205号室に集められし者達
「出ろ。」
病棟の入口にワンボックスカーを停めると、一部の拘束具を外され外に出される。
「もっと丁重にもてなせないのか!?これだから下等な生物は困る。」
”ドン”と背中を押され、施設に入る事を強要させられる。
「黙ってまっすぐ歩いて中に入れ。」
両脇をガッチリガードされていて逃げ出すことが出来ない。いや、もしここを振り切る事が出来たとしても、ここから外に出る事は難しいだろう。
下手な行動のおかげで、監視が強化されて後に色々と制限されても厄介だ。ここは大人しく従っておいた方がいい。
病棟の入口をくぐると、右にあるカウンセリング室と書かれた部屋に通される。
清潔な白い白衣を身に纏った20代半ばの女性が話しかけてくる。
「厨二病棟へようこそ。私はこの施設でカウンセラー的な事を行っている、原 理恵と言います。これから顔を合わせる機会が沢山あるかと思いますので、よろしくお願いいたします。さて、聞いたと思いますが、ここは厨二病をこじらせた患者を入院させ、更生させる目的で造られた施設です。様々な厨二病患者が入院しているわ。比較的に早く更生出来そうな者から、君の様に一筋縄ではいきそうにない者とか。こじらせ具合によって、更生カリキュラムも病室も異なるの。詳しくは同室の者に聞いたらいいわ。他者とコミュニケーションをとるのもカリキュラムの一つよ。」
我を捕まえに来た光の国のチェイサーより、遥かに物腰が柔らかくて好感が持てる。
「では、吉田英雄君。君には今日から205号室に入ってもらいます。入院についての承諾書や手続きについては、前もって君のご両親がしてくれてあるから、安心して入院できるようになっています。そうそう、この施設の規則なんかはこのしおりを読んでくださいね。」
そう言うと、薄っぺらなしおりを手渡された。
それを適当に丸めてズボンのケツポケットにしまうと、205号室へと案内される。
どうやら光の国のチェイサーとはここでお別れらしい。
折角だ、挨拶でもしておこう。
「我が完全な覚醒体に目覚めた暁には覚悟しておくがよい。いの一番で地獄に突き落としてくれるわ!はっはっはっはっ!」
鼻で笑い、すれ違いざまに横目でひと睨みすると、カウンセリング室を後にし二階に案内される。
チェイサーは何も答えず、無言で我の姿を見送るだけだった。
施設中央に位置する階段を登り、左に向かって歩いて行くと、一番奥に205号室はあった。
ドアを三つノックして、先にカウンセラーが中に入る。
後に続いて中に入ると、ベッドが6つ置かれていた。
6人部屋という事はわかったが、部屋には4名しか見当たらなかった。
「今日からこの部屋で一緒に暮らす事になった吉田英雄君よ。わからない事ばかりだと思うから、色々と教えてあげてね。室長、全員の自己紹介が済んだら施設内の案内よろしくね。じゃあ、私はこれからカウンセリングがあるからまたね。くれぐれも仲良く過ごすようにね。」
そう言うと足早にカウンセラーの原理恵は病室から出て行った。
我は不死身ゆえに、入院とは縁遠かった。ゆえに勝手がわからない。
その場に立ち尽していると、一人の男が声を掛けて来た。
「やぁ、初めまして。僕の名前はファウスト。ラテン語で幸福を意味する占星術師。この部屋の室長を任せられている。気軽にファウストって呼んでくれて構わないよ。あ、この世界での仮の名は田中一郎。で、君の本当の真名はなんだい?吉田君。」
ほぉ。我以外にも人間共を欺き、真の姿を隠し持つ者がいるとはな。
そして一瞬にして我の真の姿を見抜いたこの男。かなりの切れ者とみた。
あのチェイサーや、カウンセラーの原。そして目の前のファウスト。なかなかの人物が揃っていると見える。この施設を少し甘く見ていたんかもしれない。
「我が名は悪鬼羅刹。人を喰らい、この世界を統べる者。この世界では吉田英雄と言う名で暮らしている。で、他の者たちは?」
我の問いかけに笑顔で答えるファウスト。
かなり好感が持てるな、この男。人の心を操る術も身につけている、か。侮れないな。
「あぁ、奥にいるのが僕の妹のマーリン。魔術師だ。こちらでの名前は恵美。その隣で黙って本を読み耽っているのが、賢者にして哲学者のタレス。こちらでの名前は鈴木博子。かなりの知識人だ。そしてさらにその隣が兼光。彼女は妖刀の化身で、触るもの皆傷つけるギザギザハートの子守歌さ。こちらでの名前は佐藤麻衣子。自身を操れる、上杉謙信をも凌ぐ強者を探し求めているらしいよ。一応これで全員の自己紹介は終わりだね。他に質問は?」
こうして考えると、この部屋に集められた者達全員がかなりの人物と見える。
力のある者たちを一つの場所に集め、一括管理する施設員達も侮れないって事だな。
「ならファウスト。この施設について教えてくれるか?」
我が質問に分かりやすく答えていくファウスト。
「この世界でのこの施設は、厨二病棟と呼ばれている。表向きは身の丈に合わない壮大すぎる世界観を持った者を更生させる施設とされ一般人の間に知れ渡っている。しかし本当は違う。普通の人間とはまるで違うあまりにも強大な力を持った異端な者を管理し、閉じ込めておく施設がここって訳。僕らの間では残されたサンクチュアリと呼ばれているけどね。そしてこの施設は4階建てとなっており、2階に幽閉されている僕らが一番の監視対象となっている。何故か?それは、個々がその気になればこの世界を支配出来てしまう程の力の持ち主だからなんだよ。そしてこの施設のもう一つの特徴。それはこの中では僕らの力を開放することが出来ないって事。噂によれば国家以外にもバチカンなんかも一枚嚙んでるって話さ。」
ファウストの説明はなかなか理にかなっている。
我をこの施設に幽閉した理由も合点がいく。なるほどなるほど。
「下等な生物の中にも、少しは頭の切れる者がいるとみえるな。小賢しい。さてファウスト、ついでと言ってはなんだが、この施設内を案内してくれないだろうか?これからの事を考える前に、施設の中を知っておく必要がある。」
そう言うと、少し困った顔でこちらを見るファウスト。
「すまん、そうしたいのはやまやまなんだが、この後カウンセリングと言う名の洗脳治療があるんだ。バックレると厳しい罰が与えられるから、羅刹もここの治療には前向きな姿勢だけは見せておいた方が利口だぞ。これは忠告なんだが、なるべく目立った行動は慎め。でないとタダでさえ少ない自由は規制され、24時間体制での監視対象となるぞ。まぁ、堅苦しい話はこの辺にして、僕の代わりと言っちゃあなんだが、マーリンにこの施設を案内してもらってくれ。頼めるかい、マーリン?」
兄であるファウストの依頼を受けると、マーリンは嬉しそうに微笑む。
「スマンが頼めるだろうか?」
出来る限り紳士的にマーリンにお願いをする。
するとマーリンは近くまで駆け寄ってきて少しだけ恥ずかしそうに呟く。
「私で良ければ喜んで。では、参りましょうか。兄さん、行ってまいります。」
そう言うと、我の手を取り205号室を二人で後にした。




