同席をかけた戦い⑤
ゴルフ大会が行われている空間隔離結界の中、実況席でどこか偉そうな雰囲気で腕を組んで座るクレアの元に、ベラが芝居がかった様子で近付いて敬礼をする。
『クレア隊長! 報告です!』
『なにかな? ベラ上等兵』
『……え~もうちょっと上の階級がいいな』
『……報告を続けたまえ、ベラ少佐』
『滅茶苦茶階級上がった!? ……こほん。報告します! ただいまを持ちまして、死王配下主催ゴルフ大会の参加者全員が9Hを回り終えました!』
『そうか……ついに、始まるか……』
『……はい。結果発表です!!』
コントじみたやり取りをするクレアとベラを横目に、ウルペクラが拡声魔法具を手に持つ。
『では、漫才コンビが言ったように、参加者全員が9Hを回り終えたので結果発表っす。最初に宣言した通り今回は五位まで賞品があるので、五位まで発表するっす。ちなみに、あくまで魔法が使えない人族基準の数値ではあるっすけど、各ホールにはパーって呼ばれる規定打数がありまして、9Hの場合は合計で36になるっす』
『えっと、それは36より低い数字だと上手いってことかな?』
『そういう認識で問題ないっすけど、そもそも身体能力が違うので参考程度っすね』
規定打数はあくまで人間族の身体能力を基準としたものであり、片手で軽く打っても地平線の彼方までボールを飛ばせるような身体能力を持つ爵位級高位魔族たちにはあまり関係は無い。
なにせ全員全ホール一打でグリーンまでボールを届かせることができる前提で、いかに上手く加減できるかというのを競っている状態なので、基準打数は本当に参考程度といえた。
『ではまず、五位から……31打で……スピカっす!』
『スピカさん、プレイは凄いのんびりだったけど、安定して上手かったよね』
『力加減がよくできてる感じでしたね。グリーンに乗せてからパッティングで苦戦してた感じですが、全体通して安定していました』
第五位はスピカであり、ベラとクレアが感想を口にした通り、なんだかんだで力加減が上手くできており、かなり安定してボールを運べていた。
ただ、グリーン上で芝の目や傾斜を読んでボールを転がすというのが苦手な様子で、グリーンには上手く乗せるのだが、そこからカップに入れるまで時間がかかってしまった結果の五位だった。
『どんどん行くっすよ。続けて四位は、27打で……リゲルっす!』
『リゲルさんは、力加減とか風の読みとかは本当に凄かったですね。もっと上の順位も目指せるポテンシャルはあったと思いますが……』
『なんか、力加減とか風とか関係ない場所で勘違いて変な方向に打ったり、無駄に難しいことやろうとして失敗したり……う~ん、これはポンコツロボット』
「ロボ虐反対であります!」
第四位はリゲルであり、クレアとベラが口にした通り全体を通して力加減や計算は完璧と言えるショットが多かったし、ホールインワンも3度決めている。
だが、それとはまったく関係ないところで失敗したり、無駄に凝ったことをしようとして失敗してペナルティをくらったりと、総じてリゲルらしいと言えるポンコツっぷりで四位となった。
それでも全体通して上位に入る上手さを見せて、しっかり四位という高順位に入ってはいるのだが……。
『つづけて、三位は17打で……イリスっす!』
『イリスさんは、最初以外はずっと上手かったよね。むしろ最初のペナルティがなければ二位だったような……』
『初めての競技としては不利な一番手を選びつつも、しっかり好成績を残すあたり配下筆頭の面目躍如って感じですね!』
第三位はイリスであり、最初に力いっぱい打ってボールを消し飛ばした以外ではペナルティを貰うこともなく、本人が言っていた通り力加減などもかなり上手かった。
一番手ということもあり、グリーンやバンカーなどといった初見の要素で打数を増やすことはあったが、チップインを連発するなど非常に素晴らしいプレイを見せていた。
『そして、二位は16打で……ラサルっすね』
『ラサルさんは、最初っからずっと一貫して上手かったですね。どのホールもほぼ2打以内でクリアしてましたし、器用さはかなりのものって印象でした』
『ずっと棺桶で打ってたのに、よくもまぁあんなに綺麗に飛ばせるものだと感心したよ』
第二位は最初から最後まで一貫して上手かったラサルであり、クレアとベラの言葉通り非常に器用に立ち回っていて、どのホールも短い打数でクリアする抜群の安定感を見せていた。
ラサル自身が器用なこともあって、こういった初見かつ器用さが必要な競技にはかなり強いようだった。
『それでは、いよいよ栄えある優勝、アイシス様との同席権利を獲得した一位の発表っす! 一位は、打数9打! 全ホールホールインワンで……アタシっす!』
『まずビックリしたのが……あっ、ウルちゃん普通に参加するんだって……』
『思い返せば、最初から48人って言ってた気もする』
そして第一位は、司会進行を務めつつ……しれっと一番最後の順番で参加し、全ホール一打でカップにボールを叩き込んだウルペクラであり、文字通りの圧勝だった。
『当り前じゃねぇっすか。アタシがアイシス様とカイト様と同席できる権利を得る戦いに参加しないわけがないっす。ああでも、ズルはしてないっすよ。確かにアタシはいろいろ準備もしたっすし、司会進行のために事前にルールとかテクニックも予習したっす。ただ、実際にプレイするのは本当に初めてっすし、そこはフェアな条件にしたつもりっす』
『……無茶苦茶に上手かったよね。全部一発で決めたし……』
『まぁ、順番が最後だったっすから、それまでのプレイヤーを見てどのぐらいの力でどう振ればどう飛ぶかは完璧に把握できましたし、知識も事前に持ってた分多少の有利はあったと思うっすけど、その辺は会場とか賞品とか準備した特典ってことで見逃してほしいっす』
ウルペクラは六王のひとりアリスが「世界のバグ」と称する天才リリア・アルベルトに匹敵する天才であり、他の面々のプレイを一通り見ていれば、初めてのプレイでも狙った場所に寸分違わずボールを飛ばすぐらいは容易い。
この手の初めてやる競技で競い合うという形式の上では、異次元の器用さを持つウルペクラは圧倒的に有利である……もちろん、だからこそそういう競技を選んだのだが……。
『まぁでも、結果としてアタシが優勝したっすけど……皆本当に凄かったっすし、なんだかんだで楽しんでもらえたと思うっす』
『確かに、初めての競技だからこその手探り感はありつつも、それぞれ個性に合ったプレイをしてて見ごたえはありましたね。ムジカちゃんとか毎回呪文みたいな口上を言ってから打ってましたし、個性が出てましたね』
『私もクレアも実況解説として参加させてもらったけど、最後まで飽きずに楽しめたし、手に汗握る場面も結構あって凄く楽しかった!』
拡声魔法具を手に持ったままで実況席をから立ち上がり、ウルペクラは死王配下たちの顔をひとりひとり見渡しながら微笑みと共に言葉を紡ぐ。
企画して、準備して開催して、本当によかったと……そんな思いを込めながら……。
『みんなすごく頑張ってたと思うっすし、楽しんでもらえたならアタシも嬉しいっす。そして、皆の健闘を讃えて優勝したアタシから最後に一言贈らせてほしいっす』
優しい微笑みでそう告げた後、ウルペクラは少し間を空けて……ニヤリと深い笑みを口に浮かべて告げる。
『ハッ! 雑魚どもが、相手にならねぇんすよ! 悔しかったら素振り一万回してから、出直してこいっす!』
『クソ狐ぇぇぇぇぇ!?』
皆に楽しんでもらうためにわざわざネピュラに依頼して五位までの賞品を用意もしたし、実際にプレイするホールに関しても人界にあるゴルフ場に菓子折りを持って足を運び「身内の大会で使うために一部複製させてほしい」と直接頼んだりとしっかり準備もする。
皆が初見の競技でもちゃんと理解して楽しめるように、ゴルフのルールをちゃんと説明するために事前に勉強してかみ砕いたルールを書いた冊子も用意するなど、配慮や気遣いもしっかり行う。
その上で己自身も参加する身として、できるだけフェアな条件になるようにと知識は身に付けつつも実際にプレイすることは無く、初めてのプレイは今日まで行わなかったという誠実さもある。
……だがそれはそれとして……煽れる時には全力で煽るのがウルペクラである。
かくして唐突に開催されたゴルフ大会はウルペクラの優勝で幕を閉じ、空間隔離結界の中には死王配下たちの叫び声が木霊していた。
~ちょっと解説~
【アイシスとの同行や同席をかけた戦い】
死王配下ではよく行われる恒例行事であり、祭りなどに貴賓として参加するアイシスの同行者や、今回の晶花宴などのようにアイシスとの同席などの権利をかけて争われる。
主催はその時々で違うが、準備や仕切りの上手さなどからウルペクラが担当する機会は比較的多い。
内容もまちまちであり、今回のように初めてやる競技や異世界の遊びによって争われるものもあれば、WANAGEなどの定番の競技もあったりするし、時間が無い時はシンプルにくじや抽選になることもある。




