表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
むつら☆ぼし  作者: 灯台


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/16

アンリ・アルベルト後編



 それ自体は、決して珍しいやり取りでは無いだろう。幼い少女にとって最も身近で好意を持ちやすい異性といえば父親であり「大きくなったらお父さんのお嫁さんになる」というようなやり取りは、必ずというわけではないがよく聞く話という程度には定番のやり取りである。


 まだ幼い子供が口にする夢……というよりは、父親に対する愛情表現の一種かもしれない。成長して視野が広がっていくにつれて、懐かしい思い出話となるようなやり取りではあるが……少なくとも、アンリ・アルベルトにとってはそのやりとりは戯言などではなく、本気の言葉だった。


 アンリは聡明であり早熟な子供であった。大好きな父親である快人に「大きくなったらパパと結婚する」と宣言したのちに、彼女はどうすれば快人と結婚できるのかを調べた。

 そして、辿り着く王国法において親子の結婚は認められていないという事実に……。


 親子間の婚姻という話であれば、例えば魔界などでは特に禁じられているわけではない……というよりは、魔界には種族が多すぎて、親子関係というのも種族によって全く違う。

 人族のように親が子を育て慈しむ種族もいれば、生まれてある程度自立したらそれ以降は他人と認識するようなドライな種族も居る。


 そして魔族は長命種も多く、数百、数千年ぶりに親子と気付かず再会して恋愛し結婚するという事例もあり、そもそも人界のように国というような括りで纏まっていない上に、血縁を持たない単一種なども存在するため、誰が誰の血縁かを調べること自体困難で、本人たちが知らずに親子無いし兄妹で恋仲になることもあるため、その辺りを禁じるような決まりはない。


 しかし人界においては、三国ともに法によって親子間の婚姻は禁じていた。


 それはある意味で分かりやすく絶対的な壁と言えた。将来父親と結婚すると幼き日に告げた少女の多くが、成長していく過程で自然とそれが許されないことであるということを知るだろう。

 早熟であったアンリは、それを知るのが早かったというだけであり……衝撃的な事実を知り、アンリは静かに王国法の書かれた本を閉じ……。


『法 律 が 間 違 っ て い る』


 という結論に辿り着いた。アンリが世界で一番大好きな快人と結婚できないということが法によって決められているなら、それは間違いであり許されないことであると、幼い心に憤怒を宿した。

 しかして、アンリはすぐに冷静さを取り戻す。間違えることが罪なのではない、間違えたまま放置することこそが罪なのだと……そう、だから……。


『私 が 国 王 に な っ て 間 違 い を 正 す』


 アンリ・アルベルト……齢6歳にして心に宿した決意である。


 そしてその日からアンリは入念に計画を練った。法律を変えるだけであれば簡単であり、それこそ彼女を溺愛するマキナにでも泣き付けば、翌日には法改正は成されるだろう。

 だが、それでは意味がない。アンリにとってこれは、快人と結ばれるための愛の試練とでも言うべきものであり、自分自身の力で成し遂げなければならないものであると、そう認識していた。


 アンリは聡明で才能に溢れ、そしてなによりもコツコツと細かなものを積み重ねて長期的な展望で努力することを苦とは思わない存在だった。

 故に必要な過程を想定した。国王となるために身に付けなければいけない知識、経験、築くべきコネクション、国民からの信頼……アンリはおおよそ期間を二十年ほどと想定して計画を組み、その日から国王となるための努力を開始した。


 アンリの真意を知る者は多くはない……だが、一部には彼女の真の目的とでもいうべきものに気付いている者もいた。

 例えば全知全能の神であるマキナは当然知っていたが、むしろ彼女はアンリを応援する側であり、あくまでアンリが自分の力でやろうとしているのを尊重して手出ししていないだけであり、必要なことがあればいくらでも協力するとアンリには伝えてある。


 他にも、快人の護衛にして三界一の頭脳と世界中の情報を持つ幻王ノーフェイスことアリスも、当然ではあるがアンリの目的等には気づいていたが、いくつかの理由から静観を決めていた。

 アリス自身もかつて人間だった頃に実の妹が己と結婚すると言っていたし、自分も似たようなことを言っていたので変に言及すると己の頭にブーメランが突き刺さるというのも理由のひとつだ。


 だが、それ以上に『とある要因』から、静観することに決めていた。



****



 なんと反応すべきか困っている様子のウルペクラに対して、アンリは明るい声で告げる。


「あっ、勘違いしないでね、ウル姉。私はなにもズルなんてしてないからね。もちろん、マキナおばあちゃんに泣き付いたりもしてないし、パパやママのコネクションを利用したりとかもしてない。ちゃんと必要な勉強をして資格を取って、正規の手順で試験を突破してアマリエ前国王の補佐官になったし、社交界とかで交流を広げて味方を増やして、いろいろな実績を上げて確かな信任の元で王位を継承したからね」

「まぁ、そこは疑ってないっすよ」

「国王になってからも強権を振りかざしたりとかはしてないし、全力で国と国民のために頑張ってコツコツ信頼と実績を積み重ねて、例の法改正だってちゃんと時間をかけて告知や説明をして、国民の理解を得て改正したからね」


 アンリにとって法を変えればそれで夢が達成されるわけではない。改正だけなら、その気になれば国王になった直後に行えた。

 だがそれでは意味がない。親子間の婚姻が禁忌であると認識されていては意味がないため、それが受け入れられる土台を作らなければならなかった。


 最終的な理想としては、親子間の婚姻もごく自然なもとであるという認識に持って行くことではあるが、世界順の認識を変えるにはあまりにも時間がかかりすぎる。

 そのためアンリは法改正の際に複数の条件を設定した。「特殊な事情があれば親子で結婚することもある」と、現段階で認識の変更はその辺りまでが限界だと確信して、そのように法改正を行った。


「私とパパの愛の勝利だよ! これで、私とパパの愛を邪魔する障害は無くなったわけだし、私も堂々とパパにアプローチができるようになったんだけど……目下の問題として……この半年頑張っていろいろアプローチしたんだけど……いまのところ、娘が甘えてきてるぐらいにしか思われてないことかな……」

「でしょうね」

「で、でもでも、手応えを感じてるのもあるし、ちょっとずつでも確実に進展はしてるんだよ。まぁ、国王を辞めて時間に余裕ができてから、もっと全力で行くことにするよ」

「……ふむ。ま、まぁ、頑張って」

「うん!」


 アンリの言葉を聞いてウルペクラは少し首を傾げた。というのも、ウルペクラはアンリとも親しく快人の家にもたびたび足を運んでいるし、アンリと快人が一緒にいる場面もここ半年で幾度となく見ている。

 だが、特にアンリが異性としてなんらかのアプローチをしている場面に遭遇した覚えがないのだ。しかし、アンリの口振りでは手応えも感じているらしい……となれば、己が見ていないところで積極的にアプローチをしていたのだろうかと結論付けた。


 しかし、もし仮に……ウルペクラが魔界ではなく快人の家に住んでいて、この半年かんのアンリと快人のやりとりを見ていたとしても……彼女は同じように首をかしげただろう。

 そして、それこそがアリスを含めたアンリの思いに気付いている者のほとんどが静観している理由でもある。


 そう、なんというべきか……無いのだ……特に問題が……。


 アンリは快人に対する深い愛情もあり、行動力や狡猾さも併せ持っている。だが同時に、彼女はリリアに似たのか、恋愛関連に非常に初心かつ本人にはあまり自覚はないが、相当に奥手だった。


 例を挙げるのなら、法改正によって制限が取り払われたアンリが、ここ半年で快人に行ったアプローチの中で本人が一番手ごたえを感じているものを上げると……ある日の休日に、ソファーに座って雑誌を読んでいる快人を見かけて、『隣に座って一緒に雑誌を読んで楽しく雑談した』……以上である。


 別に隣に座る際に露出の多い服を着ていたりとか、ボディタッチを多めにしたりとかそういうことも一切ない。それどころか過去に隣に並んで雑誌を読んだことは何度もある。

 だが、アンリは自室に帰ってからひとりでガッツポーズをするぐらいに手ごたえを感じていた。


 それはなぜか……『いままでより5cm、快人の近くに座った』からだった。もちろん快人はそんな違いなど気付いておらず、娘と一緒に雑談しながら雑誌を読んだ以外の感想など抱いていない。

 だが、アンリにとってはかなりの躍進であり、それどころか自室で後から「いきなり5cmは急ぎすぎてパパに焦りが伝わったかもしれない。2cmと3cmに分けていくべきだったかもしれない」と反省していたぐらいである。


 そう、アンリ本人は法による制限がなくなって積極的にアプローチをしている気でいる。だが傍目に見ると、『特に問題の無い健全な親子のスキンシップ』にしか見えないレベルである。

 なんならアンリの異母姉妹である水色髪のメイドの方が、よっぽど快人にベタベタ引っ付いているぐらいであった。


 だがまぁ、そんなことはつゆ知らず、不思議そうな表情を浮かべるウルペクラの前でアンリは非常に上機嫌でこれからの未来に思いを馳せていた。



~ちょっとキャラ紹介~

【水色髪のメイド】

アンリの異母姉妹であり、お察しの通りルナマリアの娘。隔世遺伝により、バンパイアの特性が強く表れており、人族よりは魔族に近く肉体の成長が遅めでまだ120cmぐらいである。

血の摂取が必須ではあるのだが、幸い父親である快人の血の相性がいいため、特に困ってはいないし、ノア程相性がよすぎるというわけでもないので、特に興奮したりもしない。


クールというかマイペースな性格ではあるが、母親譲りなのか時折アンリを揶揄うような言動を見せる。メイドとしての腕はまだまだ未熟ではあるが、将来性は評価されている。

快人のことは普通に父親として慕っており、アンリのような恋愛感情はない。


アンリの思いにも気付いており「お父さんちょっと鈍感だし、あの奥手さじゃ進展するのに何百年かかるのやら」……と、そんな感じに眺めているし、時々快人にベタベタ引っ付いてアンリを煽ったりしている。


本人は快人に対する恋愛感情は無いのだが……ふと、将来恋人ができてその相手を快人が認めなければそいつは存在ごと世界から消滅するのでは? とか、そもそも快人の影響力が大きすぎてそれ目当てじゃない有用物件を探すのが大変過ぎるし面倒……という感じに自身が将来恋愛する難易度を考えてみると、「一周回ってアンリの選択が正解なのでは?」とも少し感じている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いるよね私生活つーか一部だけまじアカチャンかな?ってなるの
もしもアンリと快人が結婚したとしてマキナの呼び方はどうなるんだろう? そのままおばあちゃんかお義母さんになるのか
更新お疲れ様です! リリアさんの母親譲りで奥手の所が似ていたw スキンシップの様な感じだからこれが恋のものと思うようになるのは当面はなさそうな雰囲気だな 次も楽しみに待ってます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ