悪鬼羅刹と光の国のチェイサー
「貴様!この腕の拘束具を解け!!我が何者か知っての狼藉か!?」
後ろ手に組まれた拘束具を解き放とうと暴れてみたものの、もがけばもがく程、両腕の拘束具が腕に食い込み、その度に痛みが走る。
「ふん。人が作りし物など、我の呪われし右腕にかかれば造作もない。このような物、粉々にしてくれようぞ!」
そう呟いて、力いっぱい拘束具を解こうとしてみたものの、それを破壊する事は出来なかった。
「我の呪われし右腕が発動しないだと!?魔封じか!?クソ、我が完全覚醒体だったらこんなモノ!!貴様は何者だ!?我をどうするつもりだ!?」
そんな事を口走る我の姿を見て、ニヤリと笑う女が一人。
「滑稽ね。」
這いつくばってもがく我を冷めた目で見下ろす。
「厨二病もそこまでこじらせたら救いようがないわ。あなた、吉田英雄君よね?」
まるで市役所の職員の様に、淡々とした口調で問いかけてくる。
「貴様、光の国のチェイサーか!?」
強い口調でそう問いただしてみたが、相変らず冷ややかな目でこちらを睨みつけてくる。
「あのさ、それどんな設定?まぁ、私も職業柄色んな厨二病患者を見て来たけどさ、アンタはひどいわ。だって名前が英雄なのに、設定が悪魔とか!?」
言わせておけばこの女!好きかって言いやがって!
こっちとら、好き好んでこんな名前になったんじゃないやい!
「黙れ下等生物!吉田英雄はコチラの世界での世を忍ぶ仮の名。我は悪の英雄。人を喰らい、この世界を統べる者。我が名は悪鬼羅刹!この名のもとに、貴様もひれ伏すがいい!!はっはっはっはっ!」
そう高らかに笑い声をあげると、脳天に鈍い痛みが走る。
「うるさい、黙れ!で、もう一回だけ聞くから、よく考えて答えなさい。答え次第ではもっと痛い事になる事は覚悟しなさいね。まぁ、アンタ自身メチャクチャ痛いんだけどね。で、だ。・・・君、吉田英雄君よね?」
脅し文句とドスの利いた低い声でもう一度問われる。
「・・・はい。」
屈辱だ!!
クソ!今は覚醒体ではないうえに、体の自由を奪われている身。
今すぐにでもこの女呪い殺してやりたいところだが、ここは我慢だ。覚えてろよ!
「君さ~もうすぐ18歳よね?そろそろさ、そう言うの止めてさ、もっと現実に目を向けようよ。自分は特別な存在!とか、何でも出来てしまうんじゃないか!?って言う訳の分からない自信は、少年期の妄想に過ぎないのよ。確かに自信を持つ事はいい事だし、大切な事だと思うわ。でも君の場合はソレが他の人達とは違うベクトルなのよ。そもそも私が君とこうして対峙しているのは、将来を心配された君の親御さんのご相談を受けたからなのよ。君を正しい道に導く。それが私の使命であり請け負ったお仕事なの。兎に角、いつまでも厨二病をこじらせてないで、更生して頂戴。」
やはりこの女は光の国の者に違いない。
完全体でない今がチャンスと踏んで我に近づいてきたとしか考えられない。
「戯けた事を抜かすな!我には成すべきことがある。悪魔界の大元帥サタンを倒し、全てをこの手に入れるのだ!!故に貴様の相手をしている暇はない。我の前から去れ!」
強気な我の態度に不満げな女は、ため息交じりで首を横に2~3回振ると、我に近づいてきた。
「構成の余地はないみたいね。仕方ない。悪いけどこれから君には施設に入ってもらいます。勿論、君のご両親も了解済ですから安心なさい。って事で、吉田英雄をこの場で拘束する。確保!!」
女の掛け声と共に、何処からか現れた黒服が我を取り囲み後ろから羽交い絞めにする。
その後鳩尾に一発いいパンチを貰うと、我の記憶はそこで途切れた。
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どれだけ気を失っていたのだろうか?
「痛っつ!」
鳩尾の辺りにはまだ少し痛みが残っていた。
「あら気が付いたのね。ちょうど良かったわ。もうすぐ到着よ。」
気が付くとワンボックスタイプのバンの後ろ乗せられていた。
「我をどこへ連れてゆくきだ!?降~ろ~せ!」
暴れる我の髪の毛を掴むと、そのままガラスに額を叩きつける。
「キャンキャンとうるさく吠える駄犬だね~。これから君は厨二病患者を更生させるための施設へ連れてゆく。その名も厨二病棟だ。そして私達は厨二患者更生委員会の者。なお、当更生委員会は公安調査庁の直轄で、破壊活動防止法、団体規制などの法令に基づき、公共の安全を図る事を任務歳、厨二病患者への観察処分の実施や、厨二病患者に対する情報収集と分析を行う治安機関であり情報機関である。簡単に言うと、アンタらバカの為に国が動いてんの!この国の将来を嘆く上層部は、間違った方向に進もうとする若者を更生させる事により、未来のこの国をより良き国とする為に日夜努力してるのよ!で、ここは山梨県の深い森の中。ここは人里離れた場所にあるわ。敷地内には有刺鉄線を張り巡らせた背の高い壁。厳重な警備。まずここから抜け出すのは難しいわ。ここから一日でも早く出たいと願うなら、さっさと構成する事ね。ほら、そうこう言っているうちに施設が見えたわ。」
この女が言う通り、背の高い塀は有刺鉄線が張り巡らされており、脱出は非常に難しく思えた。
守衛が近づいてきて、一言二言話をすると、目の前の鉄格子は鈍い音を立てながらゆっくりと開き、我らを乗せたワンボックスカーは施設の敷地に飲み込まれていった。




