晶花宴⑤
晶花宴はいくつかの出し物を挟みつつ緩やかに進行し、粗方の参加者は食事を終えて酒やつまみと共に美しい花畑と、穏やかな会話を楽しんでいた。
もちろんそれは死王配下たちもそうであり、配下用の席にて会話や酒を楽しんでいる。
「……これハ、いい出来だナ。辛口ではあるガ、後味が素晴らしイ」
「私には少々辛すぎるな。完成度の高い酒であるのは間違いないが……ベルゼが作ったんだろう?」
「あア、流石というべきカ……まァ、アイツは妙な味のものも大量に作るガ、さすがに晶花宴に出す品ハ、事前にイリスたちの試飲が行われているから安心だナ」
「そうだな……それで、そのベルゼは?」
透き通った日本酒に似た酒を飲んで感心するラサルと、辛い物が苦手なため甘いカクテルを飲んでいるシリウス……ふたりが話しているのは、手元にある酒の制作者に関してだった。
晶花宴で出される酒に関しても死王配下が作成しており、行っているのはベルゼという死王配下のひとりである。
「向こうデ、空になった瓶を食べているゾ」
「相変わらずグルメなのか雑食なのかよく分からんやつだ」
シリウスに尋ねられてラサルが指示した視線の先には、まるでクッキーの様に空瓶を食べている小柄な少女が居た。
一見すると歩く時に邪魔になりそうなほど長い足元まである明るい茶髪に少し赤みがかった目、儚げで可憐な美少女といえる容姿ではあったが……体のあちこちに開いた口でいくつもの瓶を食べる姿には異質な雰囲気もあった。
少女の名は……ベルゼ・カルネ。死王配下の一員であり、主に食料や酒類の製造を行っている。
「ベルゼ、コレも食べるか?」
「んぁ? ちょうだい」
シリウスが机の上にあった空瓶を手に持って声をかけると、ベルゼがそれに反応する。そしてシリウスがベルゼの方に向かって軽く空瓶を投げると……ベルゼの首が真ん中から折れるように開いて口となり、飛んできた空瓶を丸呑みにして元に戻った。
「……いまさらだが、空瓶を食べて美味いのか?」
「うん。というか、私の食事の感想には、美味しい、凄く美味しい、とても美味しいしかないから、ゴミがあるなら私が食べるよ」
「食べ過ぎて机や椅子は食うなヨ」
「大丈夫。カナーリス様特製のタブレット菓子があるから、お腹は減ってない。食べられるなら、なんでも食べるけどね」
ベルゼの一日の平均的な食事量は、カロリーに換算しておよそ80億キロカロリーほどであり、肉で表現するなら400万トンを超える。
しかもこれは別に限界の量というわけでもなく、普通に食事をしてその量であり、その気になれば食べられる量に制限はなく『魔力を含めたあらゆる部分で捕食可能』という特性も相まって、文字通り無限に食べることが可能な暴食の化身である。
しかし現在は、全知全能の元神であるカナーリスが作った本来ならあり得ない超高カロリーのタブレット菓子があるおかげで、常識的な食事量で済んでいる。
そんなベルゼはシリウスに声をかけられたこともあって、シリウスとラサルがいるテーブルにやって来て、テーブルの上に肘を突いてどこか不満そうな顔を浮かべる。
「あ~あ、カイト様のところに行きたかったのになぁ」
「貴賓席には基本的に挨拶は禁止だからナ、それを許せばキリが無くなル」
「ベルゼと同じようにカイト様に挨拶をしたいと思う者は多いだろうしな」
「それは分かるけどさ~ぐぬぬ、ウルペクラが羨ましいよ」
ベルゼはやや特殊な来歴を持つ存在であり、元をたどればトリニィアとは違う異世界の存在で、特異点たる快人がこの世界に連れてきた生物であり、快人のことを非常に慕っている。
快人から紹介される形でアイシスと知り合い、現在はアイシスの事も敬愛しているし、配下としてしっかりアイシスの役に立ちたいとも思っているが……それはそれとして、大好きな快人と会えるチャンスは逃したくないという気持ちが強い。
……三日に一度ほど、快人の家で寝泊まりしているとしても……。
「ゴルフで負けたのだから仕方がないな」
「というカ、お前……ホールを進めるごとニ、クラブの数が減っていたということハ……途中で食べただろウ?」
「うっ……だ、だって、あんなに本数あるなら何個かは食べてもいいかなって……いや、終わった後はちゃんと作り直して返したよ」
ベルゼは一度喰らったものを魔力で再構築して作り出すことができるという能力を持つため、食べたゴルフクラブも作り直して元に戻したし、いま食べている瓶も新しい酒を造る時にはまた作り直す予定である。
空腹自体はタブレット菓子で補えるので、単純に食べるという行為そのものが好きだから食べているだけである。
「……ところで、お酒はどうだった? 今回は吟醸酒を参考にして作ってみたんだけど……」
「スッキリとした味わいがいいナ。私はかなり好みの味ダ」
「いい酒だとは思うのだが、私には少々辛口すぎるな」
「ふむふむ、ブルークリスタルフラワーのイメージに合わせて清涼感のある感じを目指してみたんだけど、辛さまでは考えてなかったなぁ……シリウスみたいに辛口のお酒が苦手って人も居るだろうし、来年は甘めのやつも別に作ってみようかなぁ」
ラサルとシリウスの言葉を聞いてベルゼはメモ帳……と呼ぶにはかなり大きな本を取り出して、ふたりの感想を書き込んでいく。
「……メモ帳にしてハ、サイズが大きくないカ?」
「ふへへ、このメモ帳はね~カイト様の日記帳とお揃いのやつなんだよ」
「……ならそれは日記帳では?」
幸せそうな笑顔で告げるベルゼを見て、シリウスは思わずといった感じで苦笑しつつツッコミを入れた。
~ちょっとキャラ紹介~
【ベルゼ・カルネ】
特異点である快人が異世界から連れ帰ってきた生物で……『五つの銀河を喰らい尽して世界創造主の手で封印された暴食の怪物』であり、トリニィアでは対外上公爵級高位魔族に認定されているが、別に魔族というわけでもない。
晶花宴に関する会議で「カイト様のところに行っていい?」と発言していた子。
快人にすっかり惚れ込んだことで、快人を参考にして人型の姿をしているが、元々は大量の口が生えた肉塊のような姿である。
全身だけでなく、魔力でも捕食を行えるため、暴食の魔力といっていい能力を有するが……アイシスの死の魔力のような神の権能に近い力というわけではなく、あくまで生態の一巻のようなもので神の権能級の力というわけではない。
生まれた時から無限ともいえる満たされない空腹によりありとあらゆるものを食い尽くし、さすがにこれ以上暴れられると世界が壊れると判断した世界創造主の手によって封印された。
しかし、一種のイレギュラーとはいえ自分の世界で生まれた存在を自分の手で消滅させたくはなく、かといって封印を解けば世界の全てを食い尽くしてしまうということで扱いに困った世界創造主が知り合いの伝手で快人に相談する形で話が持ち掛けられた。
暴食の魔力による捕食も一切通用しない快人に抱きしめられたことで、無限のように感じていた空腹は肉体ではなく心が飢えていたのが原因だったことを知り、初めて空腹が満たされて快人にすっかり懐き快人から「ベルゼ・カルネ」という名前を与えられ、トリニィアにやってくることになった。
境遇が近いということもあってアイシスを紹介されて意気投合し、交流の輪を広げるという目的もあってアイシスの配下に加わった。
基本的に姿は大好きな快人を真似て整えたのだが……快人とアイシスや他の恋人や妻が仲睦まじくしているのを見て、自分もそういう関係になりたいと考えた結果、快人と同じ髪や目の色は残しつつ少女の姿をとるようになった。
現在も平均して80億キロカロリーほど食事をしているが、カナーリスが作った特性タブレット菓子のおかげで食料を食い尽くしたりという心配はない。
なお本人は、平均80億キロカロリーの食事に関して「私も少食になったなぁ~やっぱり心が満たされてるからかな!」と、本気でそう思っている。
ちなみに、本人の言う通り食の感想は「美味しい、凄く美味しい、とても美味しい」の三種類しかないため、クロの大失敗ベビーカステラを食べても、出てくる感想は「美味しい」である。
快人が名付け親であり、保護者ということもあって……死王配下であっても星に関する名前ではない、一種の法則崩れである。
【余談】
他の陣営……冥王陣営、界王陣営、幻王陣営にも名前の法則崩れは存在する……誰だかわかるかな?




