自称シャドウグール族の女王
死の大地にある死王アイシスの居城。廊下を歩いていたウルペクラの元に猫耳を揺らしながらアルシャが駆け寄って話しかけてきた。
「ウル先輩、ちょっといいにゃ?」
「うん? どうしたんすか? 口調以外の個性なら、相変わらずイマイチっすよ」
「出会い頭に刺してくるにゃ、このクソ狐!? いや、そうじゃなくて、ちょっと聞きたいことがあるにゃ。大型の拡声魔法具って、どの倉庫に置いてたかにゃ?」
「あ~どこだったっすかね……聞いてみるっすかね」
アルシャの質問に少し考えるような表情を浮かべた後、ウルペクラは壁に近付き、影になっている部分に向けて軽くノックをしながら声をかけた。
「アルフェラ~いるっすか? ちょっと聞きたいことがあるんすけど……」
「はいはい、ボクになにか御用かな~?」
ウルペクラが影に向かって声をかけると、直後になにもない空中に黒い横線が入ったかと思うと、円形の影のようなものに変わり、そこからアルフェラが上半身を出してきた。
シャギーが入ったように毛先の長さに差がある漆黒のセミショートヘアに赤い瞳、肩が出た薄手のブラウスを着た女性であり、空中の影から上半身だけが出ているという状況なので身長などは分かりにくいが、少女と大人の中間のような雰囲気があった。
「大型拡声魔法具ってどの倉庫に入れてたっすかね?」
「えっと、ちょっと待ってね検索するから……6番に入ってるよ。すぐに必要なら出そうか?」
「って言ってるっすけど、どうするっすか?」
「あ、すぐに使うわけじゃないから場所の確認だけで大丈夫にゃ、アルフェラ先輩ありがとうにゃ!」
彼女の名前はアルフェラ……自称シャドウグール族の女王にして、時空間魔法の達人であり影を用いて様々な場所に空間を繋いだり、影の中に作り出した亜空間に他者を招き入れたりと様々なことが行え、死王配下としては亜空間にある共有倉庫の管理を担当している。
「気にしなくていいよ。困ったことがあれば、この自称シャドウグール族の女王であるボクが助けてあげるから、気軽に頼ってくれて大丈夫だよ」
「……前々から気になってたにゃ。アルフェラ先輩って、なんで自分で自称っていうのかにゃ?」
「事実として自称だしね」
「まぁ、実質シャドウグール族の女王ってか王で間違いはねぇっすけどね」
「ややこしいよね~」
アルフェラはよく自分のことを自称シャドウグール族の女王と言っており、自分で「自称」とつけることが不思議だった。
アルシャがそのことについて尋ねると、アルフェラとウルペクラはどこか軽い様子で苦笑し合う。
「う~ん、そもそも私はアルフェラ先輩以外のシャドウグール族って見たこと無いにゃ」
「うん。そりゃ、『8000年以上前に絶滅してる』し、見たことなくて当然だよ」
「にゃっ!?」
「というか、そもそもアルフェラはシャドウグール族じゃねぇっすよ」
「うにゃぁ!? ど、どういうことにゃ? だ、だって、シャドウグール族の女王王って……」
こともなげにシャドウグール族は絶滅していると告げるアルフェラ、そのアルフェラがシャドウグール族ではないと当たり前のように告げるウルペクラの言葉に、アルシャは訳が分からず頭に大量のクエッションマークを浮かべる。
そんなアルシャの様子を見て、アルフェラは微笑ましそうな笑みを浮かべた後で口を開く。
「……あ~そうだよね。アルシャは知らないんだよね」
「アルシャは、割と最近入ったっすからね。ちょっと複雑っすけど、アルフェラは間違いなくシャドウグール族の女王って言っていい存在っすけど、シャドウグール族ではないって感じなんすよね」
「その前に簡単に説明すると、シャドウグール族ってのはいまはもう絶滅してるんだけど、影に潜ることができるっていう種族特性を持つ以外は、弱いし知性も低い、繁殖力だけはあるから数だけはそれなりに多い弱小種族だったんだよ」
よく分かっていない様子のアルシャに対して、アルフェラはシャドウグール族について軽く解説を始める。
「シャドウグール族にとって、影の中が一番快適ですごしやすくて安心できる場所なんだけど、力も魔力も弱いシャドウグール族は長時間影に潜ることはできず、できるだけ日影の多い場所に居住区を作って、魔物とかに怯えながら生活してたって感じだね」
「影に潜るのは一種の時空間魔法っすから、種族特性として行えたとしても魔力消費は大きかったって感じっすね」
「なるほどにゃ……」
「それで、シャドウグール族の者たちは求めたんだよ。影に潜るのではなく影の中に影の世界を作り出して、そこに自分たちを住ませて守ってくれる存在、シャドウグール族にとって王となりうる存在を……まぁ、もの凄く簡単に言えばそれがボクってわけだね」
「ああ、だから、シャドウグール族の女王ってことかにゃ」
そう、アルフェラはシャドウグール族ではない。ただし、シャドウグール族たちに望まれた『シャドウグール族にとっての王』と言える存在ではある。
「それで、ここからが悲劇とも喜劇ともいえる話なんだけど、世界中を探し回ったりするような力もないシャドウグール族は自分たちで王を作り出そうとしたんだよ」
「え? それって、生命の創造ってことにゃ?」
「そう、しかも、自分たちより圧倒的なほどに上の力を持つ存在の創造だよ。もちろんそんなのできるわけがない。普通の方法では……ね」
「えっと、つまり、普通じゃない方法なら可能ってことにゃ?」
「禁術に近い方法なんだけど、シャドウグール族は志願した数十人の魂を含めた全てを生贄として術式に捧げることで、不可能を可能にしようとした。いやもちろん、そんな術式をシャドウグール族が組めるわけなくて、偶然見つけた古文書を丸写しした感じだけどね」
「アルシャも怪訝そうな顔をしてるんで分かると思うっすけど、その辺の魔物に怯える程度の力しかない種族が数十人生贄になった程度で、そんな禁術が成功するわけもないっす。まぁ、その辺も含めてシャドウグール族は知性自体も低くで、多くの生贄を捧げれば願いが叶うみたいに甘い考えだった感じっすね」
そう、確かになんらかの対価を生贄にすることで術式や儀式の難易度を下げるという方法はある。だが、今回のケースに限っては求めるものと捧げるものの価値が釣り合っていない。亜空間に影の世界を作り出せるほどの能力を持つ存在を、その程度の生贄で作り出すのは不可能だった。
そう、儀式としては禁術に該当するのだが、成功することはありえないというものであり……その手の謎の儀式というのは過去にもいくつか例は存在する。
だからこそ、禁忌として神族が止めに入ることも無かった。ただ知性の低い種族が、独特の儀式をしているという程度の話だったから……。
「ただここに凄い間抜けな失敗があってね。何度も言ってるけど、シャドウグール族は知性が低くてさ、古文書を元にして儀式用の術式を作り上げた。本来その古文書に書かれてる術式は偽物でさ、禁術じゃなかったんだよ。でも、シャドウグール族は術式を書き起こすときに思いっきり構成を間違えちゃってたんだよ。しかも、最悪なことに間違えたことで奇跡的に禁術の術式として完成しちゃった」
「そして、禁術が発動したわけっす……しかも、そんな間違いをやらかすような種族が、条件の方もしっかり構築できてるわけがないっす」
「そう、その禁術によってボクは誕生した『シャドウグール族の全てを生贄にして』……間抜けな話でしょ? 結果としてボクは、シャドウグール族の王として望まれたのに、シャドウグール族を絶滅させて誕生した存在になって、ポツンと影の世界にひとりで目覚めたってわけだよ」
そう、アルフェラの誕生はいくつもの偶然と奇跡が重なって成立したものであり、結果として当時存在した8642体のシャドウグール族すべてを生贄として捧げたことで、生まれながらにして爵位級に匹敵する力を持つ存在として誕生した。
「それで生まれたはいいけど、役割が無くなっちゃったボクは途方に暮れてさ……とりあえず義理立てとして、生贄となったシャドウグール族一体につき一年影の世界を維持して、8462年経過してから義理立ては終わりってことで外の世界に行こうとしたんだよ。で、最初になんの気なしに出たのがこの居城で……侵入者と間違えられてボコボコにされたわけだよ。酷いよね!?」
「いやまぁ、アレは最初に見つかった相手も悪かったっすね。あの黄金骸骨っすし……」
「本当にねっ! アイツ全然こっちの話聞かないし、滅茶苦茶強い光の魔法使うから、ボク相性最悪だし……あとでちゃんと謝ってくれたからいいけどさ……」
生贄となったシャドウグール族たちに最低限の義理立てはした後で自由に生きようとしたアルフェラは、影の世界から出て最初にアイシスの居城内に出てしまった。
侵入者用の術式も無効化して急に現れたアルフェラは侵入者とみなされて、弁明むなしく追い回されることになった。
「なるほどにゃ。教えてくれてありがとうにゃ! じゃあ、アルフェラ先輩がいっつも上半身だけしか出さないのは、シャドウグール族をリスペクトしてるって感じかにゃ?」
「え? あっ、ああ、そうだね! その通りだよ! シャドウグール族は、力が弱くて影に潜り続けられなかったら、こんな感じに体の一部だけ影に入れてるってことが多かったからね!!」
「……いや、単純に足が太いの気にして隠してるだけっす」
「太くねぇしッ!?」
アルシャの言葉に若干焦りながら肯定の言葉を返していたアルフェラだったが、ウルペクラがサラッと告げた言葉に猛然と反応しており、もはや自白に等しかった。
~ちょっとキャラ紹介~
【アルフェラ】
自称シャドウグール族の女王、彼女が生まれた時点でシャドウグール族は絶滅していたので、本人曰く「自称」である。
偶発的かつ奇跡的に噛み合って成立してしまった禁術によって誕生した存在であり、特殊な例ながら珍しく神域のあの方が原因ではない存在。
王として望まれて生まれたのに、庇護すべき種族が己の誕生のための生贄となって存在せず、どうしたものかと影の世界で途方にくれた。
とりあえずシャドウグール族たちの望み通り、影の中に亜空間を作り出して影の世界を創り、義理立てとしてしばらく維持していた。
爵位級認定の際に会って、その後も時折やってくるグラトニーとの会話以外は暇で暇でしょうがなく、義理立てが終わったら絶対外の世界で自由に生きてやると心に誓って、義理立てが終わった瞬間意気揚々と出先を確認せずに外の世界に向かったため、アイシスの居城内に唐突に表れてしまった。
そしてたまたま光の騎士を自称する骸骨に見つかり、侵入者とみなされて追いかけ回されて途中で騒ぎを聞きつけた他の死王配下も集まり、結果として窮地に立たされていたのだが、通りがかったアイシスに助けてもらい、その縁でアイシスの配下に加わることとなった。
原因となった骸骨は正義感が強いだけで悪い奴ではなく、誤解が解けたのちに深い謝罪があって和解しており、いまは仲良くやっている。
なんか、胸とかはスレンダーよりなのに、太ももだけはやたらムッチリしていて、本人は気にしている。
~今日の黄金骸骨~
「黄金の鉄の塊で出来た騎士が、影装備に遅れをとるはずはない」
※骸骨の癖に光の魔法が滅茶苦茶得意で、影を主に使うアルフェラには相性有利。




