晶花宴③
晶花宴に貴賓として招かれる……特別に席が用意されるのは、主に六王、最高神、創造神、人界の王、宮間快人であり、それ以外の……例えば六王幹部等は基本的には一般参加とみなされる。
そのため六王幹部を含めたそれなりに名の知れているものが抽選に申し込んで、枠に当選して参加しているということもあり得るわけだ。
そして、その例がここにもひとつ……。
「あっ、ムジカです!」
「げぇっ!? ラ、ラズリア、なんでここに!?」
「ラズは抽選に申し込んで当たったから来たんですよ~。ティルは残念ながら外れちゃったです」
「そうか、それはおめでとう……じゃあ、さっさとどっかに行って知り合いとでも話してこい。お前は知り合いが多いからいくらでも見知った顔はいるだろ」
ニコニコと笑顔で現れたラズリアを見て、ラズリアに対して苦手意識を持つムジカは警戒するような姿勢で告げる。
さっさとどっかに行ってくれという願いを込めての言葉ではあったが、残念ながらそれがラズリアに届くことは無かった。
「でも、ラズはムジカとも話したいですよ。ムジカ、あんまり遊びに来てくれないですし……」
「行きたくないからな!? あとシャドーだ! それでも五月蠅いから、たまに行ってるだろうが……」
「もっと来てほしいですよ。あとラズもムジカのところに遊びに行きたいです」
「行かないし、来るな」
「……」
「……な、なんだ……なに手と羽根を広げてやがる……止めろ、寄るな!」
「ムジカ~!」
「来るな! 引っ付くな! は~な~れ~ろ~!!」
親愛の気持ちを態度で表すように、笑顔を浮かべたラズリアがムジカに飛びつきムジカは慌てた様子でそれを引きはがす。
なにを隠そう、ラズリアとムジカは幼馴染であり幼い頃にはよく一緒に居たのだ。しかし、ラズリアが初代妖精王となったころにムジカは旅に出て、その後は中々会う機会が少なくなっており……こうして会えた時には、よくこういう状態になる。
必死にラズリアを引きはがしたムジカは、そのままキョロキョロと視線を動かしたあと……少し離れた席に居たリゲルの元に大急ぎで移動してその背中に隠れた。
「……リ、リゲル、助けろ! ぽわぽわ妖精が、俺のクールでニヒルな情緒を破壊しに来る!?」
『……』
「ムジカ~待ってほしいですよ~」
「ひぃっ、き、来た!? リゲル!」
『やれやれであります……』
背中に張り付いて必死に助けろと言ってくるムジカを見て、どこか苦笑するような声で告げた後で、リゲルは飛んできたラズリアに声をかける。
『おぉ、これはラズさん、いらっしゃいでありますよ!』
「あっ、リゲルです」
『先日はいろいろな野菜をいただき感謝であります。小生が食べた中では、ニンジンが素晴らしい味わいでありましたね!』
「美味しく食べて貰えたなら、ラズも嬉しいですよ~……うん? ううん? リゲルは……どうやってニンジンさんを食べるですか?」
リゲルが軽快に声をかけたことでラズリアの興味がリゲルに移ったのか、そのまま雑談に移行し……リゲルの背中で、ムジカはホッと息を吐いた。
『ふふふ、小生にはいくつもの隠された機能があるであります。野菜のお礼にラズさんにもひとつ教えるであります。こちら、小生の胸部装甲は開けるようになっているのですが……ここに、サツマイモを入れるとどうなると思うでありますか?』
「ど、どうなるですかっ……」
『なんと! ホクホク、甘くて美味しい焼き芋が出来上がるであります!』
「や、焼き芋さんが!? す、すごい能力です……」
リゲルの言葉にオーバーなリアクションで心の底から驚愕したような表情を浮かべるラズリア、その様子にリゲルも満足そうに頷きつつ言葉を続ける。
『……ふふふ、今度、ぜひサツマイモを持ってきてください。美味しい焼き芋をご馳走するであります』
「ふわわ、楽しみですよ! 絶対、ぜ~ったい持って来るです!」
『お待ちしているであります。ああ、美味しいと言えば、そろそろ菓子の配膳が始まる頃でありますよ。状態保存魔法がかかってるので手を付けるまでは劣化したりする心配は無いでありますが、去年大好評だったイリさんの傑作菓子なので、是非是非早く食べてみて欲しいでありますよ』
「ラズは去年は参加していないので、それ食べたことないです。そ、そんなに、凄いんですか?」
『それはもう、とっても美味しくて、あの菓子は毎年の定番にしようという話が出るほどであります。なので、ラズさんの是非、自分の席で食べてみて欲しいであります』
実に巧みな誘導であり、ラズリアはキラキラと目を輝かせて傑作だという菓子に思考が集中していた。
「ごくっ……じゃ、じゃあ、ラズは席に戻ってそのお菓子を食べるです! あっ、ムジカ! 演奏頑張ってください! 応援してるですよ~」
「おう……まぁ、期待は裏切らねぇよ。あと、シャドーだ」
明るく笑顔で手を振って席に戻っていくラズリアを、リゲルの肩に上半身乗せるようにして顔を出したムジカが軽く手を振って見送る。
そしてラズリアが完全に席に戻ったのを見た後で、ムジカは大きく息を吐いた。
「……はぁ~助かった。今回ばかりは、素直に礼を言う」
『普通に話せばいいと思うでありますが……ラズさんの事、嫌いというわけではないのでありますよね?』
「嫌いじゃないが、苦手なんだよ……親愛と感情ってのは複雑なんだよ。好きだけど苦手だとか嫌いだけど好きみたいな感情が両立しえるってわけだ」
『……ふむ?』
定位置であるリゲルの左肩に腰を下ろし、ムジカはどこか呆れたような口調で告げる。そう言葉通り、ムジカは別にラズリアを嫌っているわけではない……苦手なのだ。
「ラズリアはいい奴だし、純粋だと思う。なんだかんだで長い付き合いの幼馴染だし、友達だとも思ってるが……アイツもティルタニアも、他の妖精たちも、どいつもこいつもぽわぽわゆるゆる、頭お花畑みたいなやつらが多くて……話してると、俺の理想のニヒルでクールな雰囲気が無理矢理ぶっ壊されるから苦手なんだよ……あと話聞かねぇし、ベタベタ引っ付いてくるし……」
『なるほど……う~ん、小生はムジさんの事は全部余すことなく大好きですし、いつも一緒に居たいと思ってるでありますから、好きだけど苦手みたいな感覚はイマイチ分からないでありますね』
「……」
『痛っ!? な、なんでいきなりはたくでありますか!? ロボ虐、ロボ虐でありますか?』
「お前が変なこと言うからだろうが!? たくっ……ほら、そろそろ演奏の準備に行くぞ」
ムジカは不意打ち気味に放たれたドストレートな好意に、思わず赤くなった顔を誤魔化すように帽子を深く被りながら告げる。
この後にある死王配下による出し物のひとつに演奏があり、ムジカはその演奏のリーダーであるため、確かにそろそろ準備を始めてもいい頃ではあった。
『おぉ、小生たちの出番でありますね! 小生の見事な楽器捌きをご覧に入れるでありますよ』
「……いや、お前は演奏しねぇだろ。というか、そもそも楽器練習してねぇだろ」
『……言われてみればそうであります。確かに、今日までまったく練習もなにもしてないであります。うん? あれ? ではなぜ、小生はこの後の演奏に名前が入ってるでありますか?』
確かにムジカの言う通り、今日までリゲルは特に演奏の練習などはしておらず、なにを演奏するかもしれらない。
ただ不思議なのは、先ほどムジカが「行くぞ」といったように、なぜか演奏メンバーの中にリゲルの名前があって参加する形になっているのだ。
「ああ、それは単純だ。演奏のリーダーは俺で、構図や音の聞こえ方的に俺を中心に見てもらいたいわけだが……俺はこの通り小柄だから、距離があると見えにくいだろ。だからほら、見えやすい目印が必要なわけだ」
『……つまるところ小生の役割は?』
「俺の椅子だな」
『これ、小生、クレーム入れても許されるでありますかね? 椅子!? 小生、椅子としてメンバー入りしてるでありますか!?』
巨大で目立つため、椅子としてメンバー入りしていると聞かされリゲルは猛然と抗議の声をあげる。これは、ロボット虐待であり、到底許されるべきではない行為であると……世界の労働者ロボたちのために、己はストライキも辞さない覚悟で抗議の声を上げるのだと、勇ましい意志を心に宿す。
「……俺の演奏を一番近くで聞けるんだから、それでいいだろ」
『それは大変に魅力的な報酬であります……それを出されてしまうと、小生はとても弱いであります』
そして、提示された報酬に速攻で決意は揺らいだ。確かに、演奏を聞くという意味ではこれ以上ない特等席であり、ムジカの演奏のファンでもあるリゲルにとっては実に魅力的な話であった。
「……あと、お前が傍に居た方が……気が楽だからな」
『うん? ムジさん、いまなんて?』
「なんでもねぇよ!」
『お前が傍に居た方がってやつ、もう一度言って欲しいであります!』
「聞こえてるじゃねぇか!!」
『もぅ、ムジさんったら、小生の事大好き――あいたたた!? 矢は、矢は止めて欲しいであります!? というか、ムジさんの弓に矢は無いのでは!?』
「因果防御できるやつには実体矢の方が効果的なんだよ!? というか、シャドーって呼べ!!」
顔を赤くして至近距離からリゲルの頭に矢を連発するムジカと、頭を押さえながらもどこか楽し気なリゲル……なんだかんだで互いに互いを想い合っているというか、仲の良さが伝わってくるような雰囲気だった。
~ちょっと解説~
【ムジカとラズリア】
幼馴染で年齢もほぼ同じ(ティルタニアは少し年下)、ムジカもラズリアも妖精の森に棲んでいた頃はよく一緒に居た。
明るく社交的で誰からも好かれるラズリアを好ましく思いつつも、ラズリアが光の存在なら自分は闇のようだと軽い劣等感を抱えていた。
抱えていたのだが……いつの間にかその感覚が中二スピリッツに昇華され、己は妖精族の中でもアウトローな影の者であり、光の道を歩むラズリアとは対極の闇の道を行くものなのだと……なんか、そんな感じに仕上がった。
別にいまも仲が悪いとかではなく、ムジカは年に一回ぐらいはラズリアの畑に足を運んでおり、なんだかんだでテンションの高いラズリアに一日付き合ったりしているし、大量の野菜をお土産に持たされて帰っているのでなんだかんだで仲はいい。
ただ、ラズリアを始めとした妖精族は皆わりとぽわぽわ緩い性格なため、一緒にいると理想のキャラが崩れるので苦手には感じている。




