捕獲される子狐
死王アイシスの居城の廊下を歩いていたウルペクラの前方から、同じ死王配下であるコルネが歩いてくる。どうやらウルペクラに用事があるらしく、手に持っていた紙の束を軽く上げて合図をして、それを見たウルペクラは足を止める。
「ウルペクラ、晶花宴の参加チケット、当選者に配達完了」
「おっ、了解っす。これでほぼ準備は完了っすし、あとは開催を待つばかりっすね」
「ん。私も楽しみ」
「いまのところ死の大地で開催するイベントで一番大きな行事っすからね。できれば他にも祭りとか企画したいっすけど、アレもコレもって手を出しすぎるのは失敗の元っすし、まずは晶花宴を毎年恒例の行事としてしっかり定着させてからっすね」
晶花宴はまだ歴史が浅く、現在は死の大地……もとい死王陣営が主催で行う行事として定着させるのを重視しており、他にもクリスタルシティなどで祭りなども行いたいところではあるのだが、その辺りは慎重に考えて計画を立てていた。
「今回の貴賓は、カイト様、クロムエイナ様、リリウッド様だったよね?」
「そうっすね。一般客にちょいちょい有名どころもいますけど、六王様とか最高神様クラスだとその三方ですね」
「……アリス様が来ないのは少し残念」
「……いや、あの人はカイト様とセットみたいなもんなんで、居るっすし……食い意地はってるんで、気が付いたら勝手に食べると思うっす」
コルネはかつていろいろお世話になったこともあり、アリスのことを純粋に慕っており、アリスが参加していないのを残念がっていた。
しかし、アリスは基本的に快人の護衛として姿を消してすぐ近くにいるので、ある意味では参加していると言っても過言ではない。
ウルペクラがどこか呆れたような表情で告げると、その直後にウルペクラの後方からどこか楽し気な声が聞こえてきた。
「ほ~う? 誰の食い意地が、なんですって?」
「うひっ!? ……アリス様、音も気配も無く背後に現れるのは止めてくれねぇっすか、マジで怖いっす」
「あっ、アリス様」
幻王であるアリスは認識阻害魔法や気配遮断魔法に関しては世界でも屈指の使い手であり、公爵級高位魔族であるウルペクラですらまったく気付けずに背後を取られてしまう。
常時展開している探知術式などをすり抜けて、いきなり背後に現れるのは心臓に悪く、それ自体が軽口を叩いたウルペクラへの軽いおしおきも兼ねていると理解しつつも文句を言っていた。
コルネはアリスが現れたことでパァッと表情を明るくしており、嬉しそうな様子だった。
「こんにちは、アリス様」
「こんにちは、コルネさん。元気そうでなによりですよ」
「はい。楽しくやってます。アリス様に会えて嬉しいです」
嬉しそうに挨拶をしてくるコルネを見て、アリス苦笑を浮かべつつ口を開く。
「……本当に、コルネさんはいい子ですし、死王配下は全体的に個性は強くとも性格のいい子ばかりなので羨ましいっすね。なんでうちは変態ばっかりなんですかねぇ」
「……王の性悪度の差じゃねぇっすか?」
「……」
「……」
ウルペクラの言葉を聞いて、アリスはいっそ後光でも差しているのではと思えるような笑顔を浮かべて無言でウルペクラの方を向き、ウルペクラは「やばっ」と言いたげな顔で額に汗を流す。
「ん~もぅ、子狐ちゃんは、よっぽど私に遊んでもらいたいみたいですね」
「……あ~いや、いまのはつい口が滑ったというか、言葉の綾的な感じで……聞かなかったことにとか……駄目っすか?」
「駄目っす」
ウルペクラの判断は早かった。アリスの言葉を聞くやいなや、即座に身を翻し自身の最高速度でその場から逃走しようとして……直後に縛り上げられて宙に吊り下げられていた。
「私から逃げようなんてのは十万年早いです」
「あ、アリス様、は、話せば分かるっす……こ、ここは話し合いでかいけ――むぎゅっ!?」
「敬意が無いのは、この口ですか? あ~ん?」
「いひゃい、いひゃいっふ……ほふをひっはらないで、ほしいっふ……いひゃひゃ!?」
逃走を試みるもあえなく捕まり、ウルペクラはアリスに両頬をを摘ままれて引っ張られる。アイシスや快人のような極めて特別な相手を除けば、仲の良い相手は隙あらば煽るのがウルペクラであり、それはアリスに対しても適応される。
ただし、さしものウルペクラもアリスが相手では全く歯が立たないため、いつも大体即座に捕まっていまと同じようにおしおきをされている。
まぁ、アリスの方もウルペクラの煽りは一種のじゃれつきのようなものとは理解しているため、おしおきと言っても今回の様に頬を引っ張ったり、くすぐったりという感じの軽いものではある。
「……うぅ、滅茶苦茶引っ張られたっす……アタシのモチモチほっぺが垂れたらどうするんすか……」
「ウルペクラとアリス様は仲良し」
「まぁ、子狐はすぐじゃれてきますからね。私から見れば可愛いもんですよ」
「……というか、いい加減解いてくれないっすか? 全然切れないんすけど、この魔力糸!?」
どこか微笑まし気な空気の中で話すコルネとアリスに対し、魔力糸でぐるぐる巻きにされてみのむしの様に逆さに吊り下げられているウルペクラが抗議の声をあげる。
「それぐらいの魔力拘束は瞬時に抜けれるようにならないと駄目ですよ。まだまだ鍛錬不足っすね。ほれほれ、早く脱出しないと突っついて揺らしますよ」
「……今度カイト様に、アリス様にイジメられたって泣き付いてやるっす」
「止めてくれません? 私に勝てないからって、私が勝てない相手に泣きつくの……カイトさん、子供とかウルペクラさんには激甘ですから、マジで私がピコハンでぶん殴られるじゃねぇっすか……」
そんな風に話しつつもどこか緩い雰囲気であり、コルネも含めで三人ともどこか楽し気に笑っていた。
~ちょっと解説~
【子狐と超絶美少女】
アリス相手でももちろん隙あらば煽るし、ちょっかいもかける。しかし、さすがにアリスには敵わないためいつもすぐに捕まってる。
実際のところウルペクラ的にはアリスが好きでじゃれているだけであり、アリスの方もそれが分かっているので軽いおしおきで許している。
冗談で言っているだけなので実行はしないが、ウルペクラが泣き付いて快人を味方に付けるパターンは唯一のアリス敗色濃厚パターンである。




