ベルゼ・カルネ後編
死王陣営には亜空間に共有の倉庫が存在する。それはいわば、共有できるマジックボックスのようなものであり、亜空間に存在する倉庫は時空間魔法により食品などを劣化させずに収納することができる。
亜空間に作られた複数の倉庫を管理しているのは、死王配下のひとりであり自称シャドーグール族の女王であるアルフェラであり、時空間魔法においては亜空の捕食者と呼ばれる幻王配下幹部のグラトニーにも匹敵するほど高い能力を持つアルフェラによって、複数の共用倉庫が作られている。
ただし、その倉庫にもいくつか種類があり、食品用の倉庫であれば第一第二の倉庫は居城の地下に入り口が常に開いており、誰でも出入りすることができるようになっている。
対して第三倉庫に関してはそれなりに高価な食材や珍しい食材を保管していることもあって、アルフェラから専用のカギを渡されている者しか入ることはできないような仕組みとなっている。
そして、食品開発担当するベルゼは第三倉庫のカギを持つ限られた存在であり……今回の第三食品倉庫の食材四割消失事件の犯人最有力候補……というか、犯人であった。
なお、前科数回ある上に、そもそも倉庫の4割の食材を容易く平らげる者自体が限られるので、犯人はあまりにも分かりやすいのだが……。
「……いや、その……昨日さ、夜に凄く上手く出来たベーコンを第三食品倉庫に入れててさ、その時たまたま新しい食品のアイディアを思いついて考えてたんだよ」
「ふむふむ、それでつまみ食いをしたと……」
「い、いやぁ、つまみ食いというか……き、気付いた時には暴食の魔力が勝手に……ほ、本当に不可抗力的なやつで、むしろ4割で止めたのは我ながら凄い自制心だったと思うんだよ。だからその、暴食の魔力が悪いってことで……」
ダラダラと冷や汗を流しながら告げるベルゼの言葉を、ウルペクラは穏やかな微笑みで最後まで聞いてから静かに頷いた。
「……じゃ、そういう風にカイト様に報告しておくっす」
「ああ、待って! ごめんなさい! 私が欲望に負けて、つまみ食いしちゃいました! だから、それだけは……カイト様に叱られちゃう!?」
「カイト様に叱られるのが嫌なら、大人しくイリスに説教されて、食べた食品を補填しておくっすよ」
「はい……」
実際のところ過去にも何回かやらかしているし、そのたびにちゃんと食べた分の食材は作り直して補填している。おそらく今回も、バレる前に食材を作り出して戻しておこうと考えていたのだろうと考え、ウルペクラは苦笑を浮かべる。
ベルゼが考え事をした際などに、ついつい近くにある食材を食べてしまうのもよくあることであり……当然だが、イリスもその辺りは考えて対策をしている。
実のところ第三食品倉庫はそれなりに高価な食材などが保管されてはいるが、別にベルゼが食べてしまってもそう問題があるわけではないものばかりが保管されている。
本当に極めて高価なものや希少な食材は、第四食品倉庫に保管されており、そちらはベルゼには立ち入り用のカギは渡されていない。
「……まぁ、その話はあとでイリスとするっす。それで、なんかたべさせてくれるんすよね?」
「あっ、そうだね! じゃ~ん、これだよ!」
「……鶏肉っすか?」
ウルペクラが声をかけると、ベルゼは気を取り直すように明るい声と共に鶏肉のようなものを取り出した。
「私って命とか魂は作れないけど、肉自体は作れるからね。これは、ロックバードのもも肉とスパイスを混ぜて作ったお肉だよ! そのまま焼くだけでも、スパイシーな味わいで凄く美味しいんだよ!」
「ふむふむ、それは美味しそうっすね。その鶏肉でなに作るんすか?」
「それはできてのお楽しみ。ささ、ここ座って~すぐできるよ」
ベルゼがテーブルを椅子を用意してウルペクラに着席を促してから鶏肉を使って調理を始める。すでに下処理は終えているらしい鶏肉に、薄力粉、溶き卵、パン粉を付けて高温の油で一気に揚げる。
「お~チキンカツっすか」
「モモ肉がジューシーで美味しいよね! いい感じに揚がったチキンカツを大きめにカットして……」
ザクザクと小気味いい音を立てて切れていくチキンカツは、しっかり芯まで熱が通っており非常にきつね色の衣と白い肉の色のコントラストが美しい。
なお、チキンカツを切りながらベルゼは髪を口のような形に変えて、上げ終えた高温の油を飲み干し、ついでに鍋も食べていたが……いつもの事である。
そして続けてベルゼが寸胴鍋を取り出すと、カレーのいい匂いが漂ってくる。
「チキンカツカレーっすか、いいっすね」
「このカレーもね、カナーリス様がくれたスパイスを使って作った本格的なやつでさ、かなりの自信作なんだよね。皿にライスを持って、カットしたチキンカツを乗っけて、その上からたっぷりカレーをかけて……さらにここでひと工夫!」
「うん? タルタルソースっすか?」
「うん。このスパイスチキンカツはスパイスの風味を感じられる美味しいチキンカツだし、カレーもとても美味しいカレーなんだけど……ちょっとスパイスが強いから、辛味が尖ってるんだよね。だから、こうしてタルタルソースをかけることで辛味をマイルドにするんだよ」
「へ~」
「できたよ~」
チキンカツの上にタルタルソースをたっぷりかけて、料理は完成しベルゼは盛り付けた皿をウルペクラの前に置く。
揚げたてのサクサクとしたチキンカツをスプーンで一口サイズに切って、カレールーとタルタルソースをすくって口に運ぶ。
鶏肉を噛みしめると、口の中から鼻に抜けるようなスパイスの香りが心地よく、モモ肉の弾力とジューシーな食感を歯で感じる。
カレーはやや辛口に整えられているようで、確かに鶏肉のスパイシーさと辛口のカレーが合わさると、辛さが鋭いように感じられたが、それも一瞬ですぐにタルタルソースの油分と酸味が辛さを柔らかくしてくれる。
「お~確かに、カレーも辛めな感じっすけど、タルタルソースがいい感じにマイルドにしてるっすね。それに、後味も結構爽やかな感じがするっす」
「少量のレモン果汁を加えて、爽やかなタルタルソースにしてあるんだよ。鶏肉との相性も抜群で美味しいでしょ?」
「たしかに、相性もよくて美味しいっすね。う~ん、こういうところはグルメに見えるんすけどねぇ」
「私はグルメだと思うけど……」
「グルメなやつは、アタシに出したカレーと同じもの食べながら、裏で寸胴をジョッキみたいに傾けてカレー飲まねぇんすよ」
呆れたように告げるウルペクラの視線の先で、向かいの席に座ったベルゼはウルペクラと同じカレーライスを食べながら……後方で複数の髪の口で、複数の寸胴鍋を咥えてゴクゴクとカレーやタルタルソースを飲んでいた。
「カイト様の世界には、カレーは飲み物って言葉があるらしいよ?」
「比喩みたいな感じっすよね? マジで水みたいに飲むもんじゃねぇんすよ……あと、寸胴鍋も食ってるっすし」
「鍋は鍋で美味しいよね~」
「そんなんだから、グルメなんだか雑食なんだかよく分からないって言われるんすよ……」
拘った料理もできるし、実際に作る際にはいろいろ美味しくなるように工夫もする。味のバランスや食材の相性も考えるし、ウルペクラが手放しに美味しいというぐらいの完成度のカレーが作れるあたり、料理技術もかなり高い。
だが、それはそれとしてなんでも美味しく食べるのがベルゼ・カルネという食いしん坊であった。
~ちょっと解説~
【ベルゼの料理】
普通に腕前はイリスに次ぐぐらいであり、かなり複雑で凝った料理も作れるし、実際に作って振る舞ってくれることもある。
でもそれはそれとして、料理されてない食材も、その辺に転がっている石ころも美味しいので、なんでもモグモグする。




