閑話・怪物ではない
快人によってトリニィアに連れ帰られた星喰いは、快人からベルゼ・カルネという名前を与えられて、スクスクと成長していった。
いや、正しくは五つの銀河を食い尽くす時点で、相当長く生きてはいたのだが……ずっと食することしか考えていなかったこともあって知識面では幼子同然であり、基本的な常識などを学ぶところからのスタートだった。
とはいえ、ベルゼ自体が快人にベタベタに懐いていたこともあって、快人の言うことに素直に従うので手間はかからず。食事量的な問題なども、カナーリスが解決したので大きなトラブルなどは無かった。
強いて挙げるのであれば、人の姿に変身することを覚えたベルゼが、最初は小さい快人のような姿になっていたのだが……恋愛云々に関して学んだあとは、女性体の姿をとるようになったので、恋愛的な意味合いでも快人に惚れ込んでいるということが判明したぐらいではあるが、それもまぁ、いまさらと言えばいまさら……数々の存在の脳を焼いている特異点の逸話がひとつ増えたぐらいである。
ベルゼは快人の家に住む者たちとも仲良くしていたが、特に気が合って親しくなった相手は……アイシスだった。
「それで、カイト様がギュって抱きしめてくれて……」
「……うん……分かる……カイトは……優しくてカッコいい」
「はい!」
暴食の魔力、それを孤独とは気付いていなかったが長年孤独に苦しめられていたことなど、似通った部分が多かったこともあり、実際に快人も最初にベルゼの感情を読み取った時にアイシスを想起したので、そのこともあってアイシスにベルゼを紹介してみると……非常に気が合い、ベルゼもアイシスにかなり懐いた。
快人の話で盛り上がるのもそうだが、暴食の魔力の細かなコントロールなどをアイシスが指導してくれたこともあって、一種の師弟関係のようにもなった。
ベルゼが一番好きな相手は快人ではあるが、二番目を挙げるならアイシスを答えるぐらいに仲良くなったこともあって、ベルゼが常識などを身に着け終わった後は社会勉強も兼ねて死王配下に加わることになった。
死王配下たちともすぐに打ち解け、つまみ食いなどの困った癖はありつつも、元々個性が強い者が多い死王配下の中で受け入れられ、食品開発を任されるなど死王配下としての地位も確立していった。
「……ベルゼ、この巨大なカイト様像はなんすか? いや、というか、なんか見覚えあるんすけど……」
食品開発所を訪れていたウルペクラが、地価の広い空間の中央に鎮座する五メートル級の精巧な快人の像を見上げて呟く。
食品開発となんの関係も無いのは置いておくとして、これほどのサイズで極めて精巧な……職人技ともいえるような像。ウルペクラにはこの像に見覚えがあった。
「ああ、それは前にオリビアとカイト様のいいところについて、72時間ぐらい盛り上がった時に、教主の間にある像が羨ましいって言ったら作ってくれたから飾ってる」
「意外な組み合わせって言えば、意外っすけど……オリビアさんと仲いいっすよね」
「オリビアはいい人だよ。カイト様のことをいっつも褒めてるから、聞いてて嬉しくなるし、食べ物にも詳しいから試食とかもよくしてもらうしね」
人界にあって三国のいずれにも属さず、初代勇者の残した魔界、人界、神界の三世界で交わされた友好条約の原文を守護する都市代表にして、神教と呼ばれる宗教の教主でもあるオリビアは、快人とシャローヴァナルを心から深く信仰している存在である。
快人を通じて知り合ったオリビアとはすぐに気が合い、たまに快人に関して夜通し語り合う仲であり、その縁もあって像をプレゼントされていた。
「なるほど……それで、いまくってるそれはなんすか?」
「持ち運びやすい棒状の食べ物が作れればなぁって思って作ってみたんだけど、美味しいけど強度が鉄ぐらいになっちゃったから一般向けじゃないね。お菓子としては、食べやすくていいんだけど……ウルペクラも食べる?」
「いらねぇっす。けどまぁ……相変わらず、なんでも美味しそうに食べるっすよね」
ウルペクラの言葉通り、ベルゼはなんでも非常に美味しそうに食べる。いま食べているもはや細い鉄……針金をそのまま食べているようなものに関しても、それこそ食べ物じゃないものに関しても、いつも美味しそうに食べるし、感想も全て美味しいである。
「美味しいよ。美味しいって思いながら食べれるのが……なんだかな? 食事ってことを楽しめてて、幸せって感じだね。食べることは楽しいことなんだって、実感できるのが……う~ん、表現は難しいけど、なんか好きって感じだね」
「……」
ベルゼの言葉を聞いて、ウルペクラはフッと優し気な笑みを浮かべる。ベルゼの境遇はウルペクラも快人やアイシスから聞いて知っている。
かつてのベルゼにとって食することとは、湧き上がる苦しみから逃れるためのものであり、同時にいくら続けても満たされない苦しみを味わうだけの……強迫観念のような思いと苦しみの伴うものだった。
食べたものの味などを気にしたことも無ければ、それを楽しんだこともなかった。
だが、快人に救われ様々なことを学び……いまの彼女は、苦しみから逃れるためではなく、食べることが好きでいろんな味を楽しめているのは、ベルゼにとってとても幸せな変化と言って間違いないのだろう。
「せっかくですし、アタシも一緒におやつでも食べるっすかね。ベルゼ、なんかマトモな菓子くれっす。凄く美味しい以上のやつで」
「私が食べてるのがまともじゃないみたいな……でもまぁ、一緒に食べるとひとりで食べるよりもっと美味しいし、ちょっと待ってね。えっと、前に上手く作れたやつが……」
かつては暴食の化身、星喰いと呼ばれたベルゼは、かつてと同じくいろいろなものを食べ続けてはいた。だが、かつてといまでは大きく違う。
なにより、いまの彼女は知っている……誰かと一緒に食べる食事の楽しさを、美味しさを共有することの幸せを……だから彼女はもう、決して……怪物ではない。
~ちょっと解説~
【ベルゼと仲の良い人たち】
死王配下以外だと、カナーリス、オリビア、マキナ、アンリ、リンドブルム辺りと仲がいい……つまるところ、快人ガチ勢と仲が良く話が弾むみたいである。
特にオリビアとは仲良くしており、たまにオリビアの元に泊まりに行って夜通し快人について熱く語り合ったら新作を試食してもらったりしている。
ついでに度々香織も巻き込まれており……「い、いや、あの、ベルゼちゃんもいい子だとは思うんだけど……私はその24時間耐久で快人くん語りとかは……」と疲れた顔で言っていたそうだ。




