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17 大魔法使いコメッコ

17 大魔法使いコメッコ


「はぁ、アンタたち、本当に変わってるねぇ。私はマルタだよ、よろしくね

 こんなナリだけどさ、ここのブルワリーズのギルド長だよ」


 僕はマルタの素性をすべて『アカシックレコード』で調査済みだった。

 でもそんなことはおくびにも出さず、彼女と握手を交わす。


 マルタは僕たちを、冒険者たちが集まるサロンへと案内してくれた。

 そこは丸テーブルがいくつも並んでいたが、僕たち以外には誰もいない。


「このとおり、ウチにはもう冒険者はひとりもいないよ。

 だから建て直そうったって、どだい無理なんだ」


 マルタは「はぁ」と大きな溜息をつく。


「絶対にここは渡さない、なんて強がってはいるけど……。

 このままじゃ首をくくるしかなさそうだね」


 疲れきった笑顔を浮かべる彼女に、僕は言った。


「冒険者のことなら心配いらない。しばらくすれば戻ってくることだろう」


「はんっ、そんなわけないじゃないか。みいんな『ワールド・オーダー』に行っちまったんだよ?

 世界一のギルドに入って、誰が戻ってくるっていうんだい?」


「それは時間が経てばわかることだ。それはさておき、このギルドを僕に任せてはもらえないかな?」


「どっちみちこのままじゃ『ワールド・オーダー』の手に渡っちまうから、別にいいけど……。

 でも、ひとつだけ聞かせておくれよ、アンタはウチのギルドを建て直して、なにかいいことがあるのかい?」


 その当然の疑問に、僕は正直に答えた。

 

「ああ、僕は『ワールド・オーダー』を潰そうと思っている。そのためには、ギルドが必要なんだ。

 しかし先立つものがないので、こちらのブルワリーズに白羽の矢を立てさせてもらった」


 するとマルタは目をパチクリさせていたが、やがて太鼓のような腹をバンバン叩いて笑い飛ばした。


「あっはっはっはっはっ! 『ワールド・オーダー』を潰す!?

 ウチのギルドを使って、世界一のギルドを潰すだって!? そりゃいい!

 アンタ、キレイな顔してすごいこと言うんだねぇ! まるで死んだウチの旦那みたいだよ!

 気に入ったよ、このギルドはアンタに預けるから、好きにしとくれよ!」


「ありがとう。なら、そうさせてもらう」


「アンタみたいな色男だったら、冒険者はなんとかなるかもしれないねぇ!

 そのへんの女冒険者くらいなら、アンタが声かけりゃ、ホイホイ付いてくるだろうから!

 でもたとえ冒険者がいたところで、やっぱり『ワールド・オーダー』には勝てっこないんだよ!

 なぜなら……!」


「依頼が来ない」


 ピタリと言い当てられたマルタは、またポカンとした。


「そ……その通りさ。依頼はぜんぶ、『ワールド・オーダー』が独り占めしてる。

 依頼がなけりゃ金が稼げないから、ウチに冒険者がいたところで、みいんな干からびちまう。

 まさに、最大の問題点ってやつさ。

 アンタはそれがわかっているのに、なぜそんな大口を叩けるんだい……?」


「その問題は、僕にとっては最小の問題点にすぎないからだ。

 解決方法も、すでに考えてある」


「ほ、本当かい!? いったい、どうすりゃいいのさ!?」


「依頼が来なければ、こっちから行けばいいんだよ」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 僕は『ブルワリーズ』を出る。

 背後にはピュリアとコメッコが付き従っているが、その間にはタルのような大きな身体があった。


「アストラル、アンタの言いたいことはわかるよ?

 『ワールド・オーダー』に依頼が持ち込まれる前に、こっちで請け負おうっていう魂胆なんだろ?

 でもどうやって、依頼が必要な人を見つけるつもりなのさ?」


「それはもう目星を付けてあるから大丈夫だよ」


 僕は街の繁華街へと向かうと、裏路地に入り、とある酒場の裏口をノックした。

 しばらくすると扉が開き、汚れたエプロン姿のコックが顔を出す。


「今日は注文はないよ!」


「いや、僕は御用聞きじゃない。ネズミ駆除に来た者だ。

 この繁華街の下水道に、大ネズミが棲み着いて困っているんだよね?」


 コックの顔が曇る。


「そうだけど、なんで知ってるんだ?

 そのことは昨日、この繁華街の集まりで話し合ったばかりなんだぞ。

 金を集めて今月中に、『ワールド・オーダー』に討伐依頼を出そうかと思ってたのに……」


「この繁華街で働いている者が知り合いで、僕に教えてくれたんだよ。

 どうかな? ネズミ駆除のほう、我が冒険者ギルド『ブルワリーズ』に任せてはもらえないだろうか?」


「そりゃ、こっちとしては依頼を出す手間が省けていいけど……。

 でも、あんたたちに出来るのかい? 見たところ、女子供ばかりじゃないか。

 大ネズミっていっても、ブタくらいの大きさがあって、毒も持ってるんだぞ?」


「それだったら心配はいらない」


 僕は隣に立っていたコメッコの肩に手を置き、サッと前に出す。


「我が『ブルワリーズ』には大魔法使い『爆炎のコメッコ』がいるからね」


 コメッコは元気に「はいです!」と返事をしたが、次の瞬間には、


「えっ……ええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 アゴが外れんばかりにビックリして、裏路地の野良猫が逃げ出すほどの大絶叫を轟かせていた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 小一時間後、裏路地の一角は多くの人でごったがえしていた。

 僕たちがネズミ退治をするということで、繁華街の店員たちが夜の仕込みそっちのけで見物に集まってきていた。


 もちろん、ただのネズミ退治ならここまで興味はそそらないだろう。

 ここまで多くの見物人が集まってきたのは、ひとえにあの一言に尽きる。


「大ネズミ退治に、大魔法使いが来てくれたんだって!?」


「ああ、あのドワーフの娘っ子がそうらしい!」


「へぇ、あんなちっこい子がねぇ! なんだか魔法を覚えたてみたいにしか見えねぇけどなぁ!」


「それが驚くな、『爆炎のコメッコ』って二つ名で通っているらしい!」


「ってことは、爆炎魔法の使い手ってことか! すげぇなあ!」


「うん、俺たちが有志を募って大ネズミ退治に行ったけど、まるで相手にならなかったけど、これならもう安心だな!」


「ああ、大魔法使い様にかかれば、大ネズミなんてイチコロだぜ!」


 僕たちはこのとき、フタが外された下水道のまわりに立っていた。

 コメッコはヤジ馬たちの言葉に、すっかり取り乱している。


「あ……アストラル様っ! なんてことを言うんだべっ!?

 オラは大魔法使いどころか、魔法を習い始めたばっかりで……!」


 僕はしーっ、と歯を鳴らす。


「大丈夫だよ、コメッコ。僕の言うとおりにすれば、爆炎が起こせる」


「爆炎魔法といえば、最上級の魔法だべ!?

 それを、オラが使うだなんて不可能だべ! いくらアストラル様にアドバイスしてもらったところで無理だっ!

 早く、みんなに謝ったほうが……!」


 おろおろと泣きべそをかくコメッコ。

 僕はしゃがみこんで、彼女の震える肩に手をかけた。


「コメッコ、僕の言ったことが、一度でも間違っていたことがあるかい?」


「ううっ、な、なかっただ……!」


「なら、今回も僕を信じてほしい。僕の言うとおりにするだけでいいんだ」


「ぐすっ、わ、わかっただ……。でも、なにをするだ?」


 僕はそっとコメッコに耳打ちする。


「ええっ!? そったらことしても……!」


「いいから、言われたとおりにするんだ。僕を信じてくれてるんだろう?」


「うううっ……! もう、やぶれかぶれだべ!」


 コメッコは僕の手から離れると、下水道の穴の前に立ち、バッ! と両手を挙げる。

 僕はまわりに向かって叫んだ。


「みんな、下がって! 爆炎が吹き上げるぞっ!」


「ううっ……! そったらことしても、爆炎なんて起きるわけが……!」


 コメッコは最後まで否定的だったが、彼女が持つ、唯一の呪文を下水道の穴に向かって放った途端、


 ……ゴッ!!


 と空を焦がすほどの炎が吹き上げていた。

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