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むつら☆ぼし  作者: 灯台


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晶花宴④



 晶花宴にて行われるムジカを中心とした演奏などでも盛り上がりつつも、美しい景色と食事を楽しむというコンセプト通りにどこか和やかな雰囲気で晶花宴は進んでいく。

 もちろん死王陣営用の席でもそうであり、手が空いた者や役目が終わった者がのんびりと晶花宴を楽しんでいた。


「うにゃ~私は案内が終わったから、後はのんびり楽しめるにゃ! う~ん、さすがイリス先輩の料理は絶品にゃ!」

「そんなに急いで食べなくても逃げない。アルシャ、口元が汚れてる……少しジッとしてて」

「……ありがとにゃ!」


 勢いよく料理を食べていたアルシャを隣で微笑ましそうに見つつ、口元に付いたソースを拭いたりと世話を焼いているコルネと、仲の良いふたりが楽しそうに食事をしていた。

 ふたりだけのテーブルというわけではなく、そこには他にも同席している者がいるのだが……。


「う~ん、さすがの味わい。実に……えっと、こう、アレだ……美味!」

「圧倒的な語彙力の無さを見せつけていく様には、尊敬すら覚えるね」

「……えっと……クレアとベラはなんでここにいるにゃ?」


 さも当然のような顔をして同じテーブルで食事を楽しんでいるクレアとベラを見てアルシャはどこか呆れたような表情で尋ねる。

 それに対して、クレアとベラはどこか誇らしげな様子で胸を張って答える。


「私たちは名誉死王配下だからね! 死王配下用の席に居て当然って感じですね!」

「むしろ、なぜアルシャが私たちのことを先輩と呼んでくれないのか、それが分からない」


 自分たちは名誉死王配下であり、死王配下用の席に居るのは当然と解答するクレアと、死王配下で先に所属している相手を「先輩」と呼ぶアルシャが自分たちを先輩と呼ばないことに不満そうなベラ……そんなふたりの言葉を聞いて、アルシャはコテンと首を傾げつつ顎下に人差し指を当てながら呟く。


「……う~ん、基本的に雰囲気がコント的というか、絶妙に頼りがいが無い感じが先輩っぽくないからかにゃ」

「はうぁっ!?」

「ぐはっ!?」


 死王配下じゃないからとかではなく、普通に普段の立ち振る舞いなどが先輩感が無いという言葉に、クレアとベラはどこか大げさなリアクションで椅子から転げ落ちる。

 それを見て「そういうところにゃ……」と考えているアルシャの心境を知ってか知らずか、そのまま戦慄したような表情で口を開く。


「……い、言いよる……このお猫ちゃん、可愛い顔してかなり鋭い言葉のナイフを振るってくるよ……」

「……これは完全に先輩の教えが生かされてる。主に狐とか、狐とか、性悪狐とか性悪狐とか、クソ狐とかクソ狐あたりの指導を強く感じる……将来有望じゃないか……」

「ベラ、これはよくないよ。このままでは私たち、また漫才コンビだとかそんな風に呼ばれちゃう」

「……やるのか……いま、ここで……」


 アルシャの背後に人を煽ることを生きがいとしているようなクソ狐……もといウルペクラの影を見たクレアとベラは、危険な芽は早急に摘まねばならぬとの決意のもと立ち上がり猛々しい構えを取る。

 これは異世界において「荒ぶる鷹」を表現したとされる由緒正しきファイティングポーズであり、ふたりの闘志が荒々しさを持って放たれる。


「将来舐められないために、いまここで分からせてあげる必要がありそうですねっ!」

「……教えてあげよう子猫ちゃん、理不尽なほどのパワーの差というやつを……」


 もちろん冗談ではあるのだが、どこか勇ましさを感じる表情で告げるクレアとベラの……漫才精霊コンビ。

 そんなふたりの前で、スッとアルシャの横に座っていたコルネが立ち上がり、静かに拳を握る。


「あっ、嘘! 嘘です! 冗談です!! やめて、その大変にストロングな拳を降ろしてください!?」

「降参、降参します! 我々子爵級! 伯爵級には敵いません! 慈悲を、どうか慈悲を!?」


 コルネを見て大慌てで構えを解いて命乞いを始めるクレアとベラだが、もちろんアルシャとコルネもいまのやり取りが冗談であるというのは理解しており、いつも通りの様子のふたりに苦笑する。

 そんなやり取りがひと段落して、クレアとベラは何事も無かったかのように席に座り直して雑談を再開する。


「……で、結局なんで死王配下の席にいるにゃ?」

「ウルちゃんに全力で泣き付いて用意してもらったからだね」

「……ふっ、見せつけてやったぜ、床に転がりながらのギャン泣きってやつを」

「……プライドはないのかにゃ?」


 改めてなぜクレアとベラがここにいるのかと言えば、ウルペクラに泣きついて席を用意してもらったからであり、勝手に座ったりしているわけではない。


「いやでも、私もベラも晶花宴の設営とか手伝ったし、席を用意してもらう権利はあると思うわけですよ!」

「そう、アレは確か……いつものようにアイシス様の居城に遊びに行って、気持ちよく温泉に入って、今日は夕食をご馳走になって帰ろうって計画しつつのんびりしてたら『暇なら手伝え漫才コンビ』ってこき使われた」

「たまにこのふたり、居城に住んでるんじゃないかと誤解しそうになるにゃ……」


 いつものように居城に行って、よく利用する温泉を利用して、風呂上がりの牛乳をきめつつ晶花宴の準備をしている死王配下を眺めていたら、普通にこき使われたという話であった。

 なお、クレアとベラが居城内に居たり温泉に入ったりくつろいでいたりしても、本当にいつも通りの光景なので気にする死王配下はいない。むしろ、のんびりしてるなら手が空いてるとみなしていろいろ手伝わせることもしょっちゅうである。


 確かにある意味では名誉死王配下というべきか……そのぐらいは死王陣営に馴染んでいるふたりだった。


「そういえば、話は変わるけど……アルシャちゃんのそのにゃって語尾もすっかり定着してきたよね」

「そうかにゃ? 似合ってるかにゃ?」

「似合い過ぎてて、もう前の口調だと違和感を覚えそう」

「これは、私も無事に個性を獲得できた感じかにゃ……」


 クレアとベラは、それはもうしょっちゅうアイシスの居城に来ているので、当然ながらアルシャが以前の口調だった頃から知り合いである。

 突然語尾に「にゃ」と付け始めた時は驚きはしたが、もはやいまとなってはその語尾でなければ違和感を覚えるぐらいには定着した感じではあった。


 しかしまぁ、そんな素直なやり取りをするのであれば漫才コンビなどとは呼ばれていない。クレアはアルシャを見て軽く指を左右に振りながら告げる。


「チッチッチ……甘いね、アルシャちゃん。個性とは、いわば魅力です! 語尾だけでは足りない、あまりにも足りないよ……これぞっ、私の魅力だって強力なものが無いと認めるわけにはいかないよ」

「……仕方ないにゃ、なら最近身につけた技を使うかにゃ」

「……なっ……なん……だとっ……まだ、なにかあるというのか……」


 打てば響くというのだろうか、アルシャの言葉にまだ詳細を聞いていないにも関わらず大げさに戦慄したように恐れおののくクレアからは生来のノリの良さが伝わってきた。


「アルシャ……まさか、アレを……」

「そうにゃ、カイト様との話を参考に編み出した。魔獣型魔族である私だからこそできる最強の技にゃ! この技にはコルネも抗えなかったにゃ!」

「ん。アレは無理……あまりにも強すぎる」

「は、伯爵級のコルネちゃんが抗えない技っ……い、いつの間に、そんな凄い技を……」


 アルシャは男爵級高位魔族であり、コルネは伯爵級高位魔族……その力の差は絶対的とすら言えるほどであり、本来であればアルシャがコルネに敵うはずがない。

 だがアルシャだけがいうのではなく、コルネまで「あまりにも強すぎる」と称する技、それがいったいどんなものなのかクレアとベラは息を飲んでアルシャを見る。

 そんな視線の先でアルシャはグッと手に力を込めて、両腕だけを魔獣としての姿に変えた。


「これは、部分的な魔獣変化……確かに、小回りとか応用の幅は効きそうだけど、舐めて貰っちゃ困るよ子猫ちゃん。私もクレアも子爵級高位魔族その程度の小細工で……」

「そうそう、さらに私たちは防御力に優れた精霊族、その守りはまさに鉄壁! 打ち破ることなんて……」


 どこか余裕を見せつつ告げるベラとクレアに対して、アルシャはニヤリと笑みを浮かべた後で猫の腕を伸ばす。距離的に先にその手に触れたのはクレアであり、次いでベラが手に振れ、両者ともに驚愕の表情を浮かべる。


「う、うわぁぁぁぁ!? こ、これはっ……ぷ、ぷにっぷにの肉球が……こっ、こんな、こんな誘惑で私が――ああ駄目、無理! ぷにぷにしてる、もの凄くぷにぷにしてるぅぅぅ!?」

「勝てない! こんなの、子爵級でも勝てない!? 柔らかいし、気持ちいい……誘惑に負けちゃうぅぅぅ!?」


 それは、先日アイシスの居城を訪れていた快人と行った「猫の魅力とは」という内容の会話を参考に作り上げた恐るべき攻撃だった。アルシャの魔獣としての姿は3mを越える猫の姿であり、部分的に魔獣の姿に変わった腕はかなりのサイズであり、当然ながらそこにある肉球のサイズも大きい。

 微かな温もりを伴った程よい弾力の肉球の誘惑は凄まじく、実験として最初にこれを喰らったコルネはしばし一心不乱に肉球をぷにぷにと押し続けていたというほどに恐るべき攻撃だった。


「これぞ私の新技、ビック肉球スペシャルにゃ!」

「ぐふぁっ……ま、負けた……でも、負けて嬉しいです。ぷにぷにの感覚がたまらない」

「こ、こんなのを覚えちゃったら……また、触りたくなっちゃうじゃないか……アルシャ、恐ろしい子……」

「ん。これは本当に抗えない攻撃」


 いつの間にかコルネも加わってアルシャの肉球をぷにぷにと触っており、なんとも穏やかで平和な雰囲気であった。



~ちょっと解説~

【なぜか配下席に座っている漫才コンビ】

自称名誉死王配下ではあるが、こいつらは本当にしょっちゅう居城に居て好き勝手してるので、雑事などによく引っ張って行かれて手伝わされている。

本当に頻繁に居るので、新入りの死王配下がクレアとベラと普通に死王配下だと思っていたりというのもよくある話である。


なお、アルシャは初日にウルペクラから「しょっちゅう来る界王配下の漫才コンビ」として紹介を受けたので誤認はしていない。

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― 新着の感想 ―
界王も死王も仲良いから陣営掛け持ちでも良いよもう笑
死王配下と違和感がない界王配下妖精コンビ でも、それがアイシス陣営にいるのはなんかほっこりするし、リリウッドさんも安心しているのでは? 初めての六王祭準備でもアイシスさんとリリウッドさんは絡んでいるし…
更新お疲れ様です! アルシャさん新しい技を身につけるw 猫の魅力をしっかりと身につけた技でしたが良いな 自分もぷにぷにしてみたい内容でした! 次も楽しみに待ってます!
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