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閑話休題(後編)

 


「シア」



 切なげに呼ぶ声は掠れていた。



「どうして、僕に構うのですか?僕は貴方に————」



 彼はシアの唇に人差し指を当て、反対側に自身の唇を当てる。



「それ以上言うとこの手を退けるけど?」



 妖艶に微笑む彼の吐息がダイレクトに伝わり、ひゅっと息を呑む。

 瞬きすら許されない。



 思わずぎゅっと手を握りしめるが、間違えてジークハルトの手を握っているのに気付かない。

 ジークハルトはふっと笑うと、顔を離しシアの肩に頭を置く。



 軽くシアの手を親指の腹でなぞると、彼は体をびくつかせ離そうとするが握りしめる。



 無意識に呼吸を止めてしまい、大きく深呼吸をする。


 ほんのりと甘い蜂蜜の香りが鼻腔をくすぐる。




 激しく音を立てる心臓の音が、どうかどうかバレませんように————

 



 ※※※



 すぅすぅと寝息が聞こえる。


 自身のジャケットを脱ぐと、そっと肩にかける。


 寝顔はあの頃と変わらず愛らしかった。


 そっと、膝に頭を乗せ撫でる。


 ふわふわとしたシアの髪を掬う。


 ふわりとラムネのように甘い水の香りがする。




「シアの髪は綺麗だね」


「ぼくは、このかみ……いろ、きにいってない……」


 眠い目をこすりながら、ボソッと呟くとこてんと膝に頭を乗せ寝息を立てる。



 否定したい気持ちを抑え、可愛らしい寝顔を堪能する。


 ほっぺたはぷにぷにしていて、まつげは人形のように長い。



「……ギル、会いたいよ……」



 一粒の涙が零れ落ちる。


 突然の知らぬ名に固まるが、涙を掬いそっと頭を撫でる。



「ジークハルト殿下!こんなところで————」



 学友が、ジークハルトを探していたのか大声で呼びかける。


 彼は、人差し指を唇に当てると微笑んだ。



「しーっ」


「……!そいつは」


 嫌そうな顔をして、声を張り上げるが彼の威圧を含ませた笑みに口をつぐむ。




「早く戻ってきてくださいよ」


 溜息をつくと、踵を返した。




 ※※※




「ふふふ、くすぐったいよ。シア」


 甘さを含んだ声が頭上からし、飛び起きる。



 ぱさりとジャケットが落ちる。



「おはよう」


「ジークハルト殿下……」



 周りをみるととっくに、空は赤く染まっていた。


 顔を青褪めさせて、謝罪をする。



「ご、ごめんなさい!」



「シアが気持ち良さそうに寝ていたのを引き留めなかったのは、私の責任もあるから」



 優雅に微笑むと、シアの頬に手を伸ばす。


 頬に触れるか触れないかで飛びのくと、ジャケットを渡しバスケットと人形を手に取り逃げる様に足早に立ち去る。

 

 ぴょこんと立った寝癖をつけ、錆浅葱色の髪を靡かせて。






 サンドウィッチの代わりにと、ジークハルトがくれたのは3個の飴玉だった。

 蜂蜜色の甘い甘い飴だった。

 


 

 自室に戻ると、腐らないように冷凍保存をかけ宝箱に飴玉を二個入れる。



 残りのひとつを手に取り、月にかざす。



 月明かりに照らされた飴は、黄金に輝く。



 そっと口に含み、甘さを堪能する。

 ころころと飴玉を転がしながら、ベッドへと転がる。

 



 今日の出来事を反芻するように————

 





 悪魔が囁く。



『ギルって誰だろうなぁ?』



 忘れかけていた、シアの一言がこびりついて離れない————


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