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むつら☆ぼし  作者: 灯台


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閑話・届いた言葉



 魔界の辺境の山奥、その山にひとりで住むコルネは亡き育ての親の墓の前で祈りを捧げていた。約束の五千年の鍛錬が終わり、コルネは今日この山を出て外に出るつもりだった。

 そして、育ての親である老婆の恩人を探すために世界を旅しようと、いつもより長く老婆の墓に祈りを捧げしばしの別れの挨拶をしていた。


 そして挨拶を終えて立ち上がったコルネの前に、二千年ぶりに見覚えのある存在が姿を現した。


「……ノーフェイス様」

「久しぶりですね。今日が出発の日だと思って、顔を見に来ましたよ」


 そう告げるとノーフェイスはおもむろに被っていたフードを外す。目元だけを隠す仮面を付けた長い金髪の少女……本来のその姿を見て、コルネは驚いたような表情を浮かべる。


「ノーフェイス様の顔、初めて見ました……気のせいだったら、ごめんなさい。なんだか、前より雰囲気が柔らかくなったような……」

「……そうですね。まぁ、私にもいろいろあって……新しい在り方なんてのも見つけちゃった感じなんですよね。とりあえずいまは、アリスって名乗ってます」

「アリス様……よくは分らないですけど、アリス様にまた会えて嬉しいです」

「相変わらずいい子ですね。本当にウチに適性が無いのが残念……でもまぁ、あの人の陣営は貴女にピッタリ合うでしょうし、丁度いいですね」

「うん?」


 コルネの言葉にどこか柔らかな微笑みを浮かべた後で、アリスは独り言を呟く。以前に伯爵級に昇格したことを伝達しに来た時とは状況は大きく変わっていた。

 世界には特異点が現れ、彼女が詰んでいると感じていた事態をいくつもアッサリとひっくり返してしまい……彼女自身も救われ、アリスという新しい名前を得て以前とは在り方を変えていた。


 だからこそ、アリスは今日コルネの背中を押しに来たのだ。いまならば、かつてとは違い……彼女の背負った思いは、良い結果に繋がるだろうと確信があったから。


「まぁ、それは置いておいて、私が今日ここに来たのはひとつアドバイスをするためです。コルネさんは、これから初めて外の世界に出るわけですし、完全にネタバレでは新鮮さも薄れて面白くないでしょうから全部は教えません。でも、目指すべき場所は教えておこうと思いましてね」

「目指すべき、場所?」

「……魔界の最北端、死の大地と呼ばれる場所を目指しなさい。そこに、貴女が探している相手がいます」

「ッ!?」


 アリスの言葉にコルネは大きく目を見開く。かつてアリスが言った「私はなんでも知っている」という言葉をコルネは疑っていない。アリスは己が老婆の恩人を探そうとしていることも知った上で、その相手がどこにいるかを教えてくれているのだと察した。


「ついでに地図も渡しておきますよ。いまいる場所と最寄りの街に印をしておいたので、最初はそこを目指すといいでしょう。そこからどうするから、貴女自身で決めてください」

「……ありがとうございます、アリス様」


 アリスから地図を受け取り、コルネは深く頭を下げて礼の言葉を告げる。そして脇に置いていた戦斧……ベオウルフを背に担ぐ。


「アリス様にはいっぱい助けてもらって、感謝しています。またいつか会ってお礼がしたいです……また、会えますか?」

「たぶん、私の読み通りに事が進めば、また会えると思いますよ」

「じゃあ、安心です」


 アリスの言葉に嬉しそうに微笑んだあと、コルネはもう一度しっかりアリスにお礼を言って初めての外の世界に向けて歩き出していった。

 その背が見えなくなるまで見送った後で……アリスは、大きなため息を吐く。


「……はぁ、な~んで、ああいう性格のいい子はウチに適性ないんすかねぇ。私も変態どもばっかじゃなくて、ああいう素直ないい子の配下が欲しいもんですよ」


 どこか呆れた様子でそう呟いた後、軽く首を振って気を取り直し、煙のように姿を消した。



****



 コルネは山の外にこそ出たことは無かったが、育ての親である老婆からある程度の知識は教わっている。辺境の山に訪れる者はほぼ居ないとはいえ、アリスのようにごくごく稀にやってくる者もいて、そういった相手からも多少の知識は得ている。


 そのため、アリスから貰った地図を頼りに無事に街に辿り着くことができ……コルネはその街の片隅で頭を押さえていた。


(……ひ、人が多すぎて……目が回る。あっちも、こっちも……目から入ってくる情報が多すぎる)


 コルネにとっては初めて訪れる街は、完全に未知の世界といっていい様相であり、ともかく人も物もあまりにも多すぎた。

 五千年以上山で外に出ることなく生活していたコルネにとって、文字通り未知の情報を絶え間なく脳内に叩き込まれているようなものであり、早々に人の多さに酔っていた。


(お婆ちゃん、外の世界は凄い。とにかくものが多すぎる)


 とはいえいつまでも初めての街に翻弄されているわけにもいかないと、コルネは一度頭を振って気持ちをリセットして真剣な表情で街の中を見る。


(……お婆ちゃんが言ってた。外の世界ではお金ってものが必要になる。お金は仕事をするか、物を売るかすれば手に入れることができて、珍しい品をお金に換えることができる。千年前に山に迷い込んだ人が、あの山の奥にある鉱石はそれなりに価値のあるものだって教えてくれたから、いくつか持ってきた。これを売ればお金を手に入れられる……はず?)


 金銭を得る必要があるという知識はある。金銭を得るための方法も理解している。それならば行動の指針は立てられるはずだったが……コルネは街を見ながらダラダラと汗を流し始めた。


(……品物はお店でお金に換える……お店……って、どれ?)


 そう、知識はあった。だが、彼女はそもそも店というものを知識でしか知らない。物を売り買いする場所だとは分かっているのだが、どれがソレに該当するのかが分からなかった。

 分からなければ質問をするというのも手なのだが、ともかく街を行き来する人が多すぎて、いったい誰に質問すればいいのかも分からず困惑していた。


「……大丈夫? ……凄い汗だけど……なにか困ってる?」

「え? あっ……こ、困ってます。山の外に出るのが初めてで――ッ!?」


 優しい声が聞こえてきて、コルネは素直に困っていると告げながら声をかけてくれた相手の方を見て大きく目を見開いた。

 そこに居たのは、青白い光を纏った白い髪の女性であり、伯爵級に到達したコルネから見てもとてつもない力を感じた。


(す、凄い魔力、アリス様みたいに私よりずっと強い。ううん、それより、この人……白い髪、青白い光、もの凄い力、死の気配……は、ちょっとよく分からない。そして、もの凄く寂しそうな赤い目を……して……ない。温かくて幸せそうな目……じゃあ、違う人か)


 一瞬、もしかして自分が探している老婆の恩人かと思ったコルネだったが、一番特徴的だと言っていた目が聞いていた話と合致しないのと、いくらなんでも山を出てすぐに見つかるはずもないという思いから、特徴が似ているだけの別人と結論付けた。


 なお……完全に初手から正解を引いている。目の前にいるのは、コルネが探している相手こと死王アイシスであり、たまたまこの街に用事があって来ていたのだった。


「……それは不安だと思う……なにか分からないことがあれば……遠慮なく聞いて……私が教えられることなら……教える」

「えっと、お金を手に入れるためにこの鉱石を売りたいんですが、どこで売ればいいのか分からないです」

「……その鉱石を……」


 コルネが持つ鉱石を見てアイシスは難しい表情を浮かべた。


「……その鉱石は……千年ぐらい前までは凄く高価だったんだけど……いまは似たような性質でもっと簡単に手に入るものがあって……もうほとんど使われてないから……この街で売るのは難しいと思う……もっと大きい街なら……売れるかもしれないけど……」

「そ、そうなんですか……」


 コルネが持っている鉱石は、かつてはいくつかの鉱石を混ぜ合わせて合金を作る際の材料として重宝されていたのだが、いまは代替えとなる品が見つかっており価値は大きく下がっていた。

 少なくともいまいる街で買い取ってもらうのは難しく、大きめの街に行ったとしても二束三文にしかならないような品ではあった。

 その事実にがっくりと肩を落とすコルネを見て、アイシスは少し考えるような表情を浮かべた。


「……お金が必要なの?」

「えっと、初めて山の外に出て、行こうと思ってる場所があるんですが……外の世界ではお金が必要だってお婆ちゃんに教わったので、まずはお金を用意しようと……」

「……なるほど……じゃあ……もしよければ……私からの仕事を受けてもらえないかな?」

「仕事ですか? はい、なにをすればいいんでしょうか?」


 突然の提案に戸惑ったような表情を浮かべたコルネだったが、アイシスの優しい表情や目を見て、この人は信頼できる相手だと判断した様子で、戸惑いつつも頷いた。

 実際、アリスの雰囲気の変化を敏感に感じ取ったり、コルネは人を見る目はあり、アイシスに感じた信頼できるという思いも間違いではないと確信できた。


「……私はこれから……この街を見て回ろうと思ってた……でもひとりで回るのは寂しいから……話し相手になって一緒に回って欲しい」

「それが、仕事……ですか?」

「……うん……貴女の時間を……私の都合で使わせてもらうから……立派な仕事……それになにより……貴女ともっと話してみたいと思ったから」


 そういって優しく微笑むアイシスを見て、コルネは思わず息を飲んだ。顔は違うし、当然声も違うのだが……なんとなく、育ての親である老婆の微笑みを思い出した。

 だからだろうか、もっと目の前の人と話してみたいと素直にそう思うことができ、コルネはアイシスの提案を受けることにした。


「……分かりました。私も、貴女ともっと話してみたいです。あっ、えっと……コルネです」

「……名乗るのが遅くなっちゃったね……私はアイシス……アイシス・レムナント……よろしくね……コルネ」

「はい、よろしくお願いします」


 挨拶を交わして軽く微笑み合う。それだけで胸の奥にじんわりと温かい気持ちが湧き上がってきたような気がした。



****



 アイシスの提案を受けて一緒に街を回ることになったコルネは、初めて見る街に圧倒されっぱなしだった。しかし、最初にひとりで訪れた際とは違い、いまはアイシスが居るおかげで戸惑いで押しつぶされるということは無かった。

 コルネが初めて見る物や知らないものを、アイシスが説明してくれるおかげで、コルネは新鮮な驚きを感じながら街を楽しむことができていた。


「……アイシス様は、この辺りにはよく来るんですか?」

「……あんまり来たことは無いかも……ずっと昔に……向こうの方の山に木を採りに行ったことはあるけど……それ以外ではあんまり……」


 話しながらアイシスが指さした方向は、コルネが住んでいた山のある方向だったが、別に山がひとつしかないわけでもないのでこの時点では疑問には思わなかった。

 アイシスの優しく穏やかな雰囲気のおかげで、ある程度街を見て回ったいまとなっては、コルネもかなり打ち解けて自然体で会話ができるようになっていた。


「……そういえば……行こうと思ってる場所があるって言ってたけど……どこに行こうとしてるの? ……私の知ってる場所だったら……なにか教えてあげられるかもしれない」

「死の大地って場所に行くつもりです」

「……死の大地? ……ここからだとかなり遠いけど……どうして死の大地に?」

「そこに、私が探している人がいるって教えてもらったので……私を育ててくれた、大好きなお婆ちゃんの恩人です」


 アイシスの質問に対して、コルネはポツポツと自分の事情を話し始めた。育ての親であり彼女にとって最愛の家族である老婆の後悔……恩人にお礼を伝えられなかったという嘆き……それを背負って、老婆が伝えられなかった言葉を届けに行くのが目的なのだと……。

 それを聞いたアイシスは、驚いたように目を見開いて沈黙し……少し経ってから口を開く。


「……そっか……あの時の人たちは……もう皆亡くなったんだね……確かに数は多くなかったし……山の外に出なければ……そうなってもおかしくない」

「……アイシス様は、お婆ちゃんの一族を知ってるんですか?」

「……知っているというか……えっと……たぶんだけど……コルネが探してる相手は……私だと思う」

「……へ?」


 アイシスの言葉を聞いてコルネは驚いた様子で目を瞬かせる。だが、よくよく考えてみれば最初に会った際にも共通点などはあり、もしかしてという思いはあった。

 まさかこんなに早く会うわけはないという思いと、目が聞いていたものとが違う感じだったので別人だと思っていただけである。


「……七千年ぐらい前だと思う……さっき言った山に木を採りに行った時に……珍しくベヒモスが居て……襲われてた人たちがいたから……助けたことがある……話をしたりしたわけじゃないけど……二十人ぐらいで……皆同じ格好をしていたから……同じ一族だと思う」

「じゃあ、お婆ちゃんを助けてくれた恩人は……アイシス様?」

「……たぶん……その時の私はまだカイト……大切な人と巡り合えてなくて荒れてたし……死の魔力も制御出来なかったから……怖がらせちゃったんだと思う」

「そう……だったんですね」


 驚きはあった、だがストンと心の中に落ちるように納得もできた。アイシスがとてつもない力を持っているのは感じているので、老婆が「人生の中で見た一番強い存在」と表現するのも分かるし、その他の特徴も一致している。

 寂しげな目をしてはいなかったが、それはいまアイシスが心の底から愛おしそうに口にした人物との出会いによって孤独が解消された結果なのだと理解できた。


 それを理解したコルネは、一度気持ちを切り替えるように目を閉じて……目を開け真っ直ぐにアイシスの目を見つめながら口を開く。


「……アイシス様。お婆ちゃんはずっとこの言葉を伝えられなくて後悔していました。だから、私がお婆ちゃんの代わりに伝えます……『助けてくれて、ありがとうございます』」

「……うん……伝えてくれてありがとう……コルネ……仕事の追加をお願いしてもいいかな? ……私を……コルネのお婆ちゃんのお墓まで……連れていって欲しい」

「……はい!」


 真っ直ぐに告げられたコルネからのお礼の言葉に優しく微笑んだ後で、アイシスはコルネに案内を頼んだ。



****



 辺境の山にあるコルネの育ての親の墓の前、アイシスはゆっくりとしゃがみ亜空間からブルークリスタルフラワーの花を取り出して備えて、静かに祈りを捧げ……軽く微笑みながら墓に向かって語り掛ける。


「……コルネから伝えてもらった……私が貴女を助けたことで……貴女が幸せに生きることができたなら……本当に嬉しい……だからこちらこそ……ありがとう……私のことを覚えていてくれて……貴女の言葉……ちゃんと私に……届いたよ」


 そういって優しく語り掛けるアイシスを見て、コルネは静かに涙を溢す。お婆ちゃんもきっと喜んでくれているだろうと、そんな風に考えながら……。


 そして、しばしの祈りと語らいを終えてアイシスは立ち上がってコルネの方を向く。


「……コルネも……ありがとう……貴女が届けてくれた言葉……本当に嬉しかった」

「届けられて、よかったです」

「……うん……コルネは……これからどうするの?」

「あっ、えっと……そういえば目的は……でも、お婆ちゃんは私に外の世界を見て新しい生き方を見つけて欲しいって言ってたので……」

「……そっか……コルネさえよければ……次の目的が見つかるまで……私の住む死の大地にある街……クリスタルシティに来ない? ……いろいろ教えて上げれるとは思うし……仕事も紹介できると思う」

「……いいんですか?」

「……うん……コルネが来てくれれば……私は嬉しい」

「アイシス様……はい。それでは、お世話になります」

「……うん」


 コルネが外の世界に出るにあたって最初に掲げた目的は、なんの偶然かすぐに達成ができてしまった。だが、それで終わりではない。彼女はまだ外の世界に足を踏み出したばかりであり、目的や目標……生き方は、これからいくらでも見つけて行けるのだから……。


 むしろこうして、最初にアイシスに出会えたことは幸運だったと、そんな風に感じていた。


「……そういえば、アイシス様はなぜあの街に?」

「……えっと……私の知り合いにシャルティアって子が居るんだけど……急に来て……あの街に行って適当に散策して欲しいって……もしかしたら……コルネと会わせようとしてたのかも?」



~ちょっと解説~

【幻王】

なんだかんだでやっぱり善良な相手には世話を焼いてしまうのは相変わらず。コルネのことは性格などに好感を持っており、いい子だと思っておりできれば自分の陣営に勧誘したかったが……致命的に幻王陣営には向いてないので諦めた。

前話の時点ではコルネがアイシスと出会ってもロクな結果にならないと思っており、情報などはまったく教える気は無かったが……快人が現れてアイシスに変化が訪れており、いまならきっと両者の出会いはいいものになるだろうとサポートした。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です!快人さんに出会えた後のアイシスさんによりコルネさんも長い年月によりアイシスさんにお会い出来た! アリスさんが世話のお陰もありコルネさんの祖母からの感謝の言葉も伝える瞬間も良かった! …
部下〈だって上司がまともじゎないし
幻王陣営はまともな部下少ないからなあ笑
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