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16 ブルワリーズへ

16 ブルワリーズへ


 僕はさっそく次の日から『ワールド・オーダー潰し』に向けての活動を開始した。


 邪竜を倒した『ワールド・オーダー』は世界最高峰のギルドとなり、『特別区』を独占。

 ギルドの幹部たちは、もはや大国の王ですら逆らうことはできず、まさにこの世界を統べる者たちとして君臨している。


 かたやその『ワールド・オーダー』を追われた僕は、無一文で明日をも知れぬ身。

 それなのに『潰す』などと口にするのは、ミツバチが太陽に向かって飛ぶようなものだ。


 しかし、僕には『アカシックレコード』がある。

 そしてなによりも、素晴らしい味方がいる。


 ふたりは俺の決意を聞いても笑うどころか、同じ夢を見ているかのような瞳で言った。


「アストラル様、ワールド・オーダーさんと戦われるのですね。

 でしたらぜひ、わたくしもお手伝いさせてください」


「もちろんコメッコも、なんでもいたしますです!」


「ありがとう。キミたちにはこのあと、多くのことを頼むことになるだろう。

 でもその前に、拠点となるギルドを作らなくてはならないんだ」


 ピュリアとコメッコは、不思議そうな顔で声を揃える。


「「ギルド、ですか……?」」


「そうだ、相手は世界最大のギルドなんだ。だからこっちもギルドで立ち向かうのがいちばんなんだ」


「アストラル様のギルドを作られるということですね」


「でもギルドを作るのって、なんだか大変そうなのです!」


「その通りだ。いま新規ギルドを設立するためには『ワールド・オーダー』の審査を受けなくてはならない。

 僕が設立を申し出たところで、却下されるのがオチだろうね」


 ふたりが一気に不安そうな面持ちになってので、僕は言い添える。


「大丈夫、その問題点については、もう解決方法を考えてあるよ」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 次の日。

 僕は朝からピュリアとコメッコを引きつれ、ブライトフォールの街を歩いていた。


 大通りでいちばん賑やかな十字路にさしかかる。

 その十字路の角はすべて『ワールド・オーダー』の冒険者ギルドとなっていた。


 建物は立派な3階建て。

 どの建物も、これからクエストに出発する冒険者でひしめきあっている。


 そのあまりの賑わいに、ピュリアは気圧されているようだった。


「ふわぁ、ワールド・オーダーさんのギルドって、こんなにも立派なのですね……」


 かつてワールド・オーダーに所属していたコメッコが説明する。


「ピュリア様、ここは上級職だけが入れるギルドなのです」


「えっ? ということは、この街には他にもワールド・オーダーさんの建物があるということですか?」


「はいです! 下級職はもっと街のはずれにあるギルドにおりますです!

 そしてコメッコのような荷物持ちになると、公園などで寝泊まりしているのです!」


「ということは、この街にいるワールド・オーダーさんは、かなりの数ということなのですね……」


 ピュリアは今更ながらに、相手の強大さを思い知ったようだ。

 僕はふたりの少女を引きつれ、人もまばらな横道に入った。


 横道をふたつも入ると、通りはすっかり人気がなくなる。

 僕はとある建物の前で「ここだ」と足を止めた。


 軒先には『冒険者ギルド ブルワリーズ』とある。

 『ワールド・オーダー』とは対象的に、窓ガラスの向こうに見える室内には冒険者の姿はない。


 それ以前に、カウンターには受付嬢の姿もない。

 営業しているかどうかも怪しいくらいにさびれていた。


 僕はふたりを入口で待たせながら言う。


「まず、僕だけが中に入る。最初はやかましいと思うが、気にせずに待っててくれ。

 僕が指を鳴らして合図をしたら、ふたりで入ってきてくれるかい?」


 ピュリアとコメッコは不思議そうにしていたが、ふたり揃って「「はい」」と頷き返してくれる。

 僕はブルワリーズの入口にある、両開きの扉を押し開きつつ中に入り、後ろ手ですばやく扉を閉めた。


 すると案の定、皿が飛んでくる。

 僕はそれを頭だけを動かして、ひょいと避けた。


 背後でガシャンと砕け散る音と、扉の向こうでふたりの少女の「きゃっ!?」という悲鳴が聞こえてくる。

 僕は扉に向かって「大丈夫、心配ないよ」と声をかけてから部屋の奥に向き直った。


 ちょうど飛んできていた2皿めをかわしながら「ごめんください」と奥の人物に挨拶する。

 そこには、積み上げた皿に手をかけ、今にも3枚目を投げてきそうなドワーフの中年女性がいた。


 彼女はざっくばらんなシニヨンの髪に、タルのような恰幅のいい体型をラフなドレスに包んでいる。

 身体は浅黒くシミだらけで、苦労のほどを伺わせた。


 彼女こそがまさに、この冒険者ギルド『ブルワリーズ』の主だろう。

 女主人は僕の顔を見るなり、問答無用とばかりに皿を投げつけてくる。


「絶対にここは渡さないよ! 死んだ旦那が立ち上げたギルドなんだ!」


 僕は飛んでくる皿をすべて紙一重でかわしながら言う。


「落ち着いてください。僕は『ワールド・オーダー』の使いではありません」


「またそうやって騙そうとして! アンタがいくらいい男だからって、もう引っかからないよ!

 甘い言葉でウチにいた冒険者を、みいんな引き抜いていったクセに!

 そのうえ、このギルドまで取ろうだなんて、血も涙もないのかい!」


「はい、僕はたしかにギルドを欲しています。ですがそれは……」


「とうとう正体を表したね! やっぱり『ワールド・オーダー』なんじゃないか!

 出ていけっ! 出ていけぇぇぇぇぇーーーーーっ!!」


 女主人はすっかり興奮状態。

 皿を投げ尽したあと、ホウキを振り上げてドタドタと走ってくる。


 しかし僕はその場から一歩も動かず、指をパチンと馴らした。

 女主人は僕に一撃を加えることなく、僕の目の前で崩れ落ちる。


「あうっ!? いっ、いたたたたっ……! こ、腰がっ……!」


 僕の背後から、おそるおそる室内に入ってくるピュリアとコメッコ。


「ピュリア、このご婦人は腰を患っているんだ、治してさしあげて」


「あっ……は、はいっ!」


 ピュリアは弾かれるように動き、蹲っている女主人の元に跪く。

 両手の指を絡め合わせ、祈りを捧げた。


 岩のように丸くなった腰が光り出し、女主人は顔をあげる。

 腰の痛みはもう消え去ったようだったが、ピュリアを見るなりひっくり返らんばかりに驚いていた。


「あ、あんたは、聖女!? しかもエルフの聖女じゃないか!?」


 度肝を抜かれたような彼女に、ピュリアはぺこりと頭を下げる。


「はい、初めまして、ピュリアと申します」


 ピュリアは挨拶のあと、これだけは譲れないとばかりに、キリッとした表情で言い添えた。


「ですが、わたくしは聖女ではありません、アストラル様の奴隷です」


「な、なにを言ってるの、アンタ……?」


 唖然とする女主人に、ピュリアはどこまでもマイペースだった。


「あの、立てますか、おばさま。どうぞ、わたくしにおつかまりください」


「か……変わってるね、アンタ……。アンタたちエルフは、私らドワーフを汚らわしいなんて言って、近寄りもしないのに……」


「そうなのですか? でもわたくしは、おばさまのことは汚いだなんて思っておりません」


 屈託なく微笑みかけるピュリアに、女主人はすっかり毒気を抜かれたようだった。


「あ……アンタたち、いったい何者なんだい?」


「初めまして、マドモワゼル。僕は、アストラルと申します。

 このギルドを建て直すために、あなたの元へと馳せ参じました」


 ここまでは、僕の想定どおり。

 女主人がポッと赤くなったこと以外は、すべて『アカシックレコード』で予想できた未来だった。

皆様の応援を頂きましたので、急遽書き上げました、ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一番最後のところ >>すべて『ワールド・オーダー』で予想できた未来だった。 アカシックレコードの間違い?それとも何か意図が?
[一言] まずはアホな魔導師からかな?
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