晶花宴②
死の大地に存在するブルークリスタルフラワーの花畑は、魔界の絶景百選にも選ばれる場所であり、晶花宴に初めて参加した者はまずその美しさに息を飲む。
雪景色と大きな城を背景に咲き誇る青い花畑は、幻想的な雰囲気と共に参加者たちを迎える。
死王配下の案内でそれぞれ割り当てられた席に移動し終えると、順次死王陣営から提供される食事などが運ばれてくる。
酒が飲める者にはアルコール入りの、飲めないものにはノンアルコールのドリンクと美しさすら感じる料理が運ばれてくる。
分体でバーも営むイリスが考案したドリンクは、アルコール入りのカクテルもノンアルコールのジュースも、どちらもブルークリスタルフラワーを模した爽やかな青を主軸に見た目にも美しいドリンクである。
配膳が全て終わると、ウルペクラが軽く手に魔法陣を浮かべて術式を発動させる。
『あ~拡声魔法のテスト……はい。それでは、皆さんにドリンクと食事がいきわたった様なので、これより晶花宴の開会を行わせていただきます。今年の進行はアタシ、ウルペクラが務めさせていただきます』
晶花宴の進行役は毎年くじ引きで決めており、去年はポラリスが、今年はウルペクラが進行役となった。とはいえ、基本的には開会と閉会の進行を行うだけなので、あまり多くの仕事があるわけでもない。
『では、開会に先立ちまして晶花宴における注意事項などを説明させていただきます。料理とドリンクには状態保存魔法がかかっているので、時間経過で劣化することはありませんので安心して聞いてください。まず初めに、料理及び菓子の配膳がありますので、基本的には席の変更に関してはご遠慮ください。どうしても事情があり座席の変更を希望される場合は、花畑を正面に見て右の席が死王配下の席となりますので、そちらにご相談ください』
晶花宴は基本的に事前に配布されたチケットによって席は割り振られており、チケット配布の際の確認により席ごとにアルコールやノンアルコール、食べられない食材等がある場合にはそれを調整しているため、席を変更することはできない。
ただ予備席はいくつか用意してあるので、どうしても事情があり席を移動したい場合は要相談という形である。
『また、体調を崩された方などがいたら同様に死王配下までお知らせください。次に、料理及び菓子の提供の順番ですが……』
ウルペクラにより晶花宴におけるいくつかの注意事項と、全体の流れなどの説明が行われていく。基本的には食事をしながら美しい花畑を楽しむという行事ではあるが、途中で死王配下による演奏などいくつかのイベントも挟まれるため、その辺りも含めた説明を行っていく。
そして注意事項と流れの説明が終わると、いよいよ開始となる。
『では、以上で簡単な注意事項と全体の流れの説明を終わります。不明な点等があれば、死王配下までお気軽にお尋ねください。それでは、晶花宴の主催でもあり我らの王でもあるアイシス様より開催のお言葉をいただきます』
当然ではあるが、死王陣営によって開催される晶花宴の主催は王であるアイシスであり、開催の宣言も毎年アイシスによって行われる。
ウルペクラから引き継いだアイシスは席から立ち上がり、注目が集まる中で拡声魔法を使って口を開く。
『……十回目になる晶花宴……今年もまた無事に開催できて……こうして多くの人が参加してくれて……本当に嬉しい……十回目にはなるけど……毎年ここから見える景色は違って見える……思い返してみれば……百年ほど前にはまだこの死の大地には私しか住んでなくて……こんな風な光景は……想像もできなかった』
百年前、まだ快人と巡り合う前のアイシスにとって……この死の大地は一種の孤独の象徴のような場所であり、己以外の生命が一切住まない地獄のような場所だった。
それが快人と巡り合って、彼女を取り巻く環境が変化し、アイシス自身も大きく成長したことで、死の大地の光景は大きく様変わりしていた。
『……死の大地に街ができて……私たちが企画した行事にこうして大勢の人が参加してくれる……それを本当に……心から嬉しく思う……毎年景色は変わる……来年の晶花宴が似たような光景であっても……今年の……第十回目の晶花宴の景色はいましか見ることができない……だからこそ……晶花宴に参加してくれた皆にも……今日のこの景色を……楽しんでもらいたい……いつか思い返したときに……素敵な思い出だったってそう思ってもらえたら……嬉しい』
静かながら優しく響く声は、アイシスの心優しさが伝わってくるようだった。そして同時に、優しく穏やかながら圧倒的な存在感と人の目を引き付けるカリスマのような雰囲気は……まさしく彼女が魔界の頂点の一角であり、王という呼び名に相応しい存在であるということを表していた。
『……改めて……皆……今日は来てくれてありがとう……最後まで楽しんでいってほしい……それじゃあ……これより晶花宴を……開催する』
アイシスの宣言と共に会場内には大きな拍手が巻き起こる。それに嬉しそうに微笑みを浮かべた後でアイシスは席に座り、再び進行のウルペクラが声を上げる。
『それでは、皆さんブルークリスタルフラワーの花畑と食事をお楽しみください。また、晶花宴には我々死王配下も参加させていただきますし、皆さんが居るお席の近くにお話に伺うこともありますので、その時は気軽に会話してください』
こうして、第十回……死王陣営による晶花宴がスタートした。
~ちょっと解説~
【アイシスの人気】
かつては死の象徴として恐れられていたアイシスだが、百年経った今は世界的に見てもかなり人気があり、六王の中でも極めて温厚で優しいと知られている。
不思議なもので、アイシスが死の魔力を完全にコントロールできるようになった直後から「噂は尾ひれがついたもの」だとか「実際に会ってみれば優しさが分かる」とか「いろいろ不幸な誤解をされていただけ」とか、好意的な噂が爆発的に広がっていき、短い年月でアイシスの評価は逆転することになった。
なお、余談ではあるがそのことに関してアイシスが「……ありがとう」と幻王にお礼を言って、幻王が「はて? なんのことでしょう?」と首をかしげている光景を、とある特異点が目撃していたとかなんとか……。




