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むつら☆ぼし  作者: 灯台


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晶花宴①



 魔界の最北端にある死の大地と呼ばれる場所……死王アイシス・レムナントと彼女を慕う配下が暮らすその地で年に一回行われる行事が晶花宴である。

 まだ歴史は浅く十回ほどしか開催されていないのだが、非常に人気の行事であり一般参加者の枠はかなりの倍率の抽選となっており参加できる者は限られる。


 そもそも死の大地は極寒の地であり、アイシスの死の魔力によって魔物こそ存在していないものの環境は過酷と言え、力のある者ならいざ知らず一般人がアイシスの居城やブルークリスタルフラワーの花畑がある死の大地の奥地までたどり着くのは本来かなり大変と言える。

 だが、この日は主催である死王陣営の者たちが送迎を行ってくれる上に、会場となるブルークリスタルフラワーの花畑には永続型の結界魔法が展開されているため気温なども問題ない。


 魔界の絶景百選にも選ばれているブルークリスタルフラワーの花畑はもちろんだが、アイシスの居城を一般人が見ることができる貴重な機会でもあり、ブルークリスタルフラワーの花畑の奥に見える城もという構図は絵や写真などでもかなり人気である。


 そんな晶花宴の当日、順次案内が行われている一般参加者とは別に来賓……死王陣営から招待を受けて参加している者もおり、そちらは立場の高い存在や死王陣営にとって重要な人物である場合が多く、案内は死王配下の中でも幹部と呼ばれる者や王であるアイシス自身が行っている。

 そんな来賓のひとり、魔界の頂点である六王の一角にして……事実上の魔界のトップと言っても過言ではない存在、冥王クロムエイナが会場となる死の大地にやってきた。


「クロムエイナ様、参加ありがとうございます」

「あ、こんにちは、イリスちゃん。イリスちゃんが案内してくれるのかな?」

「ええ、我が席の方にご案内させていただきます」


 現在王であるアイシスは夫である快人を迎えに行っているため、クロムエイナの案内は配下筆頭であるイリスが行っていた。


「晶花宴は毎年いろいろ凝ってて、ボクも凄く楽しみにしてるよ」

「そう言っていただけると、ありがたいです。今年もお楽しみいただければ幸いです」

「イリスちゃんは調理担当だっけ? 去年のお菓子も凄かったし、ボクも含め参加者の期待もあるから結構大変だよね」

「ええ、とはいえ既に調理などは完了しているので、我も含めて調理班は当日は比較的余裕がありますね」


 晶花宴はその美しい景色もそうだが、死王陣営より提供される茶菓子や酒のつまみとなる料理なども非常に評判がよかった。

 特に去年に出したブルークリスタルフラワーを模した菓子は好評であり、雑誌などでも特集が組まれた大成功といっていい品だった。


「去年好評だった菓子の他に、食用に調整したブルークリスタルフラワーを用いた一品料理なども用意させていただいております」

「イリスちゃんの料理の腕は超一流だし、いまから楽しみだよ」


 人当たりのいいクロムエイナは、明るい笑顔でイリスと話しており穏やかな人柄が伝わってくるようだった。実際六王の中でも非常に温厚で友好的と言われるクロムエイナは、世界的にも人気が高く多くの者たちに慕われている。

 かつて行われたクロムエイナと快人の結婚式はその人気も相まって凄まじい規模になった……まぁ、その規模になった半分以上の要因は快人の方にもあるのだが……。


 と、そんな風に穏やかに話していると……クロムエイナが優し気な笑顔を浮かべたままで口を開く。


「……でもさ、あのお菓子も凄く美味しかったけど……ボクは、ブルークリスタルフラワーにはベビーカステラも合うと思うんだよ。ベビーカステラを食べながら綺麗なブルークリスタルフラワーの花畑を見るってのも、本当にいいと思うんだよね」


 これもまた周知の事実ではあるが、クロムエイナはベビーカステラを愛しており「ベビーカステラには無限の可能性がある」と公言しているぐらいには、ベビーカステラ好きである。

 一部彼女と親しい人には「ベビーカステラの悪魔」だとか「ベビーカステラ狂い」だとか称されるほどの拘りを持っているというか……とにかくなにかにつけてベビーカステラに結びつけようとするところがあった。


「だからボクは、ベビーカステラも晶花宴で出すべきじゃないかなぁって思うんだよね。あっ、もちろんベビーカステラに関して分からないこととか、工夫したいことがあればボクが相談に乗るし……」


 とうぜん晶花宴の花畑を見ながら料理や菓子を楽しむというコンセプトと、ベビーカステラを結びつけない訳も無く、さりげなく……さりげない? さりげないという言葉を魔界の彼方に投げ捨てたかのようなドストレードのアピールで晶花宴にベビーカステラを勧めていた。


 単純に好物を布教しているといえば可愛らしく聞こえるかもしれないが、そもそもクロムエイナの立場が非常に高く、世間的な人気も凄まじいためその発言力も相応のものがある。

 実際トリニィアにおいては、クロムエイナがこよなく愛しているということにも後押しされ、祭りなどの屋台において最もポピュラーなのはベビーカステラと言えるぐらいにはベビーカステラは人気の菓子であり、世界のあちこちにベビーカステラ専門店なども存在する。


 そもそも正面からクロムエイナの提案を否定できる者も限られるため、なかなか面倒ともいえる提案ではあるのだが……イリスの表情は穏やかな微笑みのままである。

 というのも、この提案……実に十度目である。このクロムエイナ、晶花宴には皆勤賞で参加しているのだが、毎年毎年……去年の記憶を失っているのかと思うほど同じような言い回しでベビーカステラをアピールしており、正直毎年恒例といっていいやりとりだった。

 故にどう返せばいいかも、既にテンプレートのような形式で存在している。


「なるほど、確かにベビーカステラは美味しいですしブルークリスタルフラワーにも合いますね。しかし、やはりベビーカステラと言うとクロムエイナ様を想像する者が多いので……晶花宴はアイシス様、ひいては死王陣営の主催であるとイメージしやすいように、ベビーカステラはあえて省いています」

「あ~そっか、確かに陣営上げての行事だし、そういうイメージは大事だよね」

「ええ、なのでブルークリスタルフラワーとベビーカステラの組み合わせはプラーベートで是非……一報いただけましたら、花畑を見れる良い席を用意させていただきますので、ミヤマカイトと一緒に楽しんだりするのも良いのではないでしょうか?」

「それはいいね! 丁度いくつか新作の案も思いついたし……また晶花宴が終わった後で、カイトくんを誘って利用させてもらおうかな」

「ええ、是非」


 といった感じにベビーカステラの美味しさやブルークリスタフフラワーに合うというのは否定せず、あくまで死王陣営としてのイメージを重視しているため採用を控えていると伝える。

 その上で妥協案を提示しつつ……最終的に夫である快人に放り投げるという、実にスマートな返してクロムエイナの気分を損なわずに納得させることができる。


 ……なお、対クロムエイナ用のテンプレートもとい『ベビハラ(ベビーカステラハラスメント)対応マニュアル』を作成したのは……アリスである。




~ちょっと解説~

【ベビーカステラの悪魔】

例によって百年後も無限の可能性を追い求めているベビーカステラ大好きな冥王。だって仕方ないよね、無限の可能性だから……そう、無限なら仕方ない。

だが、ベビハラはほどほどに……。


なお、現在も新作は高頻度で作っており、かつては快人に『五つの絶望』と称された大失敗ベビーカステラは、現在『十五の地獄』と規模を拡大している。

ただ百年で十しか増えてないと考えると、意外と上手いこと大失敗は少な目になっているのか……或いは数多の失敗を乗り越え、『特定の誰かの胃が鍛えられすぎた結果』よっぽどでない限り大失敗とみなされなくなったのかは謎である。


あえて付け加えるなら、直近五十年で大失敗に分類されたのはひとつだけであり、それ以外の失敗作に関しては快人曰く「まぁ、多少固定ダメージある程度で数日寝込むとかのレベルじゃないし……」とのことである。

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― 新着の感想 ―
特異点さんはどうせ、大量のバフで固定ダメージすら軽減されてるだろうから、バフ無しだと軽く一般人なら昇天できるレベルのダメージかも。 というかもう毒だねそれ。猛毒だね。 なんてもん食わせてるんだ(n回目…
食べて数日寝込むベビーカステラってなんだよww
晶花宴の話なのに、ベビーカステラに全部持っていかれそうな勢いなのは、さすがベビーカステラの悪魔。 カイトも固定ダメージ程度じゃ失敗作とはみなさなくなったのか。百年って長いね。
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