14 カジノ潰し
14 カジノ潰し
「10億だっ! 10億だぁーーーーっ! ギャンブルの神様が、10億を当てたぞーっ!!」
観衆のその一言に、ナキリンは紙のように真っ白になった。
よろめきながらもルーレット台の上にあがると、
「い……いまのはナシ! いまのはナシじゃっ!
ワシがクシャミをしたから、やりなおしじゃーーーーーーーーーっ!!」
「そんなの許されるかよ!」
「そうよそうよ! クシャミしてハズレてたら、やりなおししなかったクセに!」
「大人しく払えっ! 10億払えーーーーーっ!」
そして巻き起こる『10億』コール。
客たちはみんな僕の味方だった。
客が説き伏せられないとわかったナキリンは、台の上で四つん這いになり、僕に耳打ちした。
「わ、若いの! 10億はさすがに言い過ぎじゃ!
元の倍率の3億6千万を払うから、ここはひとつ……!」
僕は首も振らずに即答する、「10億だ」と。
「そうそう、ワシは『ワールド・オーダー』のギルド員なんじゃ!
お前さんもギルドに入れるように口利きしてやるから、ここはひとつ、3億ということで……!」
「しれっと6千値引くんじゃない。僕にとって『ワールド・オーダー』は1¥の価値もない」
「なんたる無礼な!?
『ワールド・オーダー』を敵に回すということは、世界を敵に回すのと同じなんじゃぞ!」
「そうかな? まわりの客たちは、僕の味方のようだが。
これだけ大勢の客の前で不払いなんてしたら、もうこのカジノには誰も来ないだろうね」
「ぐっ……! ちょ、調子に乗るなよっ、この若造がっ!」
「……負けてやろうか?」
ナキリンの表情がコロリと一転、「えっ!? 本当ですか!?」
「ああ。キミが預かっている土地の権利書すべてと、5億¥。
それで手を打とう」
「け、権利書はダメだっ! あれがあったから、ワシは『ワールド・オーダー』に……!」
「権利書ナシなら10億だな。権利書かプラス5億か、好きなほうを選ぶといい
僕の見立てでは、すべての権利書を換算しても5億には届かないと思うがね」
「ぐっ……ぐぬぬぬぬぬぅぅぅぅ~~~~~~~っ!!」
歯茎から血が出そうなほどに奥歯を噛みしめるナキリン。
「それに権利書アリなら、ひとつオマケを付けよう。
その権利書と5億を賭けて、もうひと勝負してやる」
「なに……?」
「ただし条件としては、いったん権利書と5億を僕に渡すんだ。
そのかわりといっては何だが、勝負はキミが選んでいい。
スロットでもルーレットでも、もちろんカードでも」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
小一時間後、僕はカードのテーブルに座っていた。
周囲には熱狂冷めやらぬ観客たち。
僕の対面には、普通のディーラーとはひと味違う、百戦錬磨の雰囲気を醸し出す人物が。
そしてその隣には、腰巾着のようにナキリンがいた。
「ぐふふふふ、バカなヤツめ! このカジノには『カードキング』がいたんじゃよ!
彼はカードにおいて、いちども敗れたことがないんじゃ!」
『カードキング』は見事なカードさばきを披露しながら、アリでも見るような目で言う。
「本当に、この私に挑戦なさるおつもりですか? 若いのに、たいした度胸だ」
あなたのような若き王子が、王に挑むのはまだ早いと思いますがね」
周囲の客たちは僕の味方だったが、この時ばかりは分が悪いと思っているようだった。
「まさかカードチャンピオンに挑戦するとは! 命知らずもいいとこだぜ!」
「前に挑戦したヤツは、1億も負けて破産したんだよな!」
「いくらあの兄ちゃんがツイてるからって、キング相手じゃケツの毛まで毟られるんじゃねぇか!?」
「みなさん、言わないであげてください。彼はまだ、自分が雛鳥であることを知らないんです」
僕は、半笑いのチャンピオンに向かって言う。
「雛鳥といっても、鳳凰かもしれないよ?
それじゃ、羽ばたくところをお見せしようか。いろんなものが視える、翼を……!」
バッ! 両手を広げる。
「万象! 真理! 審判!
天地開闢よりありし銀の月、その鱗粉満ちるところに我はあり!
永久不変の月輪をもって、衆生の縛めを解き放て!
神智なる聖餐論!」
物陰から飛び出した奴隷に襲いかかられたかのように、王は目をぱちくりさせる。
僕はネズミに襲いかかる猫のように、妖しく微笑んだ。
「ウェルカム・トゥ・オーバーグラウンド……!」
「な……なんだかよくわかりませんけど、自信だけはたっぷりのようですね。
それじゃ、カードを配りますよ」
僕の前に、数枚のカードが滑り込んでくる。
僕がカードに触ろうともしないので、キングはいぶかしがった。
「おや? カードを確認しないのですか? それとも、怖くなったとか?」
「いや、勝負にならないと思ったんだ」
「ふふ、今になって身の程を知るとは……でも、もう遅いですよ。
運命のカードは配られました、あなたの言葉を借りるなら、これこそが真理です」
「そうか、キミは真理を望むのか、なら、遠慮はいらないな」
僕は肘掛けがわりに使っていたステッキを持ち上げ、王に向かって突きつける。。
……ガッ!
ステッキの曲がっているところで王の手首を絡め取り、捻りあげた。
「いだだだだっ!? なっ、なにをするんだ!?」
次の瞬間、観衆たちは息を呑んでいた。
僕がいきなりの暴挙に出たからではない。
王の服の袖から、バラバラとカードがこぼれ落ちるのを目撃したからだ。
僕は眼鏡をクイと直しながら微笑む。
「言っただろう? 『勝負にならない』って」
僕はベットテーブルにあった土地の権利書と5億の小切手を、内ポケットにしまう。
立ち上がり、魂が抜かれたようになっている観客たちの間をすり抜ける。
背後から、怒声が爆発した。
「ふっ……ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「まさかキングがイカサマしてただなんて!」
「そうか、このカジノはインチキカジノだったんだ!」
「くそっ、どうりで最初はツイてるはずだぜ! このカジノではいつも、最後に大負けするんだ!」
「よくも今まで俺たち客を騙してくれたな!?」
「オーナーもディーラーも、みんなまとめてやっちまえーっ!」
「壊せっ、みんなブッ壊せーっ! こんなカジノ、ブッ潰してやるぅぅぅぅーーーーーーっ!!」




