同席をかけた戦い④
ティーイングエリアに立ったリゲルはどこか自信満々といった様子で、モノアイを赤く光らせる。
『皆さんは小生のことをポンコツ呼ばわりしますが、ロボである小生にとって弾道や風の計算、繊細なパワーコントロールはお手のものであります! そしてここまでの様子を見て、既にデータは集まっているであります!』
リゲルの視界の中でグリーンのカップがロックオンされ、必要な情報が計算される。リゲルはクラブを構え、その巨体からは想像もできないほどの柔らかく流麗な動作でスイングし……クラブは空を切った。
『……おい、ポンコツ。自分のサイズ分ってねぇんすか? その体躯で人間用のクラブ振ったら、そりゃボールに届くわけがねぇっす』
『おうふ……ま、まさかそんな罠が……』
リゲルはウルペクラが用意した普通の人間用のクラブを手に持っており、三メートルを超える彼女が人間用のクラブを普通にスイングして足元のボールに当たるわけがない。
相変わらず抜けているところを見せたリゲルは、大げさに頭を抱えた後でモノアイを光らせ……美少女モードに変形した。
「よしっ、なら美少女モードでいくであります」
『最初からそれで行けばよかったのに、なぜロボモードに?』
「ふっ、ベラさん、ロボットモードで打った方がカッコいいからでありますよ」
『う~ん、私ロボじゃないから分かんないや』
「な、なんてことでありますか……これが、ロボと精霊、種族の価値観の違い……」
『ロボは種族だったのか……』
ベラと軽くやり取りをした後、リゲルはビシっとクラブをカップの方に向ける。
「気を取り直して、小生が見せるでありますよ! ホールインワンというやつを!」
『空振りしたんで次で入れてもホールインワンじゃねぇっすよ』
呆れたようにツッコミを入れるウルペクラを意に介さず、リゲルはクラブを構え再び先ほどのように流れるようなスイングを行う。
「これが、小生の……スーパーショットであります!」
『え? なんか滅茶苦茶上の方に飛んでいったんだけど……』
『これはっ、まさかっ!?』
『知っているのか? クレア!』
『もの凄く高いショット!』
『見たまんまぁ!?』
リゲルが打った打球は、まるで天に昇るように上空に向かって飛んでいき、クレアとベラが驚いたような表情を浮かべるが、ウルペクラはどこか落ち着いた様子で口を開く。
『……なるほど、おそらくほぼ垂直に近い軌道で落とすつもりなんでしょうね。風とかを完璧に計算できているなら、確かに真っ直ぐにカップに向けて落とすこともできるかもしれないっす』
『な、なるほど、皆どうやってカップに向けて弱く打つかに苦戦していたけど、空に向けて強く打つって逆転の発想……うん……えっと……』
『……ボール落ちてこない?』
リゲルの狙いはわかったが、それはそれとして高く上がったボールがまだ落ちてこない。伯爵級高位魔族であるリゲルの力ならそれこそ、数万メートルという高さにまでもボールを飛ばすことはできる。
異世界とは違ってトリニィアには宇宙などは無く、世界のルールとして一定以上……およそ二万メートルから先へは進むことができないようになっているのだが、二万メートルに到達した瞬間に運動エネルギーがゼロになるというわけではなく、進めないだけで飛び続ける。
仮に五万メートルに到達する威力で打ったのなら、五万メートルに到達する時間まで飛び続けた後で落下を始めるので、落ちてくるまでかなり時間がかかる。
『高く上がり過ぎなんすよ。落ちてくるまで結構時間かかるじゃないっすか……ん~このパターンは考えてなくて、ペナルティ設定してなかったっすね』
『つまり、ウルちゃんの裏をかいたわけですね?』
『いや、裏というか……こんな馬鹿なことするやつがいるとは思って無かったっす。なにせ、普通に力を加減して打つ方が簡単っすし、落下速度とか空気抵抗とか風とかを計算して打つのも凄い労力なわけっすよ。というか、その辺が完璧にできるなら、普通に打ったらカップに入りますし……すげぇ無駄なパフォーマンスっすね』
「ボコボコであります。ボールが落下してくるまでの間に、小生ボコボコにされているであります」
普通に打つよりはるかに難しいだけで、特に他に利点が無い超高度ショットにウルペクラが呆れたように解説を入れたタイミングで、ようやくボールが落ちてきた。
『あっ、落ちてきた! ウルちゃん、これどうかな?』
『やってることは馬鹿そのものっすけど、計算は完璧っすね。空気抵抗や風を読み切って、完全に垂直でカップに向かって落ちてますし……おそらくど真ん中っす』
『え? じゃ、じゃあ、凄いってこと?』
『そうっすね。それで本当にチップインするかはともかくとして、軌道に関しては……《ピンフラッグ》が無ければ完璧でしたね』
無駄に高度な計算により垂直に落ちてきたボールは、完璧な軌道でカップに刺さった旗……ピンフラッグに直撃して、あらぬ方向に飛んでいった。
「ノォォォ!?」
『力加減とか計算とかは完璧で、全然関係ねぇところでやらかすあたりが、リゲルがポンコツたる所以っすね』
『いつも通りのリゲルさんで安心しました』
「クレさんまで!? 界王配下もロボ虐をするでありますか!?」
『はいはい、騒いでないで打ったらさっさとどくっす』
「小生の扱いっ!?」
実際のところ力加減は完璧だった。妙なことをしていながらもあれだけの高高度に打ち上げておきながら、正確にカップの中心に落としたコントロールも、風や空気抵抗を完璧に読み切った計算も完璧ではあった。
だが、それとは全然関係ないところで失敗するのがリゲルであり、ある意味ではクレアの言うようにいつも通りではあった。
オーバーリアクションで頭を抱えながらリゲルがティーイングエリアから去り……少しの間会場に沈黙が訪れる。
『……次は誰っすか?』
「小生の次はスピさんのはずであります」
『スピカ? お~い、スピカ! あっ、これ《風が気持ちええなぁモード》入ってるじゃないっすか、スピカ! スピカの番っすよ!』
リゲルの言葉を聞いて視線を動かしたウルペクラが見たのは、空を見上げて目を細めているスピカであり、普段から彼女と仲の良いウルペクラは即座にスピカがのんびりモードに突入していることを察して大きな声で呼びかけた。
するとスピカはウルペクラの方を向いて、コテンと首を傾げた?
「ん~ウル、どないしたん?」
『いやだから、スピカの番っすよ』
「ん? あっ、ウチの番か……ちょお、待ってな。えっと、クラブを選んで~」
『……あの、スピカ? ……まだ時間かかりそうっすか? 四組は問題児しかいねぇんすか……あ~もう、どれにしようかなぁってのんびり考えてますし……先に五番目と六番目が打ってくれっす。打ち終わった辺りで、クラブも選び終わるでしょうから……』
魔界一ののんびり屋であるスピカは、いつも通りのぽやぽや緩い笑顔でクラブを選び始めたが、例によって非常にのんびりしており、どう見ても時間がかかるため先に次のプレイヤーに打たせることにした。
他の死王配下たちもスピカの性格はよく理解しているので、ウルペクラの言葉に素直に従って次のプレイヤーがティーイングエリアに向かう。
『二打目からは、距離に関係なく先にスピカに打つように言っておいて、それ以外が普通に順番通り打つ感じで丁度いいかもっすね。スピカひとりが打つのに他五人分ぐらいの時間はかかるでしょうから、スピカとそれ以外で同時に動いたら丁度いいぐらいっす』
『見てよ、クレア……凄いでしょ? あれが最強の花精霊の姿だよ。いつも通りの素敵なぽやぽやお姉さんだね』
『のんびりしてます。凄くのんびりしてます……こののんびり具合はもはや、貫禄と呼ぶべきでは?』
それこそ実際のゴルフ大会であれば警告なり失格なりになりそうなスローペースではあったが、ここにいるのは身内であり、のんびりしているスピカを苦笑しつつも微笑ましげに見ており、なんとも平和な雰囲気だった。
~ちょっと解説~
【トリニィアの世界法則】
トリニィアは惑星という球形ではなく平面の形の世界であり、太陽や月、星と言ったものは世界のシステムとして存在しているだけであり、空に向かって飛び続けても宇宙に到達することは無い。
いくつかの正解の法則が存在し、『空に向けて飛んだ場合はおよそ一万五千メートル~二万メートル辺りでそれ以上先に進まなくなる』『世界の端に辿り着くと逆側の端に移動する』といった感じの複数の世界法則があり、それを管理しているのが神族である。




