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創造世界  作者: looloohuu
出逢い
8/31

第八話

 創造力には、色々得意不得意がある。皆、ある程度は同じ創造が出来るが、個々によって、強度や種類は大幅に違う。例えば、カドレアは大剣、ヨハネスは身体、ロックは楽器、のように。ナキはといえば、なんというのだろう、武器のようなものより、防御が得意だ。それも透明なものであり、色合いも珍しい。というより、透明な創造物なんて、ナキ以外にいるのかどうか。ミスト先生には珍しいらしく、隅々まで調べられた。

 そのことを思い出しながら、獅神ライギルドの仮面を見る。アイザが、一緒に商都ナミアの商店街に行った時にくれたものだ。これを見るとアイザのやかましい顔が浮かび出して、気が楽になったりする。


 「そういえば、アイザさんとは遊んだの?」


 仮面を見ていると、ロックも同じく仮面を見る。あの時にアイザを見て、中々衝撃だったようだ。第一印象があれなのだから、当然だろう。


 「いや、ナンシアに帰ってたよ。あの時兵舎に帰ったら、手紙があってさ」


ーー両親は早く仕事がしたいそうなので帰ります。お父さんもお母さんもナキも、本当に情けないです。もう怒ったので、次会った時にナキを殴ります!それじゃあ!


 この兵舎はナンシアとは程遠く。訳あって辺境にあるので、中々来れない。

 アイザがまた来れるのがいつかは分からないが、その時は甘んじて拳を受けるしかないだろう。アイザのおかげで、一歩進めたのだから。


 「時間だよ」


 そう声をかけてくれたのは、ヨハネス。昨日ナキと試合をして、勝った相手だ。ヨハネスはいつも通りの笑顔で二人を呼んでいる。まるで昨日のことなど無かったようだ。ヨハネスに殴られた鼻面が、更に痛む。

 

 「もうこんな時間かー」


 ロックが気も無しに寮を出ようとするのを見て、気がつく。

 もしや、勘繰っているのは自分だけではないか。


 「ナキ君?」


 ヨハネスは不思議そうに首を傾げる。それを見て、やっぱり確信する。


 「お前...俺のこと嫌い?」

 「...はっ」


 巻かれた包帯の間で目を窄め、吐き捨てるように寮を出ていくヨハネス。そもそも、ヨハネスの毒気を感じているのはナキだけだ。それ以外の人間には、とても優しいヨハネスであって、なんなら聖人君主とでも言われていいくらいの人徳もあって...。

 つまり。やっぱり。


 「理由をおしえてくれないか...」


 獅神ライギルドの仮面を見つめながら、嘆息する。  

 本当に、こういう時は、どうすれば良いのだろう。


 ◯


 「ナキさん!昨日は有り難う御座いました!」

 「へ?」

 

 寮を出ると開幕に、ニャニャッチがお辞儀をする。腰は九十度に曲がっていて、とても綺麗なお辞儀ずまいだ。

 素っ頓狂な声を出したナキに、ニャニャッチが顔を上げる。


 「あんな白熱した試合、そうそう観れませんよ!とっても勉強になりました!」


 その笑顔はきらきらと、太陽みたいに輝いている。昨日と言えば、ヨハネスとの試合である。あの試合は、確かに白熱だったと思うのだが。

 既に皆、兵舎の外広場に集まりかけている。ニャニャッチと一緒、慌てて走り整列をする。少しの沈黙の後、トラル教官が咳払いした。


 「順位を発表する」


 言われて思い出す。今日は、順位の発表だ。この順位は、生徒達の一大行事である。順位が高ければ高い程、強いということだ。強いということは、王の役に立てるということだ。


 「十位、モラリャン」

 

 順位は、十位から一位までしか発表されない。それ以降は、貼られた紙に頼るしかない。全員が、モラリャンを意識する。モラリャンはといえば、顔を渋面に、俯く。一位でなければ意味がない。強くなければ、意味がないのだ。


 「七位、カドレア」


 名が、着々と呼ばれる。この発表で痛感する。自分がどれだけ至らないかを。


 「三位、ヨハネス。二位、ナキ」


 はっと、目を見開く。トラル教官の言葉を、二度三度、反芻する。

 前のナキの順位は、二十二位。

 今回の順位は、二位。

 ふと、ヨハネスを向いた。同じくヨハネスも、目を見開いている。

 ヨハネスの顔が、こちらに向かれた。


 「一位、ジキラ」

 「...」


 その目は、憎悪に塗れていた。


  ◯


ロジバルトの奇怪さに、価値観に、ほとほと憤慨する。彼等の性質に、吐き気を催した。

 こんなくだらない価値観に殺されてたまるものか。


 「ふざけるな...!ふざけるなぁ!!」


 呻いても叫んでも、腹から溢れる血液は止まらない。寧ろ増えるばかりで、命の灯火は薄まってゆく。

 怒りを抑えるように、地面に頭を乱打する。それを止める者は、男の周囲にはいない。


  ◯


 目を開くと、煌々とした天井灯が瞳に直撃した。眩しくて頭を振る。目を落ち着かせてから、周りを見る。


 「夢....」


 夢を見た。いつもの風景に身を落ち着かせながら、目を瞬かせる。夢に見た景色は、こことは全く違う。あれは、何だったのだろうか。


 「あ、起きてる」


 そうこうしていると、ロックが上段から顔を覗かせる。


 「おはよう」

 「今日は雨だねぇ」

 「あぁ」

 

 窓を見ると、大きな音をたてながら、滝の様な大雨が降っていた。なんだか不安になりながらも、心を切り替える。雨が起きても、兵舎は変わらず回るのだ。


 「寝てる時、うなされてたけど大丈夫?」

 「俺が?」

 「うん。うぅぅぅぅって」


 ロックが鬱々とした顔を披露した。目を瞑って、口を苦しそうに引き結んでいる。


 「不吉な予感だねぇ」

 「...」


 ロックの言葉に耳を傾けながらも、あの夢のことを思い出そうとする。所々は思い出せるのだが、具体的に、仔細に思い出そうとすると、煙の様に消え去ってしまう。夢とはつくづく曖昧だ。不安に思いながらも、未だ逆さまに身を置いているロックに顔を向けた。


 「その体勢、苦しくないか?」

 「え?....ぅっ」


 ナキの言葉に、ロックは閉口する。みるみる顔が赤くなり、苦しそうに呻き出した。今気付いたと言わんばかりの豹変ぶりが、とても面白い

。

  ◯


 滝の様な大雨が、服にも靴にも、総身に降りかかる。見惚れるくらいの暗雲で、昼間だというのに空は薄暗い。

 そんな中生徒達は、悪物と対峙していた。


 「キシャァァァ!!」


 ナキもまた、泥まみれの軍靴を操って、黒猩猩と対峙する。

 解き放たれた黒猩猩は、凶暴性を隠そうともせず、ただ怒りに身を任せた大振りをナキに連発する。

 発達した腕がナキを襲う。それでもそれは当たる訳もなく、簡単にナキを懐に入れてしまった。黒猩猩のお腹の辺りに掌を押し付け、創造する。光り輝く透明な刀身を。

 

 「ガッ..アッ...」


 掌から刀身が発現する。それは直ぐにどすぐろい擬音に代わり、黒猩猩の弱々しい鳴き声が、この身に降り掛かる。すぐに離れて、息絶えた黒猩猩を見下ろした。死んだのを確認して、周りを見る。同期達が、繁殖した黒猩猩を殺している。その光景は、惨殺という言葉がとても似合っていた。惨い、とは思うが、必要なことだと割り切っている。

 ここは、悪物園である。動物園ではなく、悪物園悪魔の呪いに掛けられた動物の園だ。悪魔の全身から発せられる瘴気に呪われた動物は、例えばこの黒猩猩のように腕が異常に発達したり、異様な性質が体のどこかに現れる。

 だから、見物して楽しむ、普通の動物園ではないのだ。ナキのような想起士見習いの肩慣らしの場である。


 「よし」


 気付けば、半年が経っていた。悪物との戦闘は慣れてきたし、もう平気だ。着実に、想起士への階段を上がっていた。

 ただ。

 あの時を境に、夢を意識するようになったのだ。

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