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◆恵美の訪問◆きっかけはその日

未来番外編です


20130225

☆☆☆


 珍しい客人が来た。

 と、弥也子は思った。


 いや、本人はそんな積もりは無いだろうが……この女性は非常に出無精だから、滅多に外出なさらないのよね。


 多分、ご自身で出掛ける先は、我が家か、せいぜい涼子様のお宅くらいだろう。

 もちろん私達の方から伺う事も有るから、彼女が訪ねて来るのは、年に片手に満たない数でしか無い。


 充分に、珍しい客と云えるだろう。


 弥也子は、それが今月に入って二度目の訪問だからこそ驚いたのだ。


 連絡を受けた時も、勿論出迎えた今も、そんな感慨など微塵も見せなかったが。


「突然ご連絡して訪問するなんて、失礼では無かったでしょうか?」

「とんでもないですわ。恵美様なら、いつでも大歓迎でしてよ。お一人ですの?」

「ええ。何分急な事でしたから、後からいらっしゃると。」


 恐縮する風情の恵美に、弥也子はニッコリと天使の微笑を浮かべた。


 二人共ゆったりと優雅な口調と物腰で、似た者同士のお嬢様。

 端から見たらそんな風にしか見えない。



 そして、紅茶等飲み乍ら暫くは世間話が続いた。


「涼子様はいつ頃と仰有いましたの?」

「小一時間と……涼子様にも、申し訳ない事です。」


 では、やはり涼子も恵美が誘った訳だ。

 弥也子は内心思いつつ、飽くまでも優しい微笑みを崩さない。


 恵美は様式美を愛するから、いきなり話を振るのは不躾だろうと控えていた弥也子である。

 そろそろかと思いつつ、涼子を待つべきかな?とも思う。

 触りだけなら支障は有るまい。

 結局そう結論した弥也子は、ふんわりと優しい天使の笑みを浮かべた。


「何かございました?」

「……。」


 優しい笑みを見せれば、恵美は虚を突かれた表情で眸を瞬いた。


「ねえ、恵美さま?何があったのかしら。」


 再度問えば。

 魅入られた様に、恵美は白状する。


「お尋ねしたい事がございまして。」


 恵美は弥也子の笑顔に弱い。

 弥也子に弱いと云っても良いが、特に天使の様なその笑顔に促されれば、手も無く従ってしまうのだ。


 そこだけ見れば、ちょろいとも思うが、基本的には本音を見せないのが最早第二の習性的な手強い相手だったりもする。

 幼少時からの付き合いで、どんなに相手が自分に傾倒しているか弥也子は知悉していたが、だからと云って扱い易い等と思った事は無い。


 彼女を大人しいだけの女だと云う人間が居る事を弥也子は知っていたが、彼等は見る目が無いとしか云い様が無い。


 何故この女性が、自分に引き比べて平凡だ等と云えるだろう。

 後から来る涼子もだが、二人共己を知らないにも程が有る。

 そう思う弥也子もまた、二人に比べたら自分には然したる才能が無い……等と考える辺り、似た者同士と云えた。


 社交の場で、今やこの三名の女性を憚る事無く振る舞える者など存在しない。弥也子等は女帝とも称され、その事を本人も知らぬ訳でも無かったが、その理由を山瀬の存在が故と捉えていた。


 そもそも何故、自分が女帝なのか?

 弥也子には意味不明であった。

 山瀬が帝王なら女帝は奥方で良かろう。

 それがダメなら恵美でも涼子でも良いではないか。

 しかし、恵美も涼子も当然の様に、他の二人の名前を挙げ、更には「やはり弥也子様が相応しいでしょう」等と宣った。

 それを受けて、聖野は山瀬と同様のバックアップを弥也子にも向けたのだ。


 弥也子は正直迷惑だった。

 今でも恵美と涼子に押し付ける気満々だった。

 取り敢えず、社交の場で三女帝と呼ぶ者が居るのは、弥也子の地道な工作故である。


 自分に、女帝だなどと怪しげな呼び名を押し付けた女に、手加減は無用である。


 弥也子はおっとりとした口調で恵美に話し掛ける。恵美の大好きな天使の笑みも、惜し気もなく振り撒いた。

 その話を聞いた所為で、『三女帝の一人』から単なる『女帝』と、唯一の存在として『この世界』に名を馳せる羽目になるなどとは。


 弥也子が未だ知らないままの、倖せな時間だった。


 この場合、倖せとは。

 平穏や平凡と云う別名を持つが。


 そもそも弥也子にソンナモノは無かった。

 当人以外は知る厳然たる事実である。



 災厄は訪問時に気付かないと祓う事も出来ない。後日弥也子は不覚を取った事を悔やむが、それは些か強欲に過ぎると云うものだろう。


 弥也子ですら完璧では有り得ない。


 きっかけになった恵美は、罪悪感に満ちた視線で視つめ。その視線に気付かない訳もない弥也子は、大変不快な思いをする事になるのだが。


 未だこの時点では、定まらぬ未来の話でしか無かった。


☆☆☆





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