ベルゼ・カルネ中編
ベルゼはいわば全身どころか魔力まで含めてすべて口と言える存在であり、食べながら話すというのも簡単である。
掌に出現させた口でヒカリ饅頭を食べつつウルペクラと会話をするなど造作もないことであり、それを知っているウルペクラも気にした様子も無く饅頭を食べているベルゼに話しかける。
「……ところで、この木はなんすか? 木に肉が生ってるんすけど……」
「正確に言うと、肉みたいな見た目の果実かな? 私は考えたんだよ、死の大地には魔物や動物はいない……ああいや、生物学上のって話じゃなくて……分かるよね? クリスタルシティの住人とかは除いてだよ」
「分かるっすから、そのまま続けて大丈夫っす」
「よかった……動物や魔物が居ないのは死の大地の環境もあるけど、定期的にアイシス様が死の魔力を放っているのも理由で、そのおかげでクリスタルシティは魔界で一番安全な街って言われてるぐらいだから、凄くいいことなんだけど……そう、お肉が外から仕入れることでしか手に入らないのは問題だと思うんだよ!」
「……クリスタルシティには普通に家畜いるっすよ?」
「そうなのぉ!? え? あれ? ……知らなかった」
饅頭を食べ終えた手をグッと握りながら力強く宣言したベルゼだったが、直後にウルペクラが当たり前のように告げた言葉に心底驚愕していた。
確かにベルゼの言う通り、死の魔力の影響により死の大地には魔物や動物は生息していない。ただし、死の大地唯一の街であるクリスタルシティは例外である。
アイシスは定期的に魔物避けのために死の魔力を放っているが、死の魔力をコントロールしてクリスタルシティは除外している。
念のために死の魔力を放つ日は夜間に外出しないようにと警告こそ出すが、死の魔力を完全にコントロールできるいまのアイシスにとって特定範囲を除外するぐらいは簡単で、まずミスをすることもない。
そのためクリスタルシティ内では普通に酪農などといった生物を利用した畜産業も可能であり、実際に行われている。
「……どうしよう、前提が崩壊しちゃったんだけど」
「いや、まぁ、とりあえず事情的なのは置いておいて、続きを話してほしいっす」
「う~ん、凄く簡単に言うと、お肉っぽい味や触感の果実が作れれば、お肉が手に入りやすくなるかなぁって作ってみたんだよ」
「へぇ、見た目は完全に肉っすけど、美味しいんすか?」
「美味しいよ。ウルペクラも食べてみる?」
「……」
「な、なんでそんな目で見るの?」
笑顔で提案するベルゼに対して、ウルペクラは明らかに嫌そうな表情でジト目をしており、表情からも試食を拒否しているのが伝わってきた。
その理由が分からず首をかしげるベルゼに対して、ウルペクラは呆れたような目のままで告げる。
「……アタシは、ベルゼの味の評価に関しては『凄く美味しい』と『とても美味しい』以外は信用しねぇことにしてるっす。いや、美味しいって評価の物がすべて不味いってわけじゃないっすけど、美味しいの範囲が広すぎるんすよ。凄く美味しいとかが80点以上から出る評価とすれば、79点から0点やマイナス100点まで全部美味しいって言うじゃねぇっすか……つまり、私が食べるとマイナス100点の可能性もあるんすよ」
「……ウルペクラ、食べ物に0点だとかマイナスだとか、そんなのは無いんだよ。どれもすべからく100点以上の素晴らしいものなんだよ!」
「食材に感謝だとかそういう話してるんじゃねぇんすよ。個人の味の好みに関して話してるっす。ベルゼにとって100点でも私にとってはマイナス100点とかの味があるんすよ」
「好き嫌いはよくないと思うなぁ……」
「好き嫌いの範疇で済めば、そうっすね」
ベルゼは本人が言っているように、味の評価に関しては「美味しい、凄く美味しい、とても美味しい」しかなく、不味いと評価する食べ物は無い。
常人が食べれば悶え苦しむどころか、死に至るような食材でも、神にすら固定ダメージを与えるような悪魔的ベビーカステラであっても、彼女の評価は「美味しい」である。
「……で、実際のところどんな味なんすか?」
「う~ん、見た目はよくできたんだけど、味のお肉感はイマイチだね。えっと……味も触感もゴムが近いというか、ほぼゴムかな?」
「じゃあ、ゴムなんすよそれ……」
「美味しいのになぁ……」
ベルゼがそう告げると、目の前にあった木に大きな口で抉り取ったかのような噛み痕が現れ、見えないなにかに捕食されているかのように木や果実が食べられていく。
ベルゼは魔力でも捕食が可能であるため、魔力が届く範囲は全て口の中……暴食の魔力と呼ばれる彼女の魔力は、あっという間に木をと実を平らげてしまった。
「美味しいっ……でもまぁ、実験的に作ってただけだし、クリスタルシティでお肉が育つなら別に必要ないね。次はなに作ろうかなぁ……って、そうだ。ウルペクラの用事を聞いてなかったね?」
実験的に作っていた木を食べて処理した後で、ベルゼはそういえばウルペクラがここに来た理由を聞いてなかったと思い出して尋ねる。
「ああ、メギド様が晶花宴の評判を聞いたらしく、ベルゼの作った酒を飲んでみたいんで売ってほしいって言ってきたんすよ。それで、在庫的に問題は無いかを聞きに来たっす」
「それは、晶花宴で出した酒をってこと?」
「いや、メギド様はどの酒でもいいって言ってたっす。とりあえず、ベルゼが作った酒がどんなものかって感じだと思うっす」
「ふむふむ、量は?」
「とりあえず100樽欲しいそうっすけど、同じ酒じゃなくていろいろ混ざってても問題ないらしいっす」
ウルペクラの用件は大の酒好きである戦王メギドが、晶花宴で提供された酒の評判を聞いてベルゼの作った酒に興味を持ったらしく、買い付けができないかとウルペクラに話を持ちかけてきたというものだった。
「メギド様は確か、アルコール度数が強い酒が好きだったよね? 前に作ったやつが50樽分ぐらいはあるね。後晶花宴で出した酒も50樽は問題なく用意できるから、そのふたつでいい?」
「問題ないっすよ」
「分かった。じゃあ、用意しておく……用件はそれだけ? もし終わりなら、なにか食べていく?」
酒の販売は問題ないと告げた上で、ウルペクラの予定が空いてるなら一緒に食事でもどうかと誘うベルゼに対して、ウルペクラはいっそ慈愛すら感じる表情で微笑んだ。
「用件って意味では終わりっすけど……別件で、イリスから確認して欲しいって言われてることがあるっす」
「……確認?」
「……第三食糧庫に保管されていた食材の4割ほどが消えてたらしいんすけど……」
「……」
……ベルゼは、冷や汗をかきながら目を逸らした。
~ちょっと解説~
【暴食の魔力】
魔力においても捕食が可能であり、魔力が届く範囲すべてが口と言えるようななかなか凄い魔力であり、さらに一度食べたものは魔力を用いて作り出すことができるという能力がある。
ただし、神の権能というわけではないので、命や魂というものは作れないため生物を作ろうとしても死体のような形でしか作り出せない。
複数の性質をかけ合わせたものも作り出せるので、特定の植物の持つ性質だけを別の植物に付与したりということも可能であり、ベルゼはそれを用いて新種の食材などを作り出していて、いまは死の大地で結界を用いずに栽培可能な野菜か果実を作ろうとアレコレ試作を繰り返している。




