ただ、こいつは調理中にもガンガン食う……使わない食材はもちろん、使い終わった調理器具とかもどんどん食べるし、気を抜いたら暴食の魔力でつまみ食いとかもするので、調理班に回されることは無い。
~今日の黄金騎士~
「光りたくて光っているのではない、光ってしまうのが光の騎士」
※常にギラギラ光っているのは、極光防壁を纏っているからとか、鎧に光沢があるからとかではなく、光の騎士という存在そのものが輝いているのだ……だからと言って、照明扱いは止めて欲しい。




