決心
用意された寮の自室へ戻ると、扉に凭れる。
脱力した体は、ズルズルと重力に逆らって地面へと落ちる。
手には無意識に取った、自分と同じアクアマリンの瞳をした人形。
抱き締めたまま顔をうずめる。
学園入学当初、僕は気付いてしまった。
“第二王子に悪魔が憑いている”と。
王子を久々に見た時、思わず「ハッ」と言葉を漏らしてしまいそうになり慌てて口を抑え、礼をした記憶は新しい。
周りを見回すも、誰も気付いている素振りがない。
ただ一人、僕を除いては。
物語上でしか見たことのない悪魔は、本に書かれたままの姿だった。
その日から、悪魔について調べた。
悪魔に魅入られたら最後、待ち受けているのは〝死〟だった。
背筋の悪寒が走り、手にした本を落とした。
光属性で誰に対しても温厚なジークハルトが、大好きで尊敬しているジークハルトが……
理解が出来なくて、脳が思考を拒否した。
頬を滑り落ちる雫が、ページに染みを作る。
『悲観するのはまだ早い、まだ救える』
そう信じて、涙を拭いただ一人、ジークハルトを救うべき立ち上がった。
僕だけが、この事実を知っている。
ましてや、誰かに言おうものなら不敬扱いをされる。
恐怖で震える体を深呼吸して落ち着かせる、震える掌をぎゅっと握りしめた。
覚悟はしていたが、いざ悪魔の前に行くと立ち竦んでしまう。
こんな状況では、救えない。
逃げてしまう自分が悔しくて肩を震わす。溢れた雫は、人形を濡らす。
悪魔はやっぱり怖い。
だってあいつら狡猾で、残忍だから
『怖がっているだけじゃ何も変わらないし、救えない』
体を起こし立ち上がると机の前まで歩く。
机上に置いてある、もう一体のぬいぐるみを手に取りベッドへと寝転がる。
震える体を鼓舞して、大きく息を吸い込む。
明日、明日にはきっとちゃんと向き合うから。
今だけは————
人形とぬいぐるみを抱き寄せて、目を閉じる。
ぬいぐるみはジークフリートと同じエメラルドグリーンの瞳をしていた。




