晶花宴に関しての話し合い
死王アイシス・レムナントの居城にあるひときわ大きな大会議室には、死王配下たちが集結していた。総数にして四十八と少数ながらいずれも爵位級高位魔族である魔界屈指の実力者たち……そして上座には、魔界の頂点の一角たるアイシスが座し、まさに死王陣営全員集結といっていい状態だった。
どこか重々しさを感じる真剣な空気の中で、死王配下幹部のひとりウルペクラが拡声魔法具を手に持つ。
『……全員集まったっすね。では、これより……三日後に迫った晶花宴の最終打ち合わせを開催するっす! 司会進行はいつも通りアタシが務めるっすけど、途中の議題によってはそれぞれの代表者に交代もするっす。そして、現在皆の前にあるのは……アイシス様が買ってきてくださったおやつなので、全員アイシス様に心から感謝して食べるっす』
なお、重々しい空気を出してはいるが、全員の前にはアイシスが買ってきた菓子などが並んでおり、紅茶も用意されているため……正直雰囲気作りで重々しい感じにしているだけで、全然重い話し合いでもなく、単におやつを食べながら三日後の行事の確認をしようという集まりであった。
『基本的にすべての準備は完了しているっすから、今日の意見によって晶花宴の内容が変更になったりすることは無いっす。けど、使えるアイディアとかがあれば、来年以降の晶花宴で使う可能性もあるので、確認のみならず思いついた改善点とか、次回以降加えたい要素もドンドン発言してくれて大丈夫っす』
晶花宴は死王配下が中心となって行っている行事であり、今後も毎年の定番にしていく予定であるため、今回の内容だけでなく次回以降に向けた話し合いも含まれていた。
『とはいっても、いきなり意見を出すのは気まずいとか思うかもっすから、ハードル下げとくっす……えっと、今回は誰にするっすかね。う~ん……じゃ、リゲル、先陣切ってなんか意見よろしくっす』
『おっと、今年は小生でありますか……ふふふ、いいでしょう。小生の素晴らしいアイディアを披露するであります!』
『……アイディアってことは来年以降の追加要素を言う感じっすかね。これは、いい感じにハードルが下がりそうっすね』
『そこはかとなく馬鹿にされてる気分であります』
毎年恒例ではあるのだが、最初に誰かウルペクラが指名して発言させる。内容はなんでもよく今回の晶花宴に関しての確認や報告でも、次回以降に加えたい要素の提案でもOKで、話し合いの流れを作る役割と言える。
そして今回の最初の発言者に選ばれたリゲルは、どこか自信満々な様子で宣言する。
『やはり、派手にドカーンと巨大ロボを展示するべきだと思うであります! 理由はカッコいいからであります!』
『いや、晶花宴は落ち着いた雰囲気の行事っすから合わねぇっすし、そもそも晶花宴にロボ関係ねぇっす。完全に自分の趣味で提案してるじゃねぇっすか……頭シリウスっすか?』
「おい、私の名前を馬鹿という意味合いで使うんじゃない」
堂々と己の趣向全開の意見を出したリゲルにウルペクラがツッコミを入れて、会議室内に笑い声が響く。意見としては論外ではあるが、場の雰囲気作りとしては上手くいったと言えるだろう。
ただウルペクラに馬鹿の例えの様に名前を出されたシリウスは文句を言っていたが、そんなシリウスに対して隣の席に座っていたラサルが煽るように告げる。
「いヤ、実に適確な表現だったナ。単純に知性が足りないという意味の馬鹿ではなク、思考が単調極まりなかったリ、頭まで筋肉で出来ているかのように考え無しの発言をする馬鹿という意味合いモ、たった一言で正確に表現できていて素晴らしいナ」
「……なら、頭ラサルなら脳みそが腐って異臭を放っているという意味合いになるのか?」
「……ハ?」
「……あ?」
「貴様ら、ここで喧嘩を始めたら問答無用で吹き飛ばすからな」
当然ラサルが煽ればシリウスも煽り返し、いつものように両者ともに睨み合う形になるが……もちろん会議室でいつもの喧嘩を始められたらたまらないので、イリスが警告の言葉を告げる。
さすがのシリウスとラサルも、アイシスも居るこの場で戦いを始めたりはしないようで、しばし睨み合った後で示し合わせたように同じタイミングで視線を外した。
『さて、じゃあ、空気も温まったところで意見とか報告とかある人は挙手をお願いするっす。発言は机に置いている拡声魔法具を使うか、拡声魔法を使って欲しいっす』
『はいにゃ!』
『はい、アルシャ』
話し合いの空気が出来上がったところで意見を求めると、最初に元気よく手を上げたのはアルシャだった。
『私は今回一般参加者の席誘導担当にゃ。それで質問にゃ……席の案内は転移地点から遠い席から順に案内する形でいいのかにゃ?』
『基本的にはその形で問題ないっす。けど、席と席の感覚は余裕あるっすし、元々人数も絞ってるっすから遠い席から案内しないとスムーズに移動できなくなるとかそういうことは無いっすから、意識し過ぎる必要はねぇっす。アルシャが案内しやすいと思ったら、近い席を先に誘導しても大丈夫っす』
『了解にゃ!』
アルシャの質問はウルペクラが把握している範囲で解答可能な内容だったのでそのまま答える。仮にこれが料理や設備に関しての質問であれば、内容によっては担当の配下に解答を交代する場合もある。
そしてアルシャの質問がひと段落したタイミングで、次に手を上げたのはポラリスだった。
『私から、というよりは設備担当の意見を代表して伝える形になるのだが、今回異世界の文化を参考に試験的に座敷席を八席分用意してある。これは一般参加者用の席ではなく、我々死王配下が利用する席に設置していて、使用感に関しての意見が欲しいという感じだね』
『特に誰が座るとかってのは決めてない感じっすか?』
『ああ、興味を持った者が座る形で大丈夫だよ。通常の椅子とは座り心地も異なるし、飲食等で気になる点などを教えてもらいたい。評判が良いようなら来年以降に一般席の一部を座敷席にするなども検討するので、利用した者は私か設備担当に感想を伝えて貰えると助かるよ』
晶花宴では、ある程度得意分野によってチーム分けをして対応している。席や結界等の設備を担当する配下、食材の調達や料理を担当する配下、食器や小物類を制作する配下、参加者の案内及び警護を担当する配下、花畑の管理や調整を行う配下、全体の統括や調整、参加者の抽選や広報を行う配下という形で現在は六チームに分かれており、それぞれの代表を幹部である六連星が務めている。
設備担当の代表がポラリス、調理担当の代表をイリス、制作担当の代表をラサル、警護担当の代表をシリウス、景観担当の代表をスピカ、統括担当の代表をウルペクラが担当しており、今回のポラリスのようにチーム全体の意見を代表である幹部が伝える場合もある。
『ちょお、ウチからもええかな?』
『はいはい、どうぞっす、スピカ』
『前々から皆に協力してもろうて、第二の花畑候補の場所を選定してたんやけど、場所も決まって調査も終わったから来年には花畑をもう一個増やせると思うわ~。けど、どのぐらいの広さにするとか、晶花宴で何席ぐらい用意するとか、その辺はウチだけでは決めれんから、また皆の意見が欲しいな~て』
『なるほど……それに関しては完全に別枠で時間を作ったほうがよさそうっすね。今年の晶花宴が終わった後で、改めて第二の花畑について話し合う場を用意するっす』
『はいな~よろしゅう』
以前から候補地は選定しており、現地の調査等も完了したためスピカの能力でブルークリスタルフラワーの花畑を作ることはできる。
ただし、来年以降の晶花宴に利用することを考えると席の位置等も考慮して作る必要があるため、広く意見を求めたいようだった。
重要な内容であるため今回話し合うのではなく、別で話し合う機会を作るとウルペクラが告げて、スピカは納得した様子で頷く。
ここまでである程度話の流れはできており、元々死王配下同士は仲がいいため、一度話し合いが始まれば挙手して全体に意見を言うもの以外にもあちこちで晶花宴に関しての話し合いが始まっていた。
「当日に追加で食材が必要になった場合は……」
「第七倉庫に用意してるよ~ボクに声をかけて貰えれば倉庫と空間を繋ぐよ~」
「花火とかって無理かな?」
「結界を調整すれば行けるとは思うけど……どうだろ? 締めにあったりすればそれはそれで有りか?」
「当日の天候は晴れにするんでしょ? 雪降ったほうが綺麗じゃない?」
「程度によるだろ、少し降るぐらいなら綺麗かもしれないが……」
「警護担当は数十分というか余り気味でしょ? 私、カイト様のとこ行ってもいい?」
「いいわけないだろ、馬鹿」
ワイワイと賑やかな雰囲気で話し合いが行われており、アイシスはそれを微笑ましそうに眺めつつ時折イリスやウルペクラと話をしている。
まさに配下全員で取り組んでいる行事という感じであり、いつの間にかそんな恒例行事が定着したことに嬉しさを感じていた。
そしてある程度話し合いが進んだところで、アイシスが口を開く。
「……皆……凄くいろいろ考えてくれてて……私も楽しみ……だけど……運営の方に力を入れるだけじゃなくて……皆もしっかり楽しんでほしい」
『はい!』
アイシスの言葉に配下たちが力強く返事をする。騒がしくも全体的に温かく楽し気な雰囲気であり、皆で一丸となっている感じが心地よく、アイシスはさらに笑みを深めて幸せそうな表情を浮かべていた。
~ちょっと解説~
【配下たち】
総数48人であるため、まだまだ登場していない配下がたくさんいる。主に時空間魔法を担当し、普段は影に潜って行動しているダウナー系ボクっ子やら、アンデットの癖に光属性を得意とする骸骨騎士やら、特異点が異世界から連れてきた妙な来歴の生物やら、個性豊かな面々が沢山いる。




